▲今月は北橋修二元調教師との師弟対談。師から見た「騎手・福永祐一」の評価とは
(つづき)
早く一人前になってくれんとな
福永 先生がどれほど腹をくくっていたとしても、馬主さんはもちろん、厩舎スタッフのなかにも、ほとんどの馬に僕が乗ることについて、複雑な思いがあった人もいたでしょうね。
北橋 そうだとしても、スタッフたちには、「祐一が下手くそだとかなんだとか、絶対に外で言うな。言いたければ、直接本人に言え」ときつく言ってあった。これは本当に何度も言った。そうじゃないと育たへんぞって。馬主さんに対しても、「騎手を替えてくれ」と言われたら、「申し訳ありませんが、うちは祐一を育てなければいけませんから、どこかよそに持っていってください」と、そういえる覚悟があったから。
福永 実際、それで転厩した馬がいましたよね?
北橋 いや、「替えてくれ」って言われたことはあったけど、「まぁまぁ、もう1回か2回、祐一を乗せてから考えさせてください」ってお願いしたら、「わかった。頼むな」って。大抵はそれで済んでたよ。
福永 それですら、なかなか言えることではありませんよね…。瀬戸口先生が馬主さんから「福永を替えろ!」って言われているのも、僕、目の前で見たことがあるんです。そうしたら、瀬戸口先生も「だったら、ほか(の厩舎)に持っていってください」と、ためらいもなく言っていて…。
北橋 今はそこまでビシッと言える調教師はおらんからなぁ。ただ、瀬戸口さんもわしも、それが普通やと思っとったから。
▲「今はそこまでビシッと言える調教師はおらんけど、それが普通やと思っとったから」
福永 僕じゃなかったとしても、そこまで言える覚悟がないなら、ジョッキーを預からないということですよね。
北橋 うん、そういうことや。
福永 あと、先生は決して僕のことを褒めませんでしたよね。人前ではもちろん、現役のころは、ふたりでいるときにも。