ベガから約20年…調教師生活の最後の年に、松田博師とアルーリングハート運命の出会い/吉田竜作マル秘週報
◆松田博調教師「『無事にデビューできそうになったら預かってください』と言われていた馬なんだ」
なかなかの好メンバーが揃いそうなのが3回中京2日目(7月5日)の芝1400メートル(牝)新馬戦。フラガラッハの半妹エスティタート(父ドリームジャーニー、母スキッフル・松永幹)とイイデシロ(父ファルブラヴ、母イイデサンドラ・北出)が一歩リードと見ていたが、ここに松田博キュウ舎のリーチザハイツ(父ディープインパクト、母ドバウィハイツ)が殴りこんでくるかもしれないのだ。正式には今週の追い切りを見て決断することになるが、「栗東に来てからもずっとおとなしいのがいいところだな」と松田博調教師も好感触。その動向に注目してほしい。
実は今週の本題はここから。先日、その松田博キュウ舎に新たに1頭の牝馬が入キュウした。アルーリングハートだ。父はダイワメジャー、母は小倉2歳S、ファンタジーSと重賞を2勝したアルーリングボイス。この母だけでなく、弟妹、近親まで堅実に走る血統として競馬ファンによく知られているが、この血統のもう一つの特徴が愛馬会(社台RH、サンデーレーシング)の募集馬が多い点。堅実駆けで値段がつけやすい安心感がこうした傾向になっているのだろう。アルーリングハートの半姉クリーミーボイス(父キングカメハメハ)も社台RHで募集された馬だった。
しかし、アルーリングハートは吉田和子オーナー。「オッ」と思った方は競馬歴、POG歴の長い人だろう。故吉田善哉氏の夫人にして、松田博キュウ舎の礎を築いたベガのオーナーでもあった。
「当歳の時だったかな。骨の病気で外科的な手術をしたんだ。手術がうまくいったかなんてすぐにわかるものではない。だから『無事にデビューできそうになったら預かってください』と言われていた馬なんだ」(松田博調教師)
社台RH、サンデーレーシングが募集をかけるのは1歳春の時点。クラブからすれば“手術後で無事に育つかどうかも怪しい”馬に募集をかけるのはためらわれる。実際、松田博師が“ゴーサイン”を受けたのも、この春に牧場に足を運んだ時だったという。
「もう大丈夫だから連れて行ってくれ、と。それからこちらの方に出発したんだ。この馬はノーザンホースパークの近くにあるパイオニアファームというところで初期馴致をしていてな。そこのエイドリアン(同牧場の場長で、ノーザンファームのキュウ舎長を務めていたこともある)が言うんだから大丈夫なんだろう」
アベレージの高い血統だけに走るかもしれないが、売り手とすればリスクの方が高い。それゆえ、クラブでの募集という形でなく、吉田和子名義となったのだろう。
「これから強い調教をやってみて(手術したところが)どうなるか。用心するに越したことはない」と慎重な姿勢を崩さないトレーナーだが、深い“縁”を感じている。
「ベガのおかげで今がある」が松田博師の口癖。同じ吉田和子名義で走るこのアルーリングハートに「調教師生活最後の年にまた和子奥さんの馬を預かれるんだからな。巡り合わせというか、何というか…」と感慨深げ。最後の年に“恩返し”となるか。とにかく無事を祈りつつ、アルーリングハートの今後に注目していきたい。