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シャドウ・飯塚オーナー、角居師らも尽力『引退馬の余生を考えよう』

  • 2015年09月01日(火) 18時01分
第二のストーリー

▲『引退馬の余生を考えよう』に参加している認定NPO法人引退馬協会代表の沼田恭子さん


「名馬だけでなく活躍できなかった馬たちも生きていけるように」


『引退馬の余生を考えよう』という企画展が、8月1日から新潟競馬場で開催されている(※9月6日の新潟開催最終日をもって終了しました)。場所はニルススタンド2階の一角だ。牧場や競馬場、警視庁騎馬隊などで第二、第三の馬生を送る元競走馬たちの近況や、引退馬繋養団体、公益法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナルの『引退名馬繋養展示事業』などの活動内容が、パネルでわかりやすく紹介されている。

 開催初日、2日目併せて300人以上のファンがアンケートに応じた。それ以降も、各週100人前後のファンがアンケート用紙に記入している。

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「足を運んで下さる方は、とても素直にアンケートに答えてくださいます。特に若い方が熱心ですね。アンケートによると、引退馬について知らないという方が半数以上でした。引退名馬繋養展示事業で助成金が出ることに関しては、およそ80%の方がご存知ないということもわかりました」

 と取材した8月22日に受付に立っていた認定NPO法人引退馬協会代表の沼田恭子さんが、初日からの傾向を教えてくれた。つまり、引退した馬たちのその後、生きている馬の現在、引退した馬たちを支援する団体の存在など、多くのファンがその実態を知らないということだ。

「先ほどもパネルの前で『おお、(エイシン)バーリン、生きていたのか』と、言っていた方がいらっしゃいましたよ」(沼田さん)

 取材中には、警視庁騎馬隊で活躍するトウショウシロッコのパネルの前で、しばし佇む男性の姿もあった。「よく馬券を買っていましたので、元気でいるのがわかって良かったです」と、新潟市在住のその男性は笑顔になった。

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▲エイシンバーリンの今を紹介するパネル


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▲警視庁騎馬隊で活躍するトウショウシロッコの様子


 自分が応援していた馬が今どうしているか。ほとんどの人が知る術を知らない。現役の競走馬や種牡馬についての情報は多く出回るが、引退した馬たちの情報は、競走馬登録が抹消された途端、急に少なくなるからだ。むしろ、馬の移動は隠される傾向にあると言っても良い。「引退した馬を追ってはいけない」という言葉を競馬関係者や乗馬関係者から、私も何度か聞いているが、それは食肉へと転用になっている可能性が高いという理由からだとも推察できる。

 そのように情報が乏しい中で、かつて応援していた馬が健在だったと知ったら、エイシンバーリンのパネルの前で思わず声を上げたファンや、トウショウシロッコのパネルの前で佇んでいた男性のように、嬉しい気持ちになるのが人間の自然の感情のように思う。

 中には、引退馬の現状についてかなり理解の進んでいるファンもいる。「人の都合で馬を走らせているのだから、そのお返しは人がちゃんとしなければ」とある男性は熱く語り、栃木県から訪れた女性は自らも元競走馬の里親になっており「このような企画展を大々的に、もっと目立つ場所で開催してほしい」と、訴えていた。

「これまで乗馬クラブや育成牧場でいろいろな馬たちを見てきました。名馬だけではなく、活躍できなかった馬たちも生きていけるようになってくれれば」と話をしてくれたのは、現在茨城県内の育成牧場に勤める男性だ。

 いずれにしてもほとんどの人が真剣な表情で渡されたアンケート用紙にペンを走らせており、展示されたパネルを前に、引退した馬たちについて、何かを感じ、考えるという貴重な時間を過ごしたものと思われる。

 この企画展の主催は『引退馬の余生を考えよう実行委員会』。委員長は新潟馬主会会長の飯塚知一氏で、パネルでも紹介されているが、1998年のフェブラリーSで3着になるなどオープン馬として活躍していたシャドウクリークを自ら北海道の牧場に預託。今年22歳となる同馬は氏の愛情を受け、ゆったりと余生を送っているという。

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▲新潟馬主会会長・飯塚知一氏の紹介パネル


 その飯塚氏のもとに、角居勝彦調教師が主催する一般財団法人ホースコミュニティ、新ひだか町の養老牧場のローリングエッグスクラブ(REC)、認定NPO法人引退馬協会が参加して、実行委員会は結成された。

 企画展開催のきっかけとなったのは、昨年9月14日に新ひだか町で行われた『引退馬ホースサミットin日高』というイベントだった。昨年6月に引退競走馬繋養団体、牧場が集まって『引退馬連絡会』が設立されて、引退競走馬の余生を考える動きがそれまで以上に活性化しつつあると感じていたが、このサミットによってさらに活動の幅が広がっていったように思う。

「企画展の実行委員長の飯塚さんは、ホースサミットでもお話をして下さいました。それで飯塚さんとREC代表の藤澤澄雄さんと、ホースサミットの流れを変えないでまた何かをやろうという話になったんですよね。それで3人で何回か会って打ち合わせをしました。

 角居先生とは、引退馬協会のお話を聞きたいということでしたので、今年の初めに京都で会いました。一緒にやりませんかとお誘いしたら、すぐ参加をしてくださったんですよね。

 会場については、飯塚さんが現在新潟馬主会の会長をされていることもあって、新潟競馬場で企画展を開催しようということになりました」
(沼田さん)

 以前は馬主や現役の調教師が、引退した競走馬の余生の活動に関わるということ自体、考えられないことだった。企画展開催が具体化したのが6月だったが、飯塚氏はリーダーシップを発揮し新潟競馬場での開催を実現し、新潟馬主会からは寄付金が寄せられたという。また角居勝彦調教師はサンクスホースデイズを開催したり、ホースコミュニティを立ち上げるなど、積極的に活動をしている。

「馬主さんや調教師さんが、このような活動をしたいと動いてくれるようになりましたからね。時代が変わったなと思います」、長く引退馬の問題に関わってきただけに、馬たちを取り巻くこの変化に沼田さんも感慨深げだ。

「将来は重賞レースを勝てなかった馬たちに対しても、ファンドを作るなど何らかの援助ができればと考えていますけど、今回はまず引退した馬たちはこうして生活をしていますよとか、引退馬たちについて一生懸命考えて行動している人たちがいますよということを伝えて、知って頂きたかったんです。

 会場の大きさに限度がありましたので、18頭しか紹介できませんでしたけど、広い会場でやれたらもっと紹介できる馬や団体を増やすことができますから。個人で一生懸命されている方にもスポットを当てることができればと思いますし、スポットが当たれば張り合いも出てくるのではとも思うんですよね」
(沼田さん)

 取材中も、レース観戦や馬券検討の合間に切れ間なくファンが会場に訪れては、パネルを熱心に見入っていた。皆、引退した馬について気になっているし、かつて応援した馬がどうしているのかを知りたい。できれば自分でも何かをしたいと考えている…その姿からはその気持ちが伝わってきた。

 今年2月に北海道庁、3月には札幌競馬場、4月には京都競馬場で、引退馬協会主催の引退馬の写真展が行われたのだが、この時も今回の企画展でも、似たような声が寄せられている。それは「東京や中山競馬場でも開催してほしい」「日本全国の競馬場でお願いします」というものだ。

 netkeibaのニュースで告知した際にも、同じようなコメントが多数寄せられている。今回のような企画展や写真展の開催が、引退馬の現状を広く世に広めるのには有効な手段の1つであるのは間違いない。それだけに、より集客力のある東京競馬場や中山競馬場をはじめ、地方競馬も含めた全国の競馬場や会場でも是非開催してほしいものだ。

(取材・文・写真:佐々木祥恵)


企画展『引退馬の余生を考えよう』

JRA新潟競馬場 ニルススタンド2階西側特設スペース
9月6日(日)まで競馬開催日全日に開催中。(時間:開門時〜)

展示:様々な場で活躍、または余生を送る元競走馬たち(展示馬は変更になる場合がございます)
ウイニングチケット、エイシンバーリン、グランスクセー、サクセスブロッケン、ツルマルツヨシ、デュークグランプリ、テンジンショウグン、トウショウシロッコ、トウショウヒューマ、トウショウフェノマ、ナイスネイチャ、ニッポーテイオー、ビコーペガサス、ヒシマサル、ヒシミラクル、ビッグゴールド、ロイヤルタッチ、ワコーチカコ(50音順)

主催『引退馬の余生を考えよう実行委員会』
委員長:飯塚知一
参加団体:一般財団法人ホースコミュニティ、Rolling Eggs Club、認定NPO法人引退馬協会

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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