日本ダービーを終えて
先達のことばには、つい引き込まれることが多い。化学者であり登山家でもあり、第一次南極観測隊の越冬隊長を務めた西堀栄三郎氏の著書の中に、こんな下りがあった。「探検家は調査をしてから、やるかやらないかを決めるという方法はとりません。やると決心して調査をはじめます。やる決心をしての調査は、いかにしてリスクを減らすかに専念します」と。成功するには何のトリックもなく、ただ全力を尽くすのみ。もちろん、そこには創意工夫がもとめられるが、要は、ひたすら継続すること、そんな風にも読み取れる。
ダービーという頂点を極める道も、これに近いものがある。一刻一刻が勝負であり、その気迫が日々もとめられていると言っても過言ではない。どの陣営もその努力を積み重ねてきて、ようやく檜舞台に立ったのだ。そこまでの道のりを思うと、あのファンファーレとともに沸き上がる歓声が、祝福のように感じられた。だが、覇者になれるのは一頭だけ、どこがどう違うのか。そこには何のトリックもない。全力を尽くす先に訪れた幸運としか言いようがない。今年のダービー馬マカヒキは、皐月賞でこそあと一歩の敗戦を喫したが、友道調教師は「上がりもちゃんと走っているし。この馬のレースはできていた