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菜七子を預かった根本師の“ホースマンとしての意地”

  • 2016年03月10日(木) 18時00分


◆「オレはここで強い人を育てようと思う」

 公営・川崎、中央・中山の競馬場のみならず、テレビの情報番組までヒートアップする“時の人”藤田菜七子。「預かると決まった時は、こんな事態は想定しなかった」とは師匠・根本康広調教師の言葉だが、その心境はおそらく当人も同じだろう。今は応援とバッシングが紙一重の時代。静かに競馬に集中できない状況は、少々かわいそうな気もしている。

 もっとも、その境遇を最大限に理解する一人が武豊かもしれない。6日、中山での菜七子の単独会見では飛び入り参加で助け舟。軽妙なトークで周囲の雰囲気をなごませた。デビュー時から天才と評され、以降30年“競馬の広報役”を務めたからこそ分かる、注目という名の重圧。それを「こうしてサラッと流せ」と言わんばかりの機転の利いたパフォーマンスに、当方は武豊のすごみを改めて感じた次第だ。

 ただ、そんな菜七子にとって最大の幸運は、所属キュウ舎が根本キュウ舎だったことではないか。数年前に同師がしみじみと当方に語ったことがある。

「今のご時世、美浦で強い馬を育てるにはかなり状況に恵まれないと難しい。ただ、トレセンで育てるのは馬ばかりとは限らない。オレはここで強い人を育てようと思う」

 丸山元気、野中悠太郎、藤田菜七子…騎手のフリー化が進む中で、所属ジョッキーを3人も抱えるキュウ舎は東西広しといえども根本キュウ舎だけ。そこにホースマンとしての意地が透けて見える。さらに師匠は自身の経験をもとに、こんなエールを愛弟子に送る。

「マスコミへの露出?大いに結構だと思うよ。オレがジョッキーだったころ、師匠の橋本(輝雄)先生もそういう人だった。自分が映画(『優駿 ORACION』=88年公開)出演した時には“本業をおろそかにして”などと非難する声も周囲から上がったが、先生の見方は違った。“それはお前のアピールに、競馬のアピールにもなる。どんどんやれ”って。そんな経験や人付き合いが、いずれ財産になる時が来る。だから菜七子にもチャンスと思って頑張れ、と言っている」

 中央デビュー戦いきなり2着と周囲の度肝を抜く活躍を見せた菜七子。見習い騎手として美浦に来た当初は、調教でも細かな注意を受けていただけに“ひよっこ”のイメージが強かったが、なかなかどうして…。“持ってる女”の成長を、ファンも長い目で温かく見守ってほしいものである。(美浦の宴会野郎・山村隆司)

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