「出れば勝てる」ノンゼロサムの回避を喜ぶどころか悔しがったエレメント/吉田竜作マル秘週報
◆安田調教師「チップが顔に当たってもヒルまないし、いい根性をしています」
先週から新たに2歳馬たちによるクラシックロードが幕を開けた。デビュー前のサラブレッドへのアオリとして「未来のダービー馬」というフレーズが使われるように、皆が夢見るのは1年後の大舞台。真の勝負はまだまだ先だと競馬関係者の誰もがわかっているだけに「急がば回れ」。時には我慢をしなければならないケースも出てくる。
日曜(14日)阪神の芝内1200メートルでデビューを予定していたのがノンゼロサム(牡=父Speightstown、母Winendynme・西園)。マイネル軍団でありながら、その冠号を持たないこの外国産馬は、西園調教師によれば「それだけ特別な存在」。軍団の総帥・岡田繁幸氏の期待を一身に背負っている。ビッグレッドファームの坂路で鍛え上げられて栗東に入厩。オーナーサイドの意向通り、鞍上に柴田大を美浦から迎え、いよいよベールを脱ぐはずだったのだが…。
「5月(15日の遅)生まれもあってか、ヒザの上のくぼみの部分がレントゲンで撮っても透き通って見える。まだ骨が出来上がっていないということ。人間で言うところの成長痛というやつでしょうか」と西園調教師。
先週中に新馬戦出走を断念。放牧に出して再調整されることになった。
「稽古はやれば動くし、ゲートの出も抜群。レースも使えないことはないし、出れば恐らく勝てるでしょう。ただ無理をしたら腫れも出るし、今後にも影響がないとは言えない。使って何かあってからでは遅いので、ここは勇気を持って放牧に出すことにしました。もうゲートも受かっていますし、1か月後に検査をして、そこで化骨できていれば、再入厩させればいい。現状でもこれだけ走る馬ですから。パンとすればもっと走りますよ」
血統的にダービーというタイプではないにしても、目指すところは目の前の新馬戦ではなく、その先の大きな舞台。回り道を選んだノンゼロサムに明るい未来が待っていることを願いたい。
一方で、このノンゼロサムの新馬戦回避を残念がっていたのがルミナスエレメント(牡=父ハービンジャー、母ルミナスポイント・安田)の関係者だ。調教では常に馬の後ろに入れ、ウッドチップをかぶせるようにして我慢することを教え込んできた。「チップが顔に当たってもヒルまないし、いい根性をしています」と安田調教師も2歳馬らしからぬ精神力を高く評価。ノンゼロサムはいいライバルになるはずだった。それも強敵という意味でだけではない。
「西園厩舎の外車はゲートも速いから、まず行ってくれるでしょう。ウチのは前に馬を置いている時は上手に走るし、我慢も利く。ただ外に出すとハミを取ってグッと行く感じは見せても、そこからあまり進んでいかない感じなんですよね。だから速い馬がいて、その後ろにつけられそうなのは助かる」(安田翔助手)とレースを教え込む意味でもライバルの出走を望んでいたのだ。
アテが外れる形となってしまったが、追い切りを見る限りはおかしなクセもなさそうで、他馬の後ろにつけるのは造作もないはず。現段階ではノンゼロサムの代わりに勝つのは、このルミナスエレメントではないかとみている。