スマートフォン版へ

執念のキョウエイプライド

  • 2004年08月09日(月) 19時46分
 8月4日、大井「黒潮盃」。キョウエイプライドが豪快な差し切りで初タイトルをモノにした。スタートの出負けもあり、道中は後方から3番手。1000m通過61秒7、さして速くもない流れを豪快な大外一気。1800m1分53秒3、ひとまず羽田盃(トキノコジロー1分53秒5)を超えているから合格点といえるだろう。何より追ってこれまでにない鋭さ、凄みをみせた点に収穫がきわめて大きい。

 シンガリから末脚一本に賭けたアイチャンルックがゴール寸前2着に届き、波乱の決着。アジュディミツオーは1コーナーまでダッシュがつかず、直線それなりに伸びたものの3着だった。ベルモントストームは逆に大外枠ながら闘志満々の行き脚をみせ、ままよという先行策。しかし最後の粘りは案外で、結局4着に沈んでいる。

黒潮盃(サラ3歳 別定 南関東G2 1800m良)

▲(1)キョウエイプライド (55・的場文) 1分53秒3
 (2)アイチャンルック  (53・山田信) 1.1/2
○(3)アジュディミツオー (56・佐藤隆) クビ
◎(4)ベルモントストーム (56・石崎隆 1.1/2
 (5)サンキョウチャイナ (55・川本) 3/4
……………………………………
△(6)モエレトレジャー  (56・金子)
△(9)ステルスライン   (55・桑島)
△シュルードパーソン  (55・内田博) 出走取消

単350円 馬複8300円 馬単12200円
3連複3190円 3連単38040円

 アジュディケーティング産駒、その3強による“夏の頂上対決”。勝ったキョウエイプライドは中で最も地味と思われ、人気も他2頭に小差ながら譲っている。羽田盃→東京ダービー→JDダービーを現実に2、2、3着。しかし常に決め手不足、完敗のイメージ。評価を覆したのは、馬自身の持つ成長力、逞しさというほかないだろう。「クラシックは最高に乗れたのに負けてしまった。今日は下手な騎乗で勝てるんだから…」。いつもながら的場文騎手のコメントはストレートで面白い。ライバル2頭をこれだけ鮮やかな形で完封するとは、鞍上さえも描きにくかったということ。ともあれ、今回G2・1着賞金2500万円を上積みし、結局獲得賞金、世代トップに躍り出た。同じ父アジュディケーティングでも、同馬は母の父カウンテスアップ。岩手→南関東の活躍馬で、川崎記念3連覇など、ロッキータイガー、テツノカチドキらと黄金時代を築いた、そういうタフでパワフルな血が流れている。納得するならばそのあたりか。今後は短期放牧。目標は未定だが、1つタイトルを得たことで、むろん大きく選択肢は広がった。

 アジュディミツオーは大型馬でフットワークもきわめて大きい。けっしてダッシュの鋭い逃げ馬ではなく、これまで絶対スピードでハナを切ってきただけのこと。今日の3着はむしろ先につながる、貴重な競馬といえるだろう。キャリア4戦目の東京ダービー制覇はやはり異例中の異例である。その後も崩れず走っているあたり、並みの南関東3歳馬ではない。ベルモントストームの場合、結果論ながら「何か歯車が噛み合わない。こんな馬じゃないですよ。秋になれば必ずよくなる」という石崎隆騎手のコメントに、ひとまずすがる。京浜盃圧勝後、そこから一頓挫が予測以上に大きかったということか。以前も書いたが、石崎隆騎手はおおむね辛口、およそ楽観的な話は口にしない。アブクマポーロを育てた出川克己調教師=楠厩務員の名コンビ。雪辱ありと期待する。

 アイチャンルックは、なるほど牡馬の凡走にも助けられたが、自身1800m1分53秒6と時計を飛躍的に詰めている。気性難を抱えながら桜花賞、関東オークス、意欲的に使ってきた、その経験が大きいだろう。晩成型の父ジェネラス。牝馬同士なら今後は交流重賞でも勝算を持って臨めるだろう。サンキョウチャイナが重賞2戦目で入着を果たし、ひたひたと一線級ロードに迫ってきた。逆に京浜盃2着・ステルスラインは、まったく動けなかった結果を踏まえ、しばらく充電を図ってくる。楽しみだった7戦6勝の昇り馬シュルードパーソンは「熱中症」で今回取り消し。「もともと体質が弱い馬。力走の疲労があったかもしれない」(松代調教師)。ともあれ今年の猛暑は半端ではない。

      ☆     ☆     ☆

スパーキングサマーC(川崎 8月11日 サラ3歳上別定 南関東G3 1600m)

◎ロッキーアピール  (57・野崎)
○ジェネスアリダー  (57・内田博)
▲ユニークステータス (53・張田)
△ペガサスホープ   (53・今野)
△ティーケーツヨシ  (53・酒井)
△イチコウエンゼル  (53・的場文)

 新設重賞ながら夏枯れの時季。いかにも谷間という顔ぶれになってしまった。ここならロッキーアピールが堅い中心。JRA4勝で川崎転入。当初からオープンランクだけにそう楽でもなかったが、適性の高いマイル戦をきっちり3勝。うち1つはイシノファミリーを6馬身ちぎっている。前走大井サンタアニタトロフィー3着も、超のつくハイペースを正攻法。内容は2着ナイキゲルマンを明らかに凌いでいた。ごく自然流の先行策で時計勝負。今のデキがあれば別段逃げにはこだわらない。

 対抗にはジェネスアリダーの格を買ったが、叩き2戦目で期待ほど上積みがあるか微妙な情勢。前走転入初戦を圧勝したユニークステータスがロッキーアピールと同パターンで、むしろスピード上位の可能性。JRA時は典型的なスプリンターだったが、その前走を見る限りスムーズに折り合いがついていた。差すペガサスホープ、ティーケーツヨシは少し時計がかかっての食い込みだろう。イチコウエンゼルは川崎適性と的場文騎手の腕が頼り。あまり人気になっては妙味が薄い。

     ☆     ☆     ☆

 8月7日、高知競馬場で「ハルウララ・チャレンジカップ」が行われた。結果はご存じの通り。3歳下の異父弟オノゾミドオリ(兵庫)が勝ち、彼女自身は離された5着で、デビューから113連敗と“記録”を伸ばした。クラス分けなどいっさい無視したメンバー構成。さすがに1番人気にはならず、単オッズ4.5倍の3番人気。もう1頭の妹ミツイシフラワーと合わせ、主催者がもくろんだファミリー3頭の「単勝セット」も、思惑通りには売れなかったらしい。

 「ハルウララ問題」にはできればもう触れたくない…が筆者の本音。なんとなれば、関係者が高知競馬存続に必死の思いをかけていること、負けても負けてもけなげに走る彼女の姿に勇気づけられる人々も現実にたくさんいること。わかっていればあえて水はかけたくない。がしかし、でもねえ…とは正直思う。今のハルウララは、すでに競走馬ではなくなっている。レース自体がイベント、悪くいえば茶番と化し、ハナから勝利を期待されていない。競技、スポーツの域から完全に逸脱し、それでいて結果にお金を賭けさせるという不思議な現象。「当たらないお守り」などというシャレも、ギャンブルとしてはきわめて異常、不健全というしかない。

 こういうことだと思う。8月2〜4日、「川口オートレース」でデビューし、いきなり3連勝を飾った青木治親という選手がいる。ロードレースの元世界チャンピオン。ご存じの方には説明もいるまいが、オートレースは「距離ハンデ制」で行われ、排気量など性能で劣る二級車に乗るルーキー青木選手はハンデ0。勝って当然、勝って当然ながらそこにはプレッシャーがかかり、それをどうはね返すか、ファンサイドからはそこに大きな見どころと夢がある。事実、川口オートレース場にはその3日間、通常の3〜4割増の観衆が詰めかけたという。ハルウララ高知競馬場とは対極天―。そう書いたら冷ややかに過ぎるだろうか。いずれにせよ、勝利を期待されないサラブレッドは、どう注目されようとどう愛されようとやはり不幸だ。違うだろうか。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

日刊競馬地方版デスク、スカイパーフェクТV解説者、「ハロン」などで活躍。 恥を恐れぬ勇気、偶然を愛する心…を予想のモットーにする。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング