▲デビュー30年目での悲願のGI制覇!林満明騎手が喜びを語ります
6月のゲストは、中山グランドジャンプを勝利し、デビュー30年目で悲願のGI制覇を果たした林満明騎手です。芦毛のアップトゥデイトと挑んだ一戦。馬にとっては初めてのGI挑戦でしたが、終わって見れば圧巻の大差勝ちでした。林騎手は、競馬学校の第1期生という超ベテラン。今回のインタビューでは、30年間の騎手人生を振り返りつつ、平地免許返上への覚悟や、GI勝利に隠された熱い絆の物語など、たくさんの秘話も明かされます。(取材:赤見千尋)
最初は物見のきつい馬でした
赤見 中山グランドジャンプ制覇、おめでとうございます。デビュー30年目での初めてのGI制覇となりました。レース後インタビューでもそうでしたが、こみ上げるものがありましたか?
林 そうですね。30年間勝てなかったのでね。「やっと勝てた」という感じです。長かったですね。終わってみれば、レースでは強い勝ち方をしてくれたんですけど、乗っている人間はいっぱいいっぱいでした(苦笑)。
赤見 本当に強かったですよね。後続を寄せ付けない大差勝ち。圧勝でした。
林 それだけに、その前の阪神スプリングJ(JGII)で負けてしまったのが(4着)、恥ずかしくなりますね。
赤見 アップトゥデイトが障害入りしたのが、去年の秋でしたよね。今回が6戦目、初めてのGI挑戦での勝利だったわけですが、これだけ順調に登りつめたということは、その過程もうまくいったのかなと思うのですが?
林 そうですね。最初はね、とにかく物見がきつかったんですよ。背中はバネの利いた感じだったんですけど、印象は正直「普通の馬かな」というくらい。障害練習を始めて1週間目は、その程度の感触でした。とにかく物見が気になりましたね。
赤見 やっぱり慣れないコースですし。
林 ええ。これまでと違うコースですし、障害練習っていろいろな物が置いてあるので、馬も不安だったんでしょうね。慣れて来たらすごく素直に飛び越えたんですよ。練習2週間目には、かなりいい飛びが出来るようになりました。それで「もしかしたらこの馬、化けるかもな」って思ったんですよね。
赤見 飛越に関しては最初から上手だったんですか?
林 上手というより、慎重なタイプなんですよね。最初はおどおどしてたんですけど、練習をして自信を付けるたびに、すごくいい飛びが出来るようになっていったんです。本当に慎重で繊細なタイプなんだと思います。
赤見 最初に物見をしたっていうのも、そういうところからだったんですね。初めての実戦は、小倉での未勝利戦でした。
林 ここは正直、勝てる自信があったんですけどね。3コーナーでもったままでハナに立ったら、最終障害で物見をしてしまった。で、ブレーキを掛けてる間に抜かれて行ってしまって、結局2着に負けてしまいました。あれはちょっと失敗…
赤見 強いだけに。
林 ええ。強いだけに、スピードに乗って早めに先頭に立ってしまった。それで大事な時に慎重な面が出てしまいました。
赤見 何を見たんですかね?
林 最終障害です。障害自体を見て、それがスタンド前でお客さんもいたので、余計に馬が用心してしまったんですね。
赤見 悔しいデビュー戦だったんですね。それでも、2戦目できっちり初勝利を飾りました。それも2.5秒差という大差勝ち。
林 この時は阪神でね。やっぱりここでもスピードの違いでハナに立ってしまって、「今回もきっと物見するわ」と思ったら、1度レースを経験したのもあってか、多少の物見はしながらでも、ぶっちぎって勝ってくれたんです。「この馬はやっぱり違うな」って思いましたよ。
赤見 じゃあもう、この辺りで「ものが違うな」と?
林 いやいや、最初に感じたのはもっと前ですよ。それこそ、練習を始めて3週間目くらいかな。
赤見 えっ? 障害試験を受ける前ですか?
林 そうそう。試験を受ける前に「この馬は大きいところも目指せるな」って。それは何でかというと、飛びがいいし背中もいいし、あとは心肺機能の高さですかね。どんな長いところを乗ってもへこたれない。息を切らさないんですよ。これ、いつも言ってるんだけど、「僕のゴールドシップ」って(笑)。
▲芦毛のアップトゥデイトは「僕のゴールドシップ」
赤見 僕のゴールドシップ!
林 そう(笑)。厩舎のスタッフも言ってるんですよ。
赤見 かわいい〜。「僕のゴールドシップ」は、性格はどうですか?
林 性格ですか? とても素直ですよ。あぁ、そうか。向こうはね(笑)。
赤見 ちょっと俺様っぽい感じですもんね(笑)。
林 僕のゴールドシップも、やんちゃな面はありますよ。レースでも平地コースに入ると引っ掛かったり、追い切りでもテンから掛かって行くようなところはあるので。でも、そこまで悪いことはしないですね。
赤見 アップトゥデイトって、障害に入る前はダートで活躍してましたよね。全日本2歳優駿(3着)とか兵庫ジュニアグランプリ(2着)とか、大きなところでも。
林 そうですね。ダートの短いところを走ってきた馬っていうのは、わりと障害向きなんですよ。力があるしスピードもあるし、器用な面もありますしね。好みですけど、平地の長いところを走ってきた馬より僕は好きなんです。
焦らず着実に頂点を狙おうと
赤見 レースの話に戻しますと、未勝利戦と次のオープンを連勝しました。
林 ええ。その次が、年明けの中山新春ジャンプS(OP)だったんですけど、これはちょっとヒヤッとしました。かなり人気にもなりましたしね。ただ、もうだめかなというところでまた盛り返してくれて、最後はなんとか2着に食い込んでくれました。根性があるところ見せてくれましたね。毎回レースで違ったところを見せてくれる、奥の深い馬です。
赤見 連勝でオープン入りして、暮れの中山大障害に出したいなという思いはなかったんですか?
林 そういう話もありましたね。ただ、何と言っても中山の大障害コースは特殊ですから。佐々木先生と僕の意見としては、一度中山を経験させた方がいいんじゃないかっていうことで。それで暮れは使わないで、年明けに一度中山を使ったんです。
赤見 それで、大一番を春の中山グランドジャンプにしようと。やっぱり大障害にぶつけるためには…
林 いろいろ経験させたいですね。特に用心深いところのある馬ですからね。結果は2着に負けてしまいましたけど、バンケットを経験させられたのは大きかったです。
▲いったんは先頭に立つも、外からウォンテッドに差されて2着
赤見 やっぱりバンケットがあるとないとは違いますか?
林 馬にもよるんですけど、慎重なタイプだけに、この馬の場合は違ったでしょうね。バンケットってね、まっすぐ下りるのが一番怖いんですよ。斜めに下りるならいいんですけど、まっすぐは乗っていても怖い。
赤見 谷底に突っ込んで行く感じですもんね。
林 そう。斜めだったらね、案外楽なんですよ。斜めに上がったり、下ったりするのは大丈夫。だけど、まっすぐっていうのが怖いんですね。それは馬もそうだと思うので、やっぱり大障害に挑む前に、中山を経験できたのはよかったと思うんですよね。(文中敬称略、つづく)