▲15日、高知競馬に初参戦。別府真衣騎手との“女性騎手対決”にも注目が集まった(撮影:武田明彦)
3月15日、藤田菜七子騎手が高知競馬に遠征し6鞍に騎乗しました。当日はたくさんのファンが競馬場へ駆け付け、初の高知騎乗、そして、現役女性騎手最多勝利数を誇る別府真衣騎手との対決を応援しました。デビューから3週目を迎えてもなお続く、菜七子フィーバーin高知の模様をお伝えします。(取材・文:赤見千尋、写真:武田明彦、赤見千尋)
本人が得た“2つの収穫”
結果から言ってしまうと、初勝利はまたしてもお預けとなってしまった。JRA交流競走を含め6鞍に騎乗した菜七子騎手は、第2レース、第3レースでの3着が最高着順となった。しかし、日本の競馬場の中で最も砂の深い高知のコースで、逃げ、先行、差しとさまざまな競馬ができたことは、大きな収穫になったはずだ。
「初めて乗せていただく競馬場で、とても緊張しました。中央では内ラチから1mくらいのところを走るのが普通なので、内ラチからこんなに間を開けて走ることが初めてで、最初は戸惑いました。最後の2レースくらいでやっと慣れてきたかなという感じです」 一日を終えて、ホッとした表情で会見場に現れた菜七子騎手はこう話した。そして、なにより収穫になったのは、現役女性騎手最多勝利数587勝(2016年3月16日現在)を誇る別府真衣騎手と共に騎乗したことだろう。
「別府騎手からたくさんの事を教えてもらおうと思って高知に来て、(実際に)たくさんの事を教えてもらいましたし、まだまだこれからもたくさん聞きたいと思います。別府騎手は本当にフォームがキレイで、馬への当たりも柔らかくて、追う姿勢もすごくキレイだし、馬も伸びるしすごい騎手だなって、間近で見て改めて感じました」 別府騎手と共に騎乗した5レースの中でも、菜七子騎手1番人気、別府騎手2番人気となった第3レースの対決が一番の注目だった。菜七子騎手が騎乗したのはメトロノース。別府騎手の父、別府真司厩舎所属の馬で、過去に北海道2歳優駿を勝った実績馬である。高知に移籍してからも9勝も挙げ、未だ勢いは衰えていない。対する別府騎手は、同じく別府厩舎のアランルースに騎乗。高知に移籍してから6連勝を果たし、前走5着に負けたもののまだまだ上を目指せる器だ。
レースは菜七子騎手が好スタートを決め、内枠からジワリと逃げる展開。このまま逃げ切れるかと期待されたが、展開の速い高知の流れで3コーナーから他馬に並びかけられると、手応えが怪しくなっていく。逆に3番手外から伸びて来た別府騎手の勢いは鋭く、結果別府騎手が差し切って1着、菜七子騎手は3着となり、場内からはため息が漏れた。
▲1番人気で迎えた第3レース。結果は別府真衣騎手騎乗のアランルースが勝利(撮影:武田明彦)
レース後別府騎手は、
「菜七子ちゃん、ごめんね…と思いながら差し切っていました(笑)。一日を通して自分も楽しかったですし、菜七子ちゃんが1レースごとに上手くなっているのがわかってすごいなと思いました。最後の2レースはだいぶ慣れて、上手く流れに乗っていましたね。それに、お客さんがすごかったです! 1レースからこんなにたくさんの方が見に来てくれるなんてなかなかないので、本当に嬉しいです」“菜七子フィーバー”が高知競馬にもたらした効果
この日の入場人員は、前年比167%増の2660人。さらに総売得金は、159%増の6億超えとなった。もちろん、メインレースの黒船賞も前年比133%と売上を伸ばしているが、その他のレースの売上がさらに大きく伸びたため、総売得金の伸び率が大幅にアップしたのだ。これは確実に、菜七子効果と言っていいだろう。
▲1レースからパドックにはたくさんの人が集まった(撮影:赤見千尋)
ファンの方々にお話を伺うと、菜七子騎手を一目見ようと駆け付けた方が多かった。中には、「何十年と競馬から離れていたけれど、菜七子騎手のニュースを見て久しぶりに競馬がしたくなった」と話してくれた方もいた。手書きのプラカードを持って応援したり、パドックで声援を送ったり。家族や友人たちと、温かい眼差しで初の高知騎乗を見守っていた。
▲中には手書きのプラカードを持参するファンの方も(撮影:赤見千尋)
長年高知競馬場で売店を営む方々も、菜七子フィーバーは嬉しい驚きだったそう。特にパドック横の売店は、後半のレースの頃にはすべて完売となっていた。なぜここまで売店の食べ物が売れたのかと言えば、入場人員の数字以上に、「1レース前からファンが詰めかけた」ということだろう。これが菜七子効果の真骨頂なのである。
「通常の1.5倍仕込んで来たけれど、5レース(黒船賞)前に売り切れてしまいました。こんなに売れるのはお正月並みです」
「うちはいつも終わり頃になると安売りセールをするんですけど、今日は安売りなしで完売でした。1レースから人がとにかく多いですね。売れるかなとは思っていたけど、想像以上でした」
▲「1レースから人がとにかく多いですね」と嬉しそうに語る売店のお母さん(撮影:赤見千尋)
JRA16年ぶりの女性騎手としてデビューした菜七子騎手は、JRAだけではなく、川崎、高知と遠征し、すでに中央と地方を繋ぐ大きな架け橋になっている。今週末はJRAで騎乗し、抽選を突破すれば初の重賞騎乗が待っている。さらに24日(木)は、浦和競馬場での騎乗が予定されている(現状はまだ未定)。ひたむきにがんばるその姿は、これからも全国のファンを魅了してくれるだろう――