(撮影:高橋正和)
必要以上には力を使わなかった
1頭だけ実績・実力ともに断然のアムールブリエがまったく危なげのない勝ち方を見せたが、レースのレベルとしては2番手グループの中央馬に合わせたもの。ゴール地点で他馬より少しでも前にいればいいという楽なレースだった。
予想通りティンバレスがハナに立ち、気合を入れて行こうと思えば行けたであろうアムールブリエは、まるでそのティンバレスをかわいがるようにぴたりと2番手。刻んだラップは……
7.2- 11.5- 13.6- 14.7- 13.5- 13.7- 14.1- 12.2- 12.8- 13.1- 11.7
というもので、隊列が決まった300mのところからは13〜14秒台のラップが5回も続くという超スローペース。このペースなら、普通は1周目のスタンド前で我慢しきれない馬が行ってしまうものだが、絶対的存在のアムールブリエ様に反乱を起こすものなどいなかった。
残り800mを切った向正面中間あたりから徐々にペースアップしたが、スタートからそこまで1300mの通過が1分28秒3もかかっており、上り3Fは37秒6(アムールブリエの上りは37秒4)で、勝ちタイムは2分18秒1(良馬場)。川崎コースは一昨年12月の馬場改修以降タイムがかかっているとはいえ、エンプレス杯としては2100mで争われるようになった1998年以降、もっとも遅い勝ちタイムだった。
ちなみにアムールブリエが3着だった今年の川崎記念は、1300m通過が1分23秒2、上り3Fは39秒0で、勝ちタイムは2分14秒1(良馬場)。アムールブリエ自身は縦長の5番手あたりを追走して37秒6で上がって走破タイムが2分14秒9。ホッコータルマエ、サウンドトゥルーが相手だからそれなりのレースのレベルになるのは当然のことだが、エンプレス杯は同じ良馬場で、1300mの通過タイムで川崎記念より5秒ほども遅く、アムールブリエ自身の上り3Fのタイムはほとんど同じだから、アムールブリエにとっては今回いかに楽なレースだったかがわかる。いわば、他の中央4頭の準オープンクラスのレベルに合わせたレースをして、必要以上には力を使わなかったということ。
アムールブリエがいたとはいえ、前述のとおり準オープンクラスの馬たちには自己条件レベルのレースとなって、しかもスローに流れて道中でもペースが上がらず前残り。その結果、逃げたティンバレスが直線でも粘り、ぴたりと3番手を追走していたヴィータアレグリアがそれをゴール前でとらえて2着に入った。
イントロダクションは、アムールブリエとヴィータアレグリアの直後を追走していたので、本来なら最後に切れる脚を見せてもよさそうなところだが、1周目スタンド前のペースが落ち着いたところでは、すぐ前の2頭が壁になり、さらに外からオープンベルトにフタをされ、行き場がないところでじっとしているしかなく、かなり折り合いを欠いているようだった。直線での伸びがなかったのはそのぶんではなかったか。
タマノブリュネットは前半、前の5頭とはやや離れた位置からの追走。向正面半ば過ぎで前の中央4頭の直後に追いついたあたりからペースアップされたので、そこから前にいる馬たちを差し切るというのもさすがに無理があった。
戦前から予想されたとおり、アムールブリエにとっては単なる通過点。能力を発揮できるダートの長距離で牝馬限定戦は、このレースのほかには昨年も制している8月の門別・ブリーダーズゴールドCしかなく、当面の目標は牡馬相手の帝王賞となるようだ。