▲日々プレッシャーと戦う池添学調教師を癒してくれる、意外なアイテムとは
労を惜しまない、きめ細やかな仕事をモットーとしている池添学調教師。馬主さんの大事な馬を預かる責任、勝負に勝たなければいけないプレッシャーと、勝利の喜びを噛みしめながら、日々奮闘しています。そんな調教師業務の重圧を和らげてくれるのは、意外な存在だとか。今回はストレス解消法や、厩舎の期待馬について聞かせていただきます。クイーンCからクラシックを目指す3歳馬、そしてあの名牝の初仔のお話も!(取材:東奈緒美)
(前回のつづき)
蛭子さんの言葉がありがたい
東 技術調教師として経験を積んでいる期間と、実際に開業してからというのは、やはり違うものですか?
池添 違いますね。開業してからは、とにかく失敗できない。技術調教師の期間は先生の下でやっているので、スタッフのような感覚もありましたけど、開業したら自分が一番上に立ってすべて管理していかないといけないですからね。
東 競馬学校を卒業されてからは、すぐにお父様の池添兼雄厩舎に?
池添 いや、1年ぐらい待機してました。自分の中では池添厩舎に入るつもりはなかったんですけど、どこの厩舎も空きが出なくて。ちょうど池添厩舎で定年の方が出て、父親が声をかけてくれたんです。「今のタイミングで入らないと、いつ入れるかわからない。入っておいて、他で勉強したいところがあれば出てもいいんだから」って。それで角居厩舎でもお世話になりましたし、待機の時には山元トレセンなどノーザンFの牧場で勉強させてもらいました。
東 調教師になられると、馬を見る目線は変化しますか?
池添 いや、そこはあまり変わらないですね。それが自分の課題でもあるんですけど。走る馬かどうか、調子が良いかどうかというのを、見ただけでは判断できないんです。今は何か迷ったら、とりあえず跨って確かめているので、跨る前に見てわかるようにするのが今後の課題ですね。
東 調教にも乗られているんですか?
池添 乗ってます。実際に馬を管理してみて、特に難しいなと感じるのは、勝ち上がって次に行くほど、勝つのが難しくなるということなんです。JRAのクラス分けって、それくらい厳しい。その辺、自分の管理やスタッフの技術で、さらに馬を良くするというのも今後の課題だと思っています。
東 勝負がかかるというのはシビアですね。
池添 毎週毎週、負ける方が圧倒的に多いわけですからね。開業当初は、その部分で悩んだこともありました。何より馬主さんに対しての申し訳なさですよね。負けるたびに「申し訳ないです」と電話をしていたので。それは気が滅入りました。
東 相当ストレスもかかっているのかと思うのですが。
池添 原因不明の咳が止まらなかったり、歯ぎしりがすごかったり。開業して1か月は、ずっとそんな感じだったんです。
東 それはよっぽどですね。ストレス解消法は?
▲池添調教師のストレス度合いに驚く東。「ストレス解消法はありますか?」
池添 ないです。時間はあるんですけど、趣味がない。蛭子能収さんも「趣味を持て」と言ってますからね。日めくりカレンダーの「生きるのが楽になる まいにち蛭子さん」を買って、毎日めくってるんですけど、すごく良いことを書いてますよ。
東 毎日その言葉で、自分を奮い立たせて。
池添 いや、奮い立ちはしないです(笑)。でも、すごく楽になります。本当に自分に向って声をかけてくれているような気になるんですよね。そんなこと言うと、相当病んでいるなって思われるかもしれないですけど(笑)。でも、若いうちは苦労をしないとダメだと思うんです。それにどれだけ苦労したとしても、勝った時に「この仕事をやってて良かったな」って心から思えますからね。それが一番大きいです。
ブエナビスタの初仔が入厩予定
東 厩舎のイチオシの馬はいますか?
池添 厩舎の馬、全部に期待しています。中でも近いうちに活躍してくれそうなのは、古馬ですとジェラルド(セ)。7歳で、1000万下を勝ったばかりなんですが、馬がすごく若いし、乗り味的にも上のクラスでも通用するんじゃないかなと思っています(取材後、2月7日の早春Sに出走。4着)。あとは初勝利をくれたメラグラーナ(牝4)。8月生まれで遅いんですけど、馬がまだまだ成長しているので。今の時点で7戦して3つも勝てる力もありますしね。
東 のびしろがありそうですね。若馬では?
池添 3歳ですと、牝馬のエルフィンコーブ。ダートで2連勝してますが、次は芝で使おうと思っています(取材後、2月6日のエルフィンSに出走。4着)。こればかりは未知数ですが、走ってくれたら言うことないですね。それと、同じく牝馬で、この前の新馬戦を勝ったロッテンマイヤー。
東 ぐいぐい後続を突き放して、強い勝ち方でしたね。
▲1月10日京都芝1800mの新馬戦を勝利。父クロフネ、母父アグネスタキオン、祖母がビワハイジという血統
池添 この馬は、開業前の早い段階で預かることが決まったんです。すぐに牧場まで見に行きまして、2歳の春ぐらいに1回乗ったんですが、「これは走るな」って感じたんです。ところが、牧場で骨折してしまって。それでデビューが1月にはなったんですが、骨折してからの立ち直りがとにかく順調で。ありがたかったですね。
東 骨折は重度ではなかったんですか?
池添 そうですね。調教中の骨折ではなくて、馬房でぶつけたみたいなんです。動かして負担のかかる部分ではなかったですし、牧場の皆さんが一生懸命ケアしてくれて。ましてやデビュー戦で、順調に勝ち上がってくれましたからね。
レース前、飼い食いでちょっと心配な点があったんです。なので、めいっぱいに仕上げたというよりは、飼い食いに合わせて調教の強度を決めていたんですね。それで勝てたというのは、能力が高いんでしょうね。その辺りが改善されて、調教強度がさらに上げれば、もっと良くなると思います。
東 次はクイーンC(2月13日)。2歳女王メジャーエンブレムとの激突になりますけれども。
池添 どこを使うかは迷いまして、牧場の方々とも意見を出し合って、「クイーンC目標で」となりました。大きいところを意識できる馬ですし、遅かれ早かれ強い馬とも対決しないとダメですからね。一番嫌なのは無理して、何とかクラシックに出られましたとなること。結果が出ないだけでなく、その後にも響きますからね。能力ある馬は1戦2戦でもクラシックに出てきます。順調な流れで出られることが一番です。
東 そして、ブエナビスタの初仔(牝2、父キングカメハメハ)を管理されるという。注目されていますね。
池添 これがその、ナゾの咳が出た原因です(笑)。預かるとなってから、咳が止まらなくなりました。正式に決まったのは去年の夏前ぐらいで、最初にお話をいただいたのは開業前でした。
東 開業前にですか。決まった時には嬉しさ反面、「ついに来たか」というプレッシャーも?
池添 それはそうですよ。その重圧たるや…。でも、それ以上に、やっぱり嬉しいです。調教師冥利に尽きますよね。トレセンに入る前にノーザンFで仕事をしていた時、「調教師になりたい」ということを周りに伝えていたんです。そうしたら(吉田)勝己社長が、「なったら応援してやる」とおっしゃってくださって。
東 それで、実際にこういう馬を預けてくださることに。
池添 期待してくださっているんだと思ったら、なおさらしっかりやらないといけないなと、責任を感じています。年末に馬を見に行ってきまして、早くて夏過ぎとか秋のデビューだと思っています。まずは無事にデビューしてくれることですね。幸い、ナゾの咳もおさまりましたし(笑)、しっかりと頑張ります。
(次回へ続く)