▲2016年、トップジョッキー戸崎圭太の目指すものとは
戸崎騎手のインタビュー最終回。今回のテーマはズバリ「2016年の抱負」です。今やJRAの顔となった戸崎騎手。トップに立ってもなお、見ているのはさらに上。今の自分自身に足りないもの、脅威に感じている後輩ジョッキーの存在も明かしつつ、今年の目標、これから目指していく騎手像を、力強く語っていただきます。(取材:赤見千尋)
騎手としての理想形に近づけて行きたい
赤見 2016年の競馬がスタートしましたが、今年はどんな年にしていきたいですか? 目標に挙げていることを教えてください。
戸崎 まずは、リーディングですよね。昨年連覇することができたので、ぜひとも続けて行きたいです。
赤見 3連覇!
戸崎 したいですね。それに、JRA賞は勝利数以外にも勝率、賞金という部門もありますので、そういうところも目指していきたい。狙えるものは全部狙っていきたいと思います。あとは1つ1つのレースを大事に乗って、ケガなく騎乗停止なく、1年間を乗り続けたいですね。
赤見 今やJRAの顔となったわけですけれども、2年連続頂点に立ったことで見えた景色というのはありますか?
戸崎 いや、特にはないですよ。自分の中では何も変わらないです。というのも、獲ったことは獲ったことでいったんは終わりだと思っているので。新しいシーズンが始まったら、また1からですからね。
赤見 周りの変化というのはあるんじゃないですか?
戸崎 それも、でも、「おめでとう」って言ってもらえるくらいですよ。納得されるような乗り方ができているわけではないというのは、自分でも分かっていますからね。課題はまだまだたくさんありますし、騎手として本当の理想形に近づけて行きたいです。そうすれば、周りからも納得してもらえると思いますしね。「あいつが乗って負けたなら仕方ない」って思われるくらいの騎手にならないといけないです。
赤見 トップに立ってもなお、志が高いですね。
戸崎 うーん、騎手をやっていること自体が楽しいんですよね。昨年海外に行ったことが刺激になったって言いましたけど、その辺からモチベーションがさらに上がったと言いますか。
赤見 楽しそうなのは伝わってきますし、年末の5連勝なんて、見ていてもうらやましいですもん! 一度でいいから「戸崎圭太」になってみたい。
戸崎 そうですか!? まあ、太陽ですからね(笑)。
赤見 そう、太陽ですから! ルージュバックの桜花賞みたいなGIのプレッシャーは、遠慮したいですけどね(笑)。それにしても、大舞台のプレッシャーもそうですし、トップに立ったことでの責任も出てきますよね。
戸崎 そこは意識していないといけない部分でもあると思います。乗せてくださる関係者の方々、馬券を買ってくれるファンの方々を裏切らないように、しっかり結果を出していきたい。それには、ミスのない納得できる騎乗ですよね。それを踏まえて、本当の意味で認められる騎手になりたいんです。
赤見 パドックとか馬道で、ファンの声は聞こえますか?
戸崎 聞こえますよ。負けて帰って来ると、厳しい声ももちろん聞こえていますし。
赤見 以前お話を伺った時に、「人気で負けた時に何も言われなかったら、あれ?って思う」って。
戸崎 そうですね。見てくれていて、応援してくれてるからこそ、そういう声も出るんだろうなって。何も言われなくなったら、逆にダメだと思いますよ。
▲「人気で負けた時に何も言われなくなったら、逆にダメだと思いますよ」
騎手として良いものを持ってる
赤見 戸崎騎手は考え方が前向きですよね。JRAに移籍してからの3年間で、辛かったこととか、ピンチだった出来事ってありますか?
戸崎 ピンチ? ん〜、ないですね。この仕事をしていると、常に切羽詰まってはいるんですけど、それをピンチとか辛いとは思わないんです。
赤見 すごい。そういうところが太陽ですよね。
戸崎 いやいや、そういうわけでもないんですけど。必死は必死なんですよ。あっ、ピンチと言ったら、ひとつありました。あれですね。海外の騎手とコミュニケーションを取りたくて、習ってる英会話を駆使して話かけるんですけど、「こいつ、分かってないな」っていう顔された時。あれはすっごくピンチです!
赤見 そこですか(笑)。でも、外国の方って英語で話し掛けるとブワーッて返って来ますよね。
戸崎 それはありますね。ちょっと通じて、「あ、こいつはしゃべれるな」って思われると、すごい勢いで返ってくる。そうなったらもう、「Uh-huh」だけですよ。もっとスマートに、こなれた感じでコミュニケーションが取れたらいいですよね。
赤見 明るい性格といい、前向きさといい、本当に天性の騎手ですね。たしか、中学生の時から生徒会長をやっていたんですよね。
戸崎 そうですね。まあ、調子が良いだけですけどね(笑)。明るいところとかめげない性格は、親に感謝してます。
赤見 どちら似ですか?
戸崎 どっち似なんだろう……、どちらかと言うと母親ですかね。それが本当に良いことなのかは分からないですけども。
赤見 いやいや、大事なところだと思います。競馬の世界もどんどん変化していますし、流れに対応できる柔軟さも必要ですよね。
戸崎 ルメールとかミルコをはじめ、海外の騎手がどんどん入って来てますからね。それは昔では考えられなかったことでしょうし。まあ、自分も地方競馬から入って来ていますし、自分自身も変化して、周りの変化もうまく受け入れられることが大事なんだと思います。
赤見 下からの突き上げも感じますか? 脅威に思っている後輩とかは?
戸崎 石川裕紀人なんかはね、見ていて上手いなと思いますよ。しっかり乗ってますよね。
▲注目の若手騎手として名前の挙がった石川裕紀人騎手
赤見 良い馬も回ってくるようになりましたよね。
戸崎 結果を出していて、乗り数も増えてるんでしょうね。騎手として良いものを持ってるなって感じますよ。
赤見 追うより追われる方が、立場として大変だとも言いますが。
戸崎 たしかにそれはあるのかもしれないですけど、自分自身がしっかりやっていくことだと思うんです。やっぱりこの年になってみて、体が本当に動けるのも、もう何年もないのかなと思うようになったんですよね。だからこそ悔いのないように、思いっ切り乗っていきたいっていうのがあります。
赤見 それにしても、36歳には見えないですよね。全然見えない。
戸崎 そうですか? もっと上に見えます?
赤見 そうだったら言わないですよ(笑)。今日みたいに11レースに騎乗しても、体力的には大丈夫ですか?
戸崎 そういうのは大丈夫ですね。お酒に弱くなったのは、感じてるんですど。このままいくと、お酒に関しては衰えて行くんだと思うんですけど、競馬はまだまだ元気に、しっかり乗っていきます。
赤見 今年の「戸崎圭太」にも目が離せないですね! 今日は競馬終わりのお疲れの中、ありがとうございました。
戸崎 いやいや、まあ、本当にね、疲れてるところに…。冗談です(笑)。今年もどうぞ応援してください。
(文中敬称略、了)