エアグルーヴ、ウオッカ、ダイワスカーレット、ブエナビスタ、ジェンティルドンナ、そしてショウナンパンドラ……近年、枚挙にいとまがないほど牝馬が活躍するようになった理由は何なのか。競馬の潮流を読むうえでも意味のある問いに、自他ともに認める“牝馬好き”鈴木淑子が迫る!
構成:中山靖大 90年代のエアグルーヴ、00年代のウオッカ、10年代のショウナンパンドラと、10年おきの名牝を通じて牝馬活躍の秘密に迫っていく対談企画、第1回は17年振りに牝馬で天皇賞を制したエアグルーヴの調教を担当していらした、笹田和秀調教師です。
際立っていた聡明さと精神力
鈴木淑子(以下:淑子) 今回は「牝馬はなぜ強くなったのか」というテーマなのですが、近年多い牡馬をしのぐ名牝のなかでも、1997年の天皇賞を勝ったエアグルーヴは先駆者といえると思います。そんな彼女はどんな馬だったのでしょうか。
笹田和秀(以下:笹田) 初めて跨ったとき「あぁ今までの人生で一番強い馬に巡り合ったな」と思いましたね。ウイニングチケット、ダイイチルビーやシャダイカグラにも乗っていましたが、牡・牝関係なく一番だと思いました。
淑子 ダービー馬のウイニングチケットよりも、エアグルーヴのほうが素晴らしかったと。それは「強い牝馬」の条件にもつながるかもしれないので、詳しくお伺いしたいのですが、具体的にどういったところを評価されたのでしょうか?
笹田 強く感じたのは無駄なことをしない「聡明さ」と環境に動じない「精神力」ですね。
淑子 聡明さ、というとどんなエピソードがありますでしょうか。
▼96年のオークスは母・ダイナカールとの母子制覇(撮影:下野雄規)
笹田 人間の言うことをよく聞いてくれる馬で、調教でゴーサインを出すときも、手綱を握っているこぶしをほんの1センチほど緩めるだけで「ギューン」と加速してくれたんです。エアグルーヴほど、人間と意志の疎通がはかれた馬は前にも後にもいませんでしたね。あとはレースにいくと勝負根性を見せてくれる馬だったのですが、厩舎では本当におとなしかったです。無駄なことを一切しない。
淑子 イレ込んで、うるさいところを見せるとか……
笹田 なかったですね。牝馬だと、たとえばマックスビューティやファインモーションのように、齢を重ねて気性がキツくなる馬も少なくないのですが、エアグルーヴは最初から最後まで、人間の言うことを聞く、賢い馬でした。
淑子 牡馬に交じって勝つような馬には、先生がおっしゃるような「素直に人間の指示に従う」聡明さが必要なのですね。力勝負ではかなわなくても、人馬一体で立ち向かっていくことで活路を見出すというような……。
笹田 そうですね。2歳で厩舎に入ってきたばかりのときから、アクセルを踏んだら反応よく加速してくれる馬でしたから。それは、人間の意志を理解できるからこそできることなのですよ。
淑子 なるほど、ではまず聡明さというのは「強い牝馬の条件」と言えますね。もうひとつおっしゃっていた精神力の強さに関してはいかがですか?
剥離骨折しながらもオークスを勝つ精神力
笹田 牝馬は輸送で環境が変わると飼い葉を食べなくなって