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第34回綾競馬・その1

  • 2015年11月04日(水) 18時00分
綾競馬

綾競馬でのレース場面


年に一度、この11月最初の日曜日に賑々しく開催されるのがこの「綾競馬」

 先週末に所用で九州に出張してきた。目的のひとつが、この「綾競馬」(宮崎県)であった。今年で34回目を迎える草競馬である。主催は綾競馬運営委員会。共催は綾町。JRA宮崎育成牧場が協賛し、馬事文化財団や地元農協、商工会などが後援する一大イベントなのである。綾町(あやちょう)は県庁所在地の宮崎市に隣接した人口約7300人の農業と林業が盛んな町で、以前からここには一周1100mのダートコースを有する馬事公苑があり、かつては軽種馬の生産も行われていた地域でもあるらしい。競馬場の名称は「錦原(にしきばる)競馬場」である。

 現在、九州のサラブレッド生産地としては、鹿児島と熊本の方が牧場軒数も生産頭数も多いが、この地に根付いた馬文化は脈々と受け継がれており、ここ綾町馬事公苑では今でも乗用馬約40頭が在厩し、地元高校や乗馬クラブの練習場として日々利用されている。

綾競馬

スタンド裏の地元特産品売り場



 年に一度、この11月最初の日曜日に賑々しく開催されるのがこの「綾競馬」だ。今年は全12レースが組まれており、軽種(サラブレッド)の部が9レース、ポニーが3レースとなっている。かなり事前に出走申し込みを締め切ったようで、スタンド裏で販売されている「綾競馬新聞」(レースプログラム)には、すでに出走馬名の馬柱が印刷されていた。

 午前に予選、午後から決勝という大まかな流れは北海道各地で行われている草競馬と大差はない。レースの模様については後ほど触れるとして、まず最初の驚きは、この「綾競馬新聞」の豪華さであった。一部300円でサイズはB4。実に26頁もある。しかも、表紙と裏表紙はカラー印刷である。紙質も厚く、持つと重い。紙面の大半は広告で占められるが、開いた右側の頁の上に出馬表が掲載されている。軽種が5頭立て、ポニーが8頭立てである。番号の次に馬名、性、騎手名、馬主名、馬主住所(鹿児島県○○市というように)が記載されており、自分自身の予想を書きこむ欄もある。

綾競馬プログラム

「綾競馬新聞」の表紙


綾競馬プログラム

「綾競馬新聞」裏表紙


綾競馬プログラム

「綾競馬新聞」の広告と出馬表



 広告に交じって、囲みのコラムもあるし、ひじょうに見応えのある競馬新聞なのである。裏表紙には全レースが一覧表で記載されており、発走時間もある。第1レースが10時ちょうど。以降20分間隔でスタートし、第6レースが11時40分。ここから昼休みとなり、午後の部の開始は1時。最終12レースは午後3時というスケジュールだ。

 プログラムによれば、第5レースまでは「予選」になっているものの、ポニーの3レースはそれぞれ「馬事公苑賞」「錦原賞」「照葉賞」と名前がついていて、綾町産業活性化協会長杯、宮崎県馬術連盟会長杯、綾町農協長杯となっているが、いずれもノーザンファームからの副賞が贈られるようであった。(プログラム中にも広告が掲載されていた)

 さて、この綾競馬の大きな特色のひとつは、馬券を楽しめることだ。と言っても、当然のことながら発売や払い戻しは不可なので、次のような方法が考案されている。まず、競馬新聞の販売所の横にズラリと地元特産品が小袋に入った状態で販売されている。アユの甘露煮や鶏ササミの燻製、漆塗りの箸、草木染めの手拭い、ミニまな板、落花生など、どれも500円である。その中に馬券が入っているのだ。(もっとも、馬券という表記ではなく、「お楽しみ券」という名称だが)。

 ただし、買い目はあらかじめ「印刷」されており、ポニーレースを除く軽種9レース分の数字が記載されている。最終12レースのみ馬連だが、それ以外の8レースはすべて馬単だ。軽種は5頭立てなので、馬単の組み合わせは20通り。地元特産品が20組に分類され、それぞれ違う目の記載された馬券が入れられているため、必ずどれかに「的中」があるという仕組みなのである。因みに私の購入した「落花生」は第17組で、1レース5−1、2レース2−4などというように番号が書かれてあった。

綾競馬

「お楽しみ券」が入っている手拭い



 見ているとこの一角にはかなり多くの人々が群がっている。中には1人で10種類くらいの品物を抱えて観客席に行くファンもいる。全部で20種類のうちの10種類なので、的中確率はニ分の一である。やはり、レースを見ていて馬券が当たるのは気分が良いのだろう。

 馬券の的中者は、別テントに設けられた景品交換所で、様々な品物をもらえる。ただし、日用品や食品の類が多い。おそらく、ここで過度に豪華な賞品を出すのは、さまざまな問題があるのだろうと思われる。「みかん」「かさ」「ゴマドレッシング」などが予選の景品で、最終12レース「綾ダービー」でも景品は「綾ワイン」となっている。

綾競馬

景品交換所の看板には各レースの景品が書かれている



 場内には多くの露店が立ち並び、パイプイスや敷物を抱えたファンが続々と集まって来る。周辺はほぼ農地ばかりで、駐車場が圧倒的に足りないため、後になればなるほど遠いところに駐車しなければならない。そのために、各駐車場からシャトルバスも運行されている。

 第1レースにはまだかなり間があるというのに、人々がスタンドに上がり、敷物で場所取りをする。また内馬場のコース沿いに陣取り、早々に酒盛りを始めるグループもいる。老若男女が思い思いのスタイルで寛ぎ、談笑している。ほとんどの人々が手に特産品(の中に入っている)の馬券を手にしている。やはりこれがなければレースを楽しめないのである。

 午前8時半。コース上にお歴々が集合し、神主がレースの無事を祈願する祝詞をあげる。また、コース西側に建つ厩舎の前ではポニーの計測も始まった。ポニーは全馬がすでに出走レースを指定されているが、この計測はおそらくハンデをつける際のデータになるのだろう。L字型の計測器を垂直に垂らし、一頭ずつ体高を測る。

綾競馬

レースを前に神主が祝詞をあげる儀式



 開会式は9時半。まず冒頭は観客も起立しての国歌吹奏、国旗掲揚であった。北海道の草競馬ではまずお目にかかれない光景で、いささか驚いた。
(以下、次週に続く)
綾競馬

開会式の国歌吹奏、国旗掲揚場面

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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