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帝王の威厳

  • 2004年07月05日(月) 21時03分
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 6月30日、大井「帝王賞」。アドマイヤドンが最後の最後、底力で交流G1・4勝目をもぎ取った。1000m通過62秒8、ナイキアディライトが超スローに落として逃げ、スタートやや立ち遅れたアドマイヤドンには厳しい流れ。しかし直線中ほど、闘志に火がついてからはさすがに別次元の馬である。レース上がり36秒4、推定してドンは35秒8(最終1F11秒8)。粘っこい大井の砂を考えるとまず極限。結果、勝者にも敗者にも大きな“鼻”だが、強い馬が強い競馬をして勝った、その意味で帝王賞史上、有数の好レースだったといえるだろう。

 ナイキアディライトはデビュー以来最高の競馬をして鼻差2着。以下少し水があいたが、道中ソツなく乗り、直線インを突いたビッグウルフが接戦を割って3着。大井初登場タイムパラドックス、アンドゥオールはともにどこか中途半端な仕掛けになり、掲示板確保がやっとだった。スターキングマンは外枠からスムーズに動けたものの、追って伸びを欠き6着と期待外れ。地元の新星サンデーバニヤンは好位追走からジリ下がり。交流重賞、初挑戦の壁が想像以上に厚かった。

 帝王賞(サラ3歳以上 定量 交流G1 2000m梢重)

◎(1)アドマイヤドン   (57・安藤勝) 2分04秒0
△(2)ナイキアディライト (57・石崎隆) 鼻
△(3)ビッグウルフ    (57・蛯名)  4
△(4)タイムパラドックス (57・横山典) 1/2
▲(5)アンドゥオール   (57・松永幹) 鼻
…………………………………………
△(6)スターキングマン  (57・武豊)
○(8)サンデーバニヤン  (57・鷹見)
 コアレスハンター   (57・御神本) 出走取消

 単130円 馬複1100円 馬単1400円
 3連複4270円 3連単12190円

 アドマイヤドンは、ドバイ遠征、完走、帰国からおよそ3か月。その馬体作り、気配がひとつ興味であり気がかりだったが、パドックを見た瞬間、これは大丈夫と判断できた。452キロ。昨秋JBCクラシック、明けてフェブラリーSと印象はまったく変わらず、細身ながらしなやかな馬体と歩様、過不足ない気合乗り。ゲート入りを少し渋り、いざスタートも1馬身ほどロスがあったが、そのあたりの機微は外野にはわからない。「ドバイの時より元気があった。いつものドン。出が悪かったけど、力を信頼してじっくり乗った。最強馬らしいレースをお見せできてよかったです」(安藤勝己騎手)。いずれにせよ並みのOP馬とははっきり次元が違うということだろう。かつてのホクトベガがそうだった。あらゆる逆境、試練をはね返す絶対能力と逞しさ。残るタイトルは、ひとまず昨秋惜敗の「ジャバンCダート」だけになった。ただし、陣営は芝路線にも選択肢を残すらしい。個人的には大歓迎。さらに夢をいわせてもらえばキングカメハメハ。おそらくダートも得意なはずで、この対決が実現すれば、それは誰もが納得する頂上決戦になるだろう。

 金星を逸したナイキアディライト。ドンとの鼻差は現時点で“永遠”にも思えるが、それでも掛け値なしの大健闘だ。ビッグウルフに昨夏JDダービーの借りを返し、同時に低レベルと云々された現4歳世代の名誉も、大きく挽回してみせた。つくづく思う。世代レベルなどというお話は、戦いがすべて終わり、それもしばらく時が過ぎてから、ノスタルジーとともに語られるものということ。一戦ごとに刻々変化する力関係。競馬の“長期予報”とは、やはり微妙かつ難しすぎる。ともあれアディライトはこれで真にG1通用のメドが立った。秋は9月船橋「日本テレビ盃」から始動。昨年スプリント路線とは一転、JBCクラシック→東京大賞典の王道を歩む。

