9月8日、浦和「さきたま杯」。秋の交流重賞短距離路線がいよいよここからスタートする。例年同様“JBCロード”から外され、好走馬の優先出走権などは発生しないが、実質かなりハイレベル。血統趨勢も含め、JRAはこの部門の層がきわめて厚いということだろう。出走4頭はもちろん、補欠に回ったノボジャック、ディバインシルバー、シャドウスケイプ。いつもの繰り返しになるが、こういうケース、「JRA枠6頭」がやはり理にかなっている。軒先を貸して母屋を取られる…。しかしそんな時代ではないと心底思う。ファンをワクワクさせる番組を作ること、それが結局浦和競馬のイメージアップにもつながること。馬券の売り上げ、単にストレートな意味でも、おそらく大きく違ってくる。
さきたま杯(9月8日川崎 サラ3歳上 別定 交流G3 1400m)
◎マイネルセレクト (57・武豊)
○ブラウンシャトレー (57・張田)
▲ノボトゥルー (59・横山典)
△ニホンピロサート (57・安藤勝)
△ストロングブラッド (57・北村宏)
ロッキーアピール (56・今野忠)
マキバスナイパー (59・木村芳)
ともあれJRA勢は“選び抜かれた”メンバーになった。浦和1400mはなるほど小回りだが、コーナー緩やかな楕円形で、おおむね絶対スピードがそのまま生きる。力通りマイネルセレクト。昨秋大井JBCスプリント2着、当時初コースにモタつきながらサウスヴィグラスとわずか鼻差。その時点でダート短距離界、新王者誕生の感触があった。明けて中山1200mガーネットS圧勝、前走はドバイ挑戦。小差5着なら、むろんショックどころか、自信、収穫の方が大きいだろう。素直に1頭別次元の存在と判断する。遠征帰り云々は、帝王賞=アドマイヤドンを思えばその不安もナンセンスだ。
相手探し。今の戦力、勢いからはニホンピロサート→ストロングブラッドだが、この2頭、初コースなど微妙な状況を考えると、まだ信頼しきれない面がある。船橋転厩後馬が変わったブラウンシャトレー。一昨年、なにかふっ切れないまま臨んでこのレース3着だから、浦和1400m適性は高いだろう。前走のレースぶりからもここで完全燃焼がイメージできる。ノボトゥルーは現実に昨年、豪快な追い込みでディバインシルバーを一蹴した。前にも書いた「もうはまだ…」の典型例。短距離のスペシャリストは意外なほど息が長い。ロッキーアピールも個性を発揮できる条件ではある。いずれにせよ格はG3ながら、顔ぶれから密度の濃いレースを期待していい。
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9月2日、コスモバルクが旭川「北海優駿」で始動した。2着に1/2馬身差とは予想外にきわどかったが、レース運びを含めると“辛勝”でもない。当初から差す競馬がこの日のテーマ。事実道中3番手できっちり折り合い、GOサインとともに力強く伸びている。「お尻が小さく、つなぎが長い。もともとダート向きじゃないんです」(岡田繁幸氏)。なるほど前肢のカキ込み、回転とかいうより、のびやかに全身を使う、大きすぎるくらいのストライド。現実に北海道デビュー時、さして強くもない相手に2戦取りこぼしがあった。ひとまず思惑通り試走完了。次走は9月19日中山「セントライト記念」。菊花賞の出走権(3着以内)をめざして進む。
昨秋東京「百日草特別」がJRA初登場。ハイペースで飛ばしながら直線を向いてもうひと伸び。そのしぶとさ、したたかさに目を見張った記憶がある。心臓がいい馬、そういう印象。以後ラジオたんぱ杯を逃げ切り、弥生賞を差し返し、皐月賞2着、ダービー8着。そのダービーは4コーナー先頭から後続にドッと来られ、「僕のミス…」と五十嵐冬樹騎手が唇を噛んだが、これは展開のアヤ、勝負のアヤ、何よりキングカメハメハが強すぎた結果だろう。いずれにせよバルクの存在は、ファンに大きな夢を運んだ。地方馬が日本の頂点をめざし肉薄すること。これほどわかりやすい、応援したくなるドラマはない。
狭量を承知で書く。これが南関東馬なら…とは個人的にやはり思う。JRA認定制度はすでに3年の時を経て定着したが、南関東に限ると、むしろ年々挑戦意欲が減退していく感がある。勝負になる、夢が描ける、そういう馬は南関クラシックのためだけに温存され、代わりにいつもお決まりの、これでは…という馬が当たり前の大敗を続けていく。おおむね、ジョッキーがJRA騎乗機会を得るための便宜的なチャレンジ。内田博J、石崎隆J、彼らの活躍に期待しつつも、やはりこれは本末転倒。なにやら気分がすっきりしない。
ファンが地方競馬に求めるもの。もちろん人それぞれで押し売りするつもりはない。ただ一つ究極、突破口というなら、単純明快、誰もがスッと感情移入できるドラマと考える。すべてに恵まれた強者(JRA馬)に、底辺とされる弱者(地方馬)が、敢然と立ち向かう。結果はともかく、この形が繰り返されれば観戦者に“勇気”が出る。ハルウララ騒動とは異質の勇気。彼女が人に与える勇気とは、本質的に“感傷”が前提だった。実力で前進するバルクと一緒にされては、競馬そのものの存在がむしろ揺らぐ。
と、八つ当たり気味に書いたところで、そのセントライト記念、川崎トキノコジロー(長谷川蓮太郎厩舎)が、挑戦することを思い出した。羽田盃を豪快な末脚で制した個性派。JRA=南関東、今のレベルを考えると厳しいが、父ホリスキーは菊花賞馬。芝にフィーリングに合えばあるいは…の期待も浮かぶ。放牧先でじっくり乗り込み、仕上がり自体は良好と聞いた。何より、感情移入できるドラマが見られそうなことが、記者のような人間にはきわめて嬉しい。繰り返すが結果がすべてではないと思う。チャレンジする姿勢が、地方ファンに勇気を与える。