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▲現役時代の宮下瞳騎手、前人未到の記録を打ち立てた女王が再び
国内の女性騎手最多勝記録を持つ宮下瞳(名古屋)。地方通算626勝という前人未到の数字は、未だ破られてはいない。女性騎手の頂点に立った彼女だったが、2011年に引退。二児の母となり、競馬とは距離を置く日々を過ごしていた。しかし、何かが彼女を導くのか、「小さな転機」とも言うべき出来事が重なる。女王の心に火がついた ――「もう一度、騎手に」。現在は厩務員として、復帰への準備をしている彼女。その本音に迫った。(取材・文:大恵陽子)
「女だから」が悔しくて 駆け抜けた16年
宮下の家のインターホンを鳴らすと、笑顔で出迎えてくれた。
「狭い部屋ですけど、どうぞ」
マグカップにコーヒーを淹れ、ディープインパクトのゼッケン型コースターに乗せて差し出す手つきは、主婦だった。しかし、スリムで引き締まった体は「女王」と称された現役時代を思い出させた。
宮下が騎手デビューしたのは1995年10月、地方競馬の名古屋競馬場。約16年間の現役時代に積み重ねた地方競馬通算626勝は、国内の女性騎手最多勝記録として未だ破られていない。2005年には同競馬場で騎手の小山信行と結婚し、夫婦でレースに騎乗した。また、2009年には韓国で行われたKRA国際女性騎手招待競走で勝利した。
「韓国の女性騎手レースで勝ったことは、騎手時代で一番の思い出ですね。最後方からのごぼう抜きが嬉しくって、初めてガッツポーズをしました」 この勝利が一つのきっかけとなり、その後約1年半、宮下は韓国に遠征し56勝を挙げ、通算682勝とした。そして、帰国後ほどなくして引退を発表した。
「引退のきっかけは韓国で勝つこともでき、自分の中で納得できるまで乗りきったと思ったからです。女性であることを理由に乗り替りになったこともありました。『女だから』と言われたくなくて一生懸命がんばり、やりきった感があったので、引退を決めても寂しさは全然なかったですね。また、お腹に息子を授かったタイミングでもあったので、神様から辞めろって言われているのかな、と」![地方企画](https://cdn.netkeiba.com/img.news/style/netkeiba.ja/image/column/nonfictionfile/160310_12.jpg)
▲「“女だから”と言われたくなくて一生懸命がんばり、やりきった感があった」
引退後も、夫が騎手のため名古屋競馬のトレーニング施設・弥富トレーニングセンター内の住宅に暮らしたが、競馬からは遠ざかった。
「厩舎が目の前にあるのに、馬に会いに行くことはなかったですね。引退してすぐの頃は旦那さんのレース映像は見ていたんですが、しばらくしたらそれも見なくなりました。近所の人に『今日勝ったね。おめでとう』と言われ、初めて知るくらい遠ざかっていました。ほんと、すっかりお母さん業をしていたんです」 男性に負けぬよう走り続け納得のいく成績を残し、一時的に燃え尽きたのかもしれない。
「ママ、もう1回乗ってもいい?」
2人目の男の子も出産し、家族との和やかな時間を楽しんでいた。しかし、一昨年ぐらいからいくつかの「小さな転機」とでも言うべきものが積み重なってきた。
一つは、夫の韓国遠征(2014年12月〜2015年9月)。
引退してからレースを見ることがほとんどなかった宮下におとずれた現地観戦の機会は、眠っていた闘志を蘇らせた。