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「空前の大混戦」と言われている今年の英ダービー展望

  • 2016年06月01日(水) 12時00分


今年は実に4頭が7万5千ポンド(約1200万円)を支払って追加登録を行った

 今週は英ダービー(6月4日、エプソム)の展望をお届けするが、その前に、先週展望をお届けした英オークス(6月3日、エプソム)の戦線に、この1週間で起きた大きな動きについて言及したいと思う。

 エイダン・オブライエンの陣営から、前売り2番人気に推されていたバリードイル(牝3、父ガリレオ)の回避が発表されたのが、27日(金曜日)のことだった。英千ギニー2着の後、体調整わずに予定していたG1愛千ギニーを回避したバリードイル。その後に行った血液検査の結果は、体調は上向いているものの、オークスに完調で出走出来るところまでには至っていないとのことで、ここは自重することを決めたものだ。

 また、28日(土曜日)に設けられていた登録ステージで、ゴドルフィンが3万ポンドを払って、5月19日にグッドウッドで行われたLRハイトオヴファッションS(芝9F192y)でデビュー2戦目にして初勝利を挙げたスキッフル(牝3、父ドゥバウィ)を追加登録。G1マルセルブーサック賞2着馬ターレットロックス(牝3、父ファストネットロック)、LRプリティーポリーS3着馬イーヴンソング(牝3、父マスタークラフツマン)らと、2番人気の座を争うグループの一角に急浮上している。

 さて、ダービーである。

 5月30日(月曜日)に設けられていた登録ステージで、実に4頭が、7万5千ポンド(日本円にして約1200万円)という大きな金額を支払って追加登録を行ったという事実が、今年のダービー戦線のありようを端的に示している。まったくもって、ダービーへ向けた前売り市場で本命の座に祭り上げられる馬がこれほど変わった年も、あまり記憶にない。そして、確固たる軸馬が居ないままに進行してきたダービー戦線は、結局そのままの状態で当該週に突入。「空前の大混戦」と言われているのが、今年の英ダービーなのである。

 そんな中、5倍前後のオッズで1番人気を分け合う形となっているのが、ユーエスアーミーレンジャー(牡3、父ガリレオ)とウィングスオヴディザイア(牡3、父ピヴォタル)の2頭である。

 ユーエスアーミーレンジャーは、G1愛オークス馬ムーンストーンの4番仔という良血馬である。精鋭揃いのエイダン・オブライエン軍団の中でも素質を高く評価されていた1頭で、デビューは4月3日にカラで行われたメイドン(芝10F)だった。ここを3/4馬身差で制してデビュー勝ちを果たすと、この段階でこの馬を、ダービー1番人気に祭り上げるブックメーカーも現われている。同馬の2戦目となったのが5月5日にチェスターで行われたG3チェスターヴァーズ(芝12F66y)で、ユーエスアーミーレンジャーはここも白星で通過して2連勝で重賞勝ち馬となったのだが、内容は逃げた同厩のポートダグラス(牡3、父ガリレオ)を短頭差交わすという辛勝で、評価は2つに分かれることになった。ポートダグラスは、2歳時G1レーシングポストトロフィー(芝8F)で4着となっている実績馬で、デビュー2戦目にしてこの馬を破ったのはたいしたものだ、というのがポジティヴな意見。一方、ユーエスアーミーレンジャーにとってはこれが今季2戦目だったのに対し、ポートダグラスはここが今季初戦で、仕上がりの面でアドバンテージがあったはずの馬がG1・4着馬に辛勝では、ダービーなど覚束ない、というのがネガティヴな見方であった。ダービー候補と言うにはいささかパンチに欠ける勝ち方だったことは確かで、繰り返しになるが、それでも1番人気を分け合う評価を得ている辺りが、混沌とした戦線を如実に物語っている。

