▲昨年の東京ダービー、パーティメーカー騎乗で惜しくも2着(撮影:高橋正和)
20日(水)、南関クラシックの一冠目・羽田盃が、大井競馬場で行われます(的場騎手はアンサンブルライフに騎乗予定)。東京ダービー、JDDへ続く大事な一戦。その東京ダービー、的場騎手は2着が9回あるものの、勝利はまだ手にできていません。「帝王賞は3回も勝ってるのにね」と苦笑いの的場騎手。今回はダービーへの思いと、ベテランの騎乗論についてお聞きします。「雲のように乗っていた」、この言葉の真意とは。(取材:赤見千尋)
(前回のつづき)
あんな乗り方ができたら、勝つわけだよ
赤見 今回は的場騎手の“技”を探っていきたいと思います。
『今でもルーキーだった頃の騎乗を思い出しますか? また、その時と今とで変わったこと、変わっていないことは何ですか? (みゅうげさん・女性)』赤見 的場騎手と言えば、あのパワフルな追い込みですが、新人の頃からあの乗り方だったんですか?
的場 新人の頃はもうちょっときれいに乗ってたと思いますよ。今は暴れてますから(笑)。
赤見 いや、今でもカッコイイですし、的場騎手が追い込んでくると場内が沸きます。
的場 いやいやいや。まあ、今の自分にやれるだけのことは、やってるつもりですけどね。ルーキーというか、一番いい頃は半端じゃなかった。馬に負担をかけないで乗れてましたよ。前重心で引っ張りもせず、馬の口角に一番気持ちいい感じでハミをあてて。赤見さんは何年競馬に乗られました?
赤見 7年です。
的場 あぁ、それならわかるでしょう。馬の口へのあたり、あれって難しいですよね? ただあてるだけだと、馬がファーっとなってしまう。あの頃はそういうのが全くなくて、「この馬、俺が乗ってると楽だろうな」って、そんな乗り方が出来てました。“ふわ〜”っと、雲みたいに乗ってましたもんね。
▲「雲みたいに乗っていた」そんな騎乗姿勢を再現
赤見 雲みたいに乗ってるって、いい表現ですね。それこそ人馬一体というか。
的場 うん、人馬一体というやつかな。スーッと乗って、前の馬との間隔もすごくよかったしね。馬も道中楽に走れるから、直線でビューっと伸びる。そりゃあバンバン勝つわけだよ! 雲みたいに乗れちゃうんだもん。
赤見 今でも的場騎手が乗ると、馬がよく動くと思います。
的場 いや、あまり気持ちよく走らせてないよなという感じはしてますね。一番いい頃は、レールの上をピューッと走るような、そんな乗り方が出来てましたもん。自分でも「何でこんな乗り方が出来るのかな」って。自分の思う通りに馬が動いたし、自分にしか出来ないという自負もあった。騎手として一番いい時代だったんでしょうね。あの頃はすごかった!
なぜ、返し馬が重要なのか
赤見 続いては、返し馬についての質問です。
『いつも返し馬を最後まで丁寧に行うのはなぜですか? 競馬を見始めた20年前から変わらず、尊敬しています (まーさんさん・男性)』的場 返し馬については、新人の時は全然違う考えだったんですよ。返し馬をすると疲れちゃう、レース前は疲れさせない方が絶対にいいんだ! って信じていたんだけど、とんでもない…。返し馬をやり出して、勝つようになったんです。あのね、馬っていうのは、馬小屋に入ってるときはゼロの状態なんです。
赤見 ゼロの状態。まだ動いてない状態?