 ビッグウルフの3着は大井適性が大きいだろう。ただパドックで見せた馬体のハリなど昨秋~今冬にはなかったもので、早熟というより体調の波が大きいタイプか。時計のかかるダートなら今後も交流重賞の名脇役となりそうだ。タイムパラドックス、アンドゥオールは、ひとまず初コースの馬に厳しい大井の洗礼を受けた格好。ともに能力、可能性は十分だが、精神面も含めると現時点で並みのOP馬というしかやはりない。スターキングマンはスローを早めに動いたレース運びなど理想的で、それで大差6着ならデキ自体の問題だろう。サンデーバニヤンは好スタート、流れにうまく乗ったとみえたが4コーナー、勝負どころで動けず、直線も追いづらいポケットに入ってしまった。大井記念ハンデ52キロ→今回別定57キロも響いたか。人馬とも、今後この経験を糧にしたい。


     ☆     ☆     ☆

ジャパンダートダービー(大井7月8日 サラ3歳定量 交流G1 2000m)

◎ベルモントストーム (56・石崎隆)
○アジュディミツオー (56・佐藤隆)
▲アクイレジア    (54・松永幹)
△ステルスライン   (56・桑島)
△キョウエイプライド (56・的場文)
△タカラアジュディ  (56・丸野)
△トキノコジロー   (56・山田信)
 カフェオリンポス  (56・柴田善)
 アドマイヤホープ  (56・安藤勝)
 フジエスミリオーネ (56・平沢則)

 南関東馬が胸を張れる「JDダービー」になった。中でも東京ダービー馬アジュディミツオー、京浜盃馬ベルモントストームには相当のスケールと可能性を感じる。JRA側に駒が揃わなかったのではなく、この2頭の素質が半端ではないということ。明後日がなんとも楽しみ。地元馬偏愛、そして惚れっぽい記者の、ひいきの引き倒しが少し心配だが、ごく冷静な推理でもやはり一騎打ちが浮かんでくる。

 アジュディミツオーはデビューから4戦4勝。あえて3戦目で挑んだ東京湾Cをあっさりクリア、なおかつ前走東京ダービーも初コース、初ナイター、いきなり2000m、あらゆる逆境を乗り超える楽勝だった。かつてのハイセイコー、ホスピタリティ、正直較べようもないが、こと単に記録的には同様に評価しておかしくない怪物級。「大型馬でフットワークはむしろモッサリ。でも時計を計ってみると、これが驚くほど速いんですね」(佐藤隆騎手)。事実、東京ダービー2000m2分05秒2はレースレコード(昨年ナイキアディライト08秒9)。浅いキャリア、力走続きの反動、未知の相手。確かに不安はいくつかあるが、すべて漠然としたものでしかないだろう。ストレートな予想なら同馬本命でノータイムだ。

 ただしベルモントストームは、今回それ以上の魅力がある。道中好位で完璧に折り合い、直線ほんのひと気合で後続を6馬身ちぎった京浜盃。そのインパクトは3歳時のトーシンブリザード、あるいはそれを凌ぐかという凄みがあった。前記ミツオーを含め今回4頭を出走させる父アジュディケーティング。それでも真打ち、集大成、エッセンスというなら、この馬と断言したい。前走東京ダービーは、3~4コーナー、早めに動いて脚を計る、次を見据えた石崎流か。いずれにせよ今回態勢は整った。瞬発力と競馬センスで、こちらを馬単のアタマに据える。

 JRA勢では牝馬ながらアクイレジアが筆頭だろう。言わずもがなロジータの娘。前走関東オークスは初の左回りで道中ブレーキをかけながらの競馬にみえた。大井初登場でいきなり帝王賞を制した兄カネツフルーヴ。この一族の地方ダート適性は、やはり運命的とみるべきだろう。羽田盃→東京ダービー、2、2着のキョウエイプライドは、確かに地の利、順調さが強みだが、羽田盃でトキノコジロー、ダービーでアジュディミツオー、それぞれ瞬発力、スピード、完全に一歩譲り、今回逆転のイメージが出てこない。兵庫CS、名古屋優駿、メテオバーストを2度に渡って破ったタカラアジュディは、初コースと展開が鍵だろう。しぶとい反面、アジュディミツオーをまくる瞬発力となると疑問もある。ユニコーンS4着のカフェオリンポスは、Gone West→Mr. Prospectorと遡るサイヤーラインで、JRA仕様の軽い馬場がベターとしたい。意外な混戦でステルスライン、トキノコジローが穴。父ホリスキーらしい逞しさはむしろ前者に感じられる。

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日刊競馬地方版デスク、スカイパーフェクТV解説者、「ハロン」などで活躍。 恥を恐れぬ勇気、偶然を愛する心…を予想のモットーにする。

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