種牡馬トワイ二ングの夢
2番人気に支持された
ノンコノユメ(父トワイ二ング)の切れ味爆発。締まった走りやすい稍重のダートを味方に、上がり35秒5。1分35秒9の好タイムで圧勝した。ユニコーンSが東京ダート1600mで行われたのは今年で16回目になるが、史上4番目の好時計である。
スローだった2歳秋の新馬ダート1600mを上がり35秒6で差し切ったノンコノユメは、5月の青竜Sを、3歳馬のダート1600mではめったにない上がり34秒7で直線一気を決めるなど、ダート戦とは思えない「切れ」を発揮するジャープなダート巧者。これで東京ダート1600m【3-0-1-0】となった。
東京ダート1600mといえば、G1「フェブラリーS」だが、ユニコーンSの好走馬では、2003年ユートピア、2005年カネヒキリ、2010年バーディバーディ、2011年グレープブランデー、2013年ベストウォーリア…などが、のちのフェブラリーSでも快走、好走している。ノンコノユメはタイプとするとフェブラリーS向きと思える。
父トワイ二ング(その父フォーティナイナー)は、1995年にアメリカで種牡馬入りのあと、シャトルも経験しながらやがて日本に輸入されて長く活躍したが、近年は交配数が減少し、今年はもう24歳。これまで多くの重賞勝ち馬を送っているが、記録をみると海外でもG1勝ち馬には恵まれていない。種牡馬として晩年の代表産駒となったノンコノユメは、山田オーナーの夢だけでなく、種牡馬トワイ二ングの夢をかなえてくれるかもしれない。
母ノンコ(父アグネスタキオン)は、輸入牝馬ビューパーダンスの孫世代になり、種牡馬ハーツクライと「いとこ」の間柄になる。最初、そのシャープな切れ味と馬名から牝馬と間違われることも珍しくなかったノンコノユメは、一段とバネを感じさせる鋭さを身につけ、フットワークが大きくなった気がする。これで鞍上とは【2-0-0-0】。最初「ダート戦の感覚はちょっと難しい」としていたC.ルメール騎手は、ベルシャザール(ルメール騎手とは、JCダートなど日本では3戦3勝)のころから、ダート戦はむしろ得意にする印象もある。
このあとは、7月のジャパンダートダービー(大井2000m)の予定とされるが、距離2000mの統一重賞で好走し、公営のダートを克服するとき活躍の場は一気に広がる。
一方、断然の1番人気に支持された
ゴールデンバローズ(父タピット)は、中団の外で砂をかぶらない絶好の追走になったが、直線の反応は鈍く、最後は4着止まり。勝ったノンコノユメには(約5馬身、0秒8)もの差をつけられる完敗だった。
体調そのものには少しも問題はなく、能力を出し切れる状態をみんな確信したが、やはり「海外遠征帰りの、休み明け」が隠れた敗因ということか。まだキャリアの浅い春の3歳馬にとり、海外遠征はさまざまな部分で貴重な経験となり、そのあとの競走生活に大きなプラスをもたらすと考えられている。より強いタフな相手と対戦することは、ゴールデンバローズにとっては大きなプラスを生むと期待された。ドバイのUAEダービー1900mの3着も、わたしたちにとっては決して悲観する結果ではないと映ったが、それまでダート【3-0-0-0】。それもすべて圧勝だったゴールデンバローズにとっては、9馬身(1秒6)もちぎられたUAEダービーの衝撃は大きかったにちがいない。相手にしてもらえなかったからである。
ドバイ遠征前のヒヤシンスSとの比較でプラス10キロの「518キロ」の馬体は、これは見る側の主観ひとつだが、「あれ、こんなにスッキリ映る体だったかな」。筋肉モリモリとされたが、当日は余裕残しというより、全体に迫力を欠く馬体だった。ゴールデンバローズは、(本当の内面は)元気ではなかったのかもしれない。完成された古馬になり、まして功なり名遂げてからの海外遠征は意味がなく、同じ遠征なら3-4歳馬の挑戦のほうが大きな意義があるのはたしかだが、キズナやハープスターではないが、完敗しすぎると、ときにダメージを被る危険も大きいのではないかと感じた。たまたまかもしれないが、同じドバイ帰りのタップザットは、後方でまったくレースに参加できないまま13着だった。
ノボバカラ(父アドマイヤオーラ)は、雨で締まった1月の東京ダート1600mを1分36秒2で乗り切っていたように(今回は1分36秒3)、スピード系のダート巧者らしく、今回の馬場コンディションは合っていた。もまれない外枠も有利だったろう。抜け出した直線の中ほどでは、「やったか…」のシーンもあった。ノンコノユメの1分35秒9も、2着ノボバカラの1分36秒3もさして速くないように映るが、直前の古馬1000万下の特別が「1分36秒0」の勝ち時計で、2-3着馬は「-3馬身-3馬身」差だった。勝ったクライスマイルも、2着ノースショアビーチは5月までは古馬オープンであり、3着グランフィデリオは1600万条件だった力量馬。その「青梅特別1000万下」でも2着に相当するノボバカラの時計は、したがって、少しも遅くない。ちょっとずんぐり体型で、適距離は1600m以下とは思えるが、今回のようにスピード能力がフルに生かせる条件がもっとも合っている。
アルタイル(父カネヒキリ)は、うまくタメを利かせて最後にゴールデンバローズとの3着争いに競り勝った。ハデなタイプではないが、中身が1戦ごとに階段を昇るように良くなっている。不屈のチャンピオン=カネヒキリの一番いいところを受けついだように思える。
ブチコ(父キングカメハメハ)は、失速の5着とはいえ、男馬のライバル相手に途中からハナに立ち、前半1000mを「58秒9」で飛ばした結果だから、中身は十分すぎる。プラス6キロで戻った馬体は、まだまだ細く映った。これでタメが利き、差す形が取れたなら、もっといい勝負だったろう。ブチコも、ノンコノユメと同じように馬力型のダート巧者ではない。追っての味を生かせるように進化したい。ブチコのような牝馬は、最近では難しいことかもしれない(まして除外の危険大だったから仕方がない)が、手の合う絶妙の騎手を確保したいものである。
3歳馬にとって、東京ダート1600mの芝からのスタートは鬼門のひとつ。慣れていてもダート巧者には出負けがある設定だから、今回の
アキトクレッセントのように出足をつけて行きたいと構える人馬ほど、こういう出遅れがある。行った馬は好走できたから残念だったろう。