小倉初陣ワンカラットの初子にドラマの予感/吉田竜作マル秘週報
◆中竹調教師「勝って2歳ステークスに行きたいね」
今週から函館開催がスタート。大スポからは難波田記者が「待ってました」とばかりに喜び勇んで北の大地へと飛んで行った。一方でマスコミ関係者以上に待ちわびていたのはキュウ舎関係者。これから大きくなるイカや、こちらに帰ってくるころに旬を迎えるメロン、みずみずしい夏野菜など、おいしいものがいっぱい…ってことではなく、サラブレッドたちにとって最高と言える環境でレースができることを何より望んでのこと…としておこう。
そんな中、中竹キュウ舎からはブランボヌール(牝=父ディープインパクト、母ルシュクル)が栗東トレセンから函館競馬場へと入キュウした。
トレセンで最初に見た印象は「背が低い割に幅がある」。このあたりは2歳時にオープンのすずらん賞(08年)を勝った母譲り。とはいえ、まだ筋肉のつき方などは子供っぽく、顔もかわいらしい。まだ本格的な調教に移行するのは少々かわいそうかなと感じていたが、それは中竹調教師も同じだったようで「見てくれはちゃんこいし正直、大丈夫かなと思っていた」そうだ。
だが、函館でまたがって認識がガラッと変わったという。「歩き始めの一歩で“おっ”って感じに。それくらい、いい踏み込みをするんだ。小さいけど、乗ったらサイズを感じさせないし、いいバネをしている。これは走ると思う」と大絶賛。
函館3日目(27日)の芝1200メートル(牝)に岩田でデビュー予定で「勝って2歳ステークスに行きたいね」とトレーナー。母ルシュクルが6着に敗れた函館2歳Sを“長女”が制するか注目してほしい。
◆藤岡調教師「手先が軽くてスピードがあるからね。小倉のような馬場の方が合うんじゃないかな」
もう少し先の話になるが、函館とは対照的に強烈なお天道様の下で行われるのが小倉開催。とはいえ近年は夏の小倉からも著名馬が多数出るようになった。もちろん2歳の若駒にとっては函館、札幌の方がいい環境なのは間違いないが、競馬は何も涼しい時期や場所だけで行われるものではない。暑さとの闘いを早い時期に経験することで、長い競走生活を戦い抜く強さを身につけることもあるのだろう。
ワンカラットは08年8月に小倉でデビュー。芝1200メートル新馬戦を勝ち上がり、牝馬クラシック戦線でもタフに走り続けた。勝ったフィリーズレビューも強かったが、記者にとっては桜花賞(4着)が今でも印象深い。2着レッドディザイア、3着ジェルミナルだけでなく、あのブエナビスタ相手に内からもしやというシーンをつくったこのワンカラットもいたからこそ、あれだけの名勝負になったのだと思う。その後はスランプに陥る時期もあったが、見事に復活し牡馬相手に堂々スプリント重賞3勝を挙げた。
で、本題はそのワンカラットの初子ワントゥワン(牝=父ディープインパクト・藤岡)。すでに栗東トレセンに入キュウ済みで、デビューに向けて着々と調整が進められている。今の時期なら中京デビューも視野に入るところだが、藤岡調教師は母と同じ小倉デビューをハッキリと見据えている。
「手先が軽くてスピードがあるからね。小倉のような馬場の方が合うんじゃないかな」と馬場適性をその理由に挙げるが、もちろん理由はそれだけではない。「新馬を勝った後は小倉2歳Sを使って、こちらに帰った後ファンタジーSに向かうのもいいんじゃないか」
トレーナーが挙げたのはいずれも母ワンカラットが勝てなかったレース。昨年亡くなった母の無念をという思いが、この熱血トレーナーにはあるのだろう。さらに続ける。「来年の使いだしはもう決まっているんだ」。これは記者にもわかる。「フィリーズレビューから桜花賞でしょ」と返すと藤岡調教師はニヤッと笑った。
競馬は賞金のために経済動物がただ走っているだけではない。様々な人の思いがそこにはある。人間ともの言わぬ動物がその濁流を懸命にもがいて生き抜こうとするから換金不可の魅力的なドラマが生まれるのだ。
POGで指名した人も、そうでない人も、ワントゥワンから競馬の奥深さ、血の重みを感じてほしい。