 ウィングスオヴディザイアは、追加登録組の1頭だ。こちらも、昨年のG1キングジョージ2着馬イーグルトップや、13年のG1英オークス3着馬ザラークの全弟という良血馬である。この馬もデビューは今年になってからで、4月13日にニューマーケットで行われたメイドン(芝10F)で3着になると、10日後にウルヴァーハンプトンで行われたオールウェザーのメイドン(AW12F50y)で初勝利。そして、同馬の3戦目となったのが、本番との結びつきが最も強い前哨戦とされているヨークのG2ダンテS(芝10F88y)だった。このレースには、ウィングスオヴディザイアと同厩で、2歳シーズン終了時には多くのブックメーカーがダービー前売り本命に推していたファウンデーション(牡3)も出走していて、つまりは、ゴスデン厩舎の主戦を務めるフランキー・デトーリはこちらに乗ることも出来たのだが、フランキーはG2ロイヤルロッジS(芝8F)勝ち馬ファウンデーションを差し置いて、メイドンを勝ったばかりでダービーは未登録のウィングスオヴディザイアを選択。名手のサポートを受けることになったウィングスオヴディザイアは、エイダン・オブライエン厩舎が送り込んだG3タイロスS(芝7F)勝ち馬ドーヴィルをゴール前で首差差し切る競馬を見せ、重賞初制覇を達成。管理するJ・ゴスデン師はレース後直ちに、追加登録を行ってのダービー出走を表明した。

 続いて、7〜8倍のオッズで3番人気を争っているのが、ユリシーズ(牡3、父ガリレオ)とクロースオヴスターズ(牡3、父シーザスターズ)の2頭だ。ニアルコスファミリーによる自家生産馬ユリシーズは、07年のG1英オークス勝ち馬ライトシフトの3番仔という良血馬である。デビュー戦となった、昨年10月23日にニューバリーで行われたメイドン(芝8f)では6着に敗退。シーズンオフを挟んで今季初戦となった、4月23日にレスターで行われたメイドン(芝9F218y)も2着と勝ち切れず。同馬の3戦目となったのが、5月13日にニューバリーで行われたメイドン(芝10F6y)だった。実を言えば、日本の競馬関係者がおおいに注目していたのがこのレースで、と言うのも、14年のセレクトセール1歳セッションにて最高価格となる2億6千万円でカタールのファハド殿下が購買したニューワールドパワー(父ディープインパクト、母リッスン)が、このレースでようやくデビューに漕ぎつけたのである。ニューワールドパワーはここで、2着と健闘。だが、同馬に8馬身という決定的な差をつけて勝ったのが、ユリシーズだったのである。

 そのユリシーズと3番人気を分け合うクロースオヴスターズもまた、追加登録組の1頭だ。クロースオヴスターズとユリシーズは、同じ牝系の出身である。クロースオヴスターズの母ストロベリーフレッジは、ユリシーズの母ライトシフトの1歳年下の全妹で、すなわち2頭は従兄弟同士という間柄なのである。タタソールズ10月市場にて40万ギニーでゴドルフィンに購買され、フランスのアンドレ・ファーブル厩舎に入厩。2歳時は4戦し、G3シェーネ賞(芝1600m)を制した他、G1クリテリウムドサンクルー(芝2000m)2着、G3コンデ賞(芝1800m)3着などの実績を残した。シーズンオフの間に成長を見せたクロースオヴスターズは、今季初戦のG3ラフォルス賞(芝2000m)、続くG2グレフュール賞(芝2000m)を連勝。フランス在籍ゆえ英ダービーの登録はなかったが、今年の顔触れが相手なら充分勝負になると見て、グレフュール賞の直後に追加登録をしての出走を表明していた。

 以下、11〜13倍のオッズに、5月8日にレパーズタウンで行われたG3愛ダービートライアルS(芝10F)を制したムーンライトマジック(牡3、父ケイプクロス)と、G2ダンテS2着のドーヴィル(牡3、父ガリレオ)の2頭が、13〜15倍のオッズで、G1英二千ギニー(芝8F)2着馬マッサート(牡3、父テオフィロ)、13〜17倍のオッズで、G3チェスターヴァーズ2着馬ポートダグラス(牡3、父ガリレオ)と続いている。

 空前の混戦がどのような決着を見るのか、その行方に注目したい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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