的場 そう。厩務員さんが出して、装鞍所まで歩かせて、そこでジワジワほぐれる。でも、ちょっと歩いたぐらいでは、心肺機能って準備できてないんです。返し馬でのウォーミングアップによって筋肉がほぐれて、ようやく心肺機能も高まってくる、そう思っています。
赤見 返し馬で走るのは、疲れるわけではなく、ほどよい準備運動になるんですね。
的場 もちろん、疲れさせるほどやったらだめですよ。200mでも全力で走ると疲れちゃいますから。強い返し馬は、僕はやらないです。最初はキャンターからで、筋肉を温めて、心肺機能を高めて、ベストの状態でゲートの後ろに持って行くという流れです。
▲ファンの皆さんも見ていた丁寧な返し馬、その理由が明らかに
赤見 返し馬について、こういう質問もいただきました。
『的場さんが返し馬で2周すると穴でもよく馬券にからんだりしていますが、やっぱり返し馬で2周する馬は強いですか? そして自信があったりするときに2周するのでしょうか? (マスミさん・男性)』的場 違う違う(笑)。ほら、ゾウとかウシみたいな馬っているでしょう? パドックからカッカッしているような馬は、その時点でだいぶ筋肉も心肺機能も出来てきている。ところが、のっそのっそ気合のない馬は、返し馬をしっかりしておかないといけないから。じっくりほぐして、全能力を出してやろうと思っているんですよ。
赤見 そういう理由だったんですね。私も1つ質問させてもらってもいいですか? 的場騎手は鉛を自分自身の腰に巻いているじゃないですか。鞍下に鉛を入れて馬の背中に乗せる騎手が多い中で、どうしてなのかなって気になっていて。
▲専用のベルトに鉛を入れていき(撮影:赤見千尋)
▲そのベルトを腰に巻きつける(撮影:赤見千尋)
的場 あれはね、馬に負担をかけたくないからです。鞍につけるより自分で背負った方が、馬が楽なんじゃないかなって。
赤見 肉体的には大変じゃないですか? 1回真似したことがあるんですけど…
的場 どのくらい付けました?
赤見 500グラムです。それでモンキーの姿勢で乗ってみたんですけど、バランスが取れなくて。的場騎手はもっと付けていますよね?
的場 だいたい1キロ。2キロぐらいまでは平気ですよ。慣れですね。ただ、鉛をチョッキに入れるのはダメだった。アラブのオープンで60キロ以上背負わされた時に、チョッキを着たの。4キロぐらいだったけど、動けなかった。あれはダメだわ。腰のバンドはいいですよ。あれなら全然平気!
「今年が最後のダービー」の覚悟で
赤見 ちょっと話題を変えまして、クラシック戦線も始まり、今年も「東京ダービー」を感じる時期になってきました。ダービーに関する質問もたくさん届いています。
『東京ダービーを勝ててない的場騎手ですが、一番悔しかったレース(ダービー)はなんでしょうか? (まぐぽんさん・男性)』的場 2着9回だからねぇ。今年で10回目、やっちゃいますか(笑)。
赤見 いやいや! みなさん、的場騎手に勝ってほしいと思っています。今年の乗り馬はこれから決まっていくと思いますが、過去の東京ダービーで悔しかったレースといいますと?
的場 一番悔しかったのは、シナノデービス(1987年)。羽田盃まで無敗の5連勝でね。ダービーは2着だったんですけど、勝ったジヨージレツクスという馬は、僕が乗ってた馬だったんです。それだけに悔しかった。
その次は、5着だったけどブルーファミリーという馬ね(1993年)。この馬も羽田盃までは負け知らずの7連勝で、ダービーは1番人気。「この馬なら勝てるだろう」って思ってました。当時「外枠希望」ってできたんです。
赤見 枠順の希望が出せたんですか!?
的場 そうそう。昔のダービーって2400mで(1999年から2000m)、大きなカーブがあるので調教師はだいたい外枠を希望するんです。でも僕は、普通の枠じゃないと勝てないと思っていた。それは調教師にも伝えたんです。「負けたら俺が責任を取るから」って調教師が腹をくくって、結局14頭立ての14番目になってね。
赤見 大きなレースを勝つときは、全てがかみ合うって言いますもんね。的場騎手自身、「東京ダービー」にかける思いというのは?
的場 それはすごくあります。毎年毎年、一戦一戦。
赤見 去年のパーティメーカー(2着)も、ものすごい伸び脚で、場内がすごい沸き方をしました。
▲昨年の東京ダービー、ものすごい伸び脚に場内から大歓声(撮影:高橋正和)
的場 あぁ、そうですか。今年も沸かせます! ダービーというのは、一番思い出の多いレースでもありますね。勝ってないから、余計になのかな? 東京大賞典とか帝王賞は勝ってるのにね。帝王賞なんて3回も勝っているんですよ。中央の馬が来るし、よっぽどダービーの方が勝ちやすい気がするのに(笑)。あんな難しい重賞を勝ってるのに、ダービーが勝てない。
赤見 これがまた、大きなドラマにつながっていますね。
的場 そうかもしれないですね。死ぬまで勝てないかもしれない(笑)。「今年が最後のダービーになるかもしれない」、そんな覚悟でしっかり挑みたいと思います。
(次回へつづく)
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