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ムーアの怪我、ヒューズの引退で様相がガラッと変わった英国リーディング争い

  • 2015年07月22日(水) 12時00分


今季からルールが変わり5月第1週から英国チャンピオンズデイの10月3週目までが期間に

 エイダン・オブライエン厩舎の主戦で、英国のリーディングでもトップの座にあったライアン・ムーア(31歳)が、9日にニューマーケット競馬場で行われた最終レースで、騎乗馬がゲート内で立ち上がり、上部のパイプで頭部を強打。ケンブリッジの病院に搬送されて検査を受けた結果、首のむち打ち症と診断され、少なくとも秋まで戦線を離れることになった。

 更に、2012年から2014年にかけて3年連続で英国リーディングの座にあり、今季も7月18日現在で3位につけていたリチャード・ヒューズ(42歳)が、今季一杯で引退という当初予定を早めて、グロリアス・グッドウッド(7月28日〜8月1日)終了後に、シーズン半ばにして現役を退くことを表明。

 実力者ふたりを突如として欠くことになり、様相がガラッと変わることになったのが、英国のリーディングジョッキー争いである。

 ムーアの戦線離脱後にムーアを交わしてリーディング首位に躍り出たのが、7月18日現在で55勝を挙げているシルヴェスタ・デスーサ(24歳)だ。

 ブラジルのサンパウロで10人兄弟の末っ子として生まれたデスーサは、18歳の時に祖国で騎手デビュー。2シーズン目に見習い騎手チャンピオンとなっている。22歳の時に、一念発起してヨーロッパに渡り、愛国のダーモット・ウェルド厩舎を中心に騎乗を開始したが、英語が拙かったこともあって騎乗馬に恵まれず、2年後に英国のサースクを拠点とするデヴィッド・ノコルス厩舎に移籍。移籍初年度に27勝を挙げ、出世への足掛かりをつかんだ。徐々に他厩舎からの依頼も増え、2010年には自身初の年間100勝をマーク。翌2011年にはトップトレーナーのマーク・ジョンストンの後援を受け、ナミビアンに騎乗してロイヤルアスコットのG3クイーンズヴァーズに優勝し重賞初制覇を達成。リーディング首位のポール・ハナガンに4勝差に迫る161勝をマークして2位に躍進し、トップ騎手の地位を築いている。翌2012年にはゴドルフィンのセカンド・ジョッキーに抜擢され、ハンターズライトでG1ローマ賞を制してG1初制覇。2013年にはサージャーでG1ドバイデューティーフリー、ファーでG1ロッキンジSとG1チャンピオンSを制覇。そして2014年にはアフリカンストーリーに騎乗してG1ドバイワールドCに優勝している。

 しかし今季は、ゴドルフィンがジェイムズ・ドイルとウィリアム・ビュイックを主戦騎手に指名。契約を切られる形となったデスーサは、フリーランスに戻って騎乗しており、マーク・ジョンストン、デヴィッド・エルスワースらの後援を受け、勝ち星を伸ばしている。デスーサ自身は、「タイトルは意識しない」と語っているものの、大手ブックメーカー各社は、リーディング騎手を巡る賭けで彼を、オッズ2倍を切る1番人気に掲げている。一方、「逆転を目指す」と公の場ではっきりコメントしているのが、7月18日現在で46勝を挙げ、9勝差でデスーサを追うポール・ハナガン(34歳)だ。

 T・コールドウェル厩舎で攻め馬手をしていた父の子に生まれ、14歳の頃から厩舎の調教を手伝うようになったハナガンは、1998年にモルコム・ジェファーソン厩舎の見習いとして騎手デビュー。リチャード・ファーヘイ厩舎のヴィンテージプレミアムでヨークのジョンスミスCを制した2002年、年間81勝を挙げて見習い騎手チャンピオンのタイトルを獲得している。

 同じくリチャード・ファーヘイ厩舎のゴールデンレガシーでG3ファースオヴクライドSを制して重賞初制覇を果たした2004年、年間勝ち星が初めて大台を超える101勝に到達し、トップジョッキーの仲間入りを果たしたハナガンは、2010年に年間勝ち星が191勝まで積み上がり、リチャード・ヒューズを2勝差退けて、自身初の英国リーディングを獲得。翌2011年にも165勝を挙げて、2年連続でタイトルを手にしている。すなわち、デスーサと違って、タイトル争いを勝ち抜いた経験があるのがハナガンである。インタビューに答えてハナガンは、「チャンスがあれば、絶対に狙いに行くべきなのが、リーディングのタイトルだ。関心がないふりを装えば、プレッシャーは軽減するかもしれないが、プレッシャーを克服してこそ手に出来るのがリーディングの栄誉である」とコメント。現在の彼は、シャドウェルのシェイク・ハムダンと主戦契約を結んでおり、これを優先しなくてはならないゆえ、現実的には難しいと思うが、と前置きした上で、「逆転を目指す」と言明している。

 英国におけるリーディングジョッキーは従来、芝の平地シーズンである3月末から11月1週目をタームとして決定していたが、今季からルールが変わり、ギニー開催のある5月第1週から英国チャンピオンズデイの10月3週目までがタームとなっている。変更の理由は、3月から4月にかけて、更には10月も後半になると、世界各国で行われる国際競走に騎乗するトップジョッキーが多く、リーディング争いをしている騎手が本国を留守にするケースが多くなったためだ。

 残り3か月を切った英国のリーディング争いに、皆さんもぜひご注目いただきたい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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