寝違えても驚異の治癒力で回復 メイショウスイヅキ/吉田竜作マル秘週報
古川助手も「普通の馬ならもっと立て直しに時間がかかるところなのに、何かがこの馬は違うんだろうね」
夏の小倉開催といえば、前半は高速決着のオンパレードに対して、後半の馬場はボロボロというのがこれまでのイメージだったかと思う。しかし今夏は天候に恵まれたこともあって、馬場は予想以上に維持され、最後まで内外の差が大きく出ないフェアなレースが展開された。このあたりは馬場保全の技術が飛躍的に進歩した表れだろう。
ただし、見た目に馬場が良かった割には、時計が出なかったのも今夏の小倉開催の特徴で、その傾向は2歳戦に顕著に表れた。例年、芝1200メートルでは1分08秒台決着のレースが出るものだが、今年はゼロ。新馬戦に限れば1分09秒台の決着すら2鞍だけで、あとは1分10〜11秒台なのだから、数字だけで見れば「低レベル」に振り分けられてしまう。となると今夏の小倉開催を勝ち上がった馬たちは来春のクラシックどころか、秋の中央場所でも用なし?
決め付けるのは早計。今夏の小倉組の来年今頃の評価は、恐らく「個性的な馬が多く勝ち上がった開催」になるのでは。今回はその候補を2頭ピックアップした。
個人的に開催ナンバーワンと見ているのがメイショウスイヅキ(牝・本田)。開催4日目(8月9日)の牝馬限定新馬戦で前出10秒の壁を越える1分09秒台で走破したうちの一頭だ。その勝ち方も圧倒的で持ったままで直線に向き、最後まで松山の手綱は動かぬまま。「これで小倉2歳Sは決まった」と思ったほどだったが…。中間に寝違えたため、先週の小倉2歳Sの登録は見送られた。
しかし、そこからのメイショウスイヅキの回復は驚異的で「普通の馬ならもっと立て直しに時間がかかるところなのに、もう馬場でも乗れるようになっているし、絶好調と言えるくらい。治癒能力が高いというか、何かがこの馬は違うんだろうね」と古川助手は目を白黒させていた。
スプリント重賞はしばらくないが「新馬戦は何もしなくても勝ってしまった感じ。折り合いに不安がある馬ではないので、距離は恐らく持つよ」と小倉2歳Sへの未練はなさそう。今週から始まる中央場所で派手に憂さ晴らしをしてくれるのではないか。
一方、本紙の「新馬勝ち2歳総点検」でもあまり高い評価が得られなかったのが、開催初日(8月1日)の新馬戦を勝ち上がったアグネスヒーロー(牡・長浜)。確かに絶好馬場で1分11秒4の決着では低レベルとされても仕方ないところだが、この勝利を違う視点で喜んでいたのが坂本助手だ。
「使う前からキュウ舎では“1200メートルの馬じゃないよなあ”という話が出てた。それに体もまだ緩くて…。まさか勝つとは思っていなかったよ。俺自身も、もっと距離があった方がいいと思っているし、それこそクラシック(の距離)でも問題ないと。先生もそう思っているからこそ、小倉2歳Sを使わなかったのでは」
このアグネスヒーローの本質を知るには血統を見てほしい。父ディープスカイ、母アグネスピュアの配合で表れるのは先代・長浜キュウ舎から刻まれた歴史。1979年のオークス馬で、母としても90年の桜花賞馬アグネスフローラを送り出した「アグネスレディーの4×4」というクロスを持つのだ。種牡馬のクロスは珍しくないが、母馬のクロスはそう多くはない(有名なところでは種牡馬ノーザンテーストがレディアンジェラの3×2を持つ)。それだけ名門のエッセンスが詰まった血統と言っていい。
「ウチのキュウ舎も解散が近づいているし、これだけ早くに2歳をデビューさせたのも久しぶり。それだけ焦ってるんとちゃうか」と坂本助手はジョーク交じりに笑うが、未完成かつ、不得手な距離で勝ち上がったのは、まさに名門の血がなせる業。
アグネスヒーローが見立て通り、距離が延びてこその馬だとすれば、中央場所でその真価が問われる。その時、我々は血のロマンを目撃することになるのか。
メイショウスイヅキとアグネスヒーロー。夏の小倉で勝ち上がったこの2頭の次走に期待してもらいたい。