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週刊サラブレッド・レーシング・ポスト

  • 2004年08月10日(火) 19時19分
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 抜けた馬のいない混戦と言われていたG1モーリスドギース賞は、戦前の予想通り、上位5頭が鼻首の差でゴールする大接戦となった。しかもその5頭は、3歳から6歳まで実に4世代にわたる馬たちを網羅しており、更に牡馬あり牝馬ありセン馬ありと、現在のこの路線における混沌ぶりを如実に表す結果になった。

 1番人気に推されたのは3歳牡馬ウィッパー。5着に終わった5月1日の英2000ギニー以来3ヶ月振りの出走だったが、仏2000ギニーへの重要プレップと言われる前々走のLRジェベル賞は8馬身差の圧勝。更に昨年8月には同じドーヴィルで行われたG1モルニ賞を快勝しており、コース実績も踏まえた上での1番人気だった。

 実際に、中団につけたウィッパーが馬場の真ん中を抜け出してきた時には勝負も彼のものに見えたのだが、スタンドから見てウィッパーの手前を更に上回る脚色で伸びたのが、イギリスから遠征してきた4歳牡馬ソムナスだった。相手をウィッパーと見て、これを目標にレースを進めた鞍上ゲイリー・スティーヴンスの好騎乗が光った一戦だった。

 今年からフランスで乗り始めたスティーヴンス。遠征馬の優勝に一瞬静かになりかけたスタンドだったが、勝ち馬が引き上げてくると鞍上には観客から盛んに声が飛んでいたから、ファンにとってはすっかり「地元の人間」として迎え入れられていることを感じた。

 ソムナスは、昨シーズン9月にヘイドックで行われた6FのG1スプリントCの勝ち馬。決してレベルが高かったとは言えない昨年の英国スプリント戦線だが、それでも6ハロン路線のトップホースの1頭だったことは間違いない。今季緒戦のヨークのG2デュークオブヨークSが7着、続くニューキャッスルのG3チップチェイスSが2着、前走ニューマーケットのG1ジュライCが5着と、悪くない競馬を続けながら叩かれつつ調子を上げていたようだ。

 敗退した日本馬2頭にとって不運だったのが馬場。昨年ほどではないにしろ、フランスは今年も好天で暑い日が続いており、ドーヴィルの夏開催も「これでもか」と言うほどコースに水を撒いて行われていた。で、いい加減路面が緩くなっていたところへ、レース2日前の金曜日夕刻に、地域一帯を嵐のような大雨が来襲。馬場は相当にぬかるんでいたようである。欧州のスタンダードとしては日常的に見かける馬場状態ではあったが、一方で、シーキングザダイヤの母シーキングザパールがこのレースを制した時とは、まるで様相を異にしたトラックコンディションであった。

 今回のシーキングザダイヤとドルバコの遠征に関して、馬場云々を論じる以前の問題として、馬の実力が足りなかったのではないかと指摘する向きもあろうかと思う。

 確かに、シーキングザダイヤはG2までしか勝ち鞍がないし、ドルバコは1勝級の馬だ。

 だがここで思い出していただきたいのは、同じ森厩舎のアグネスワールドが最初の遠征を行った時にも、彼はG2までしか勝ち鞍のない馬だった。藤沢厩舎のクロフネミステリーが北米遠征し、重賞で入着を果たした時も、彼女は条件馬だった。海外遠征とは、日本のドメスティックな競馬でG1やクラシックの称号を得ている馬に限ることはないのである。

 そして2頭が狙った欧州のスプリント路線は、前述したように抜けた馬のいない混戦模様だ。森師の立てた狙いは、今回も的を得ていたのである。

 結果は残念ではあったが、今回の遠征が「チーム森」にとって糧となり、将来の大きな成果に結びつくことを期待したい。

 日本馬の実力が、依然として『将来の成果のために糧を必要としている段階にあるのか』と問われれば、まさにその通り。この分野では日本で最先端を行っている「チーム森」にしたって、今も「糧」を必要としていると、私は思う。

 欧米のG1が、いきなり行って簡単に勝てるものではないことを森師もよく理解しているからこそ、勝算という面では決して高いとは言えない今回の遠征を、森師は敢行したのだろう。だからこそ、採算を全く度外視して今回の遠征をサポートした青山オーナーを含めた、このチームの将来の成果に、大きな期待をかけたいのである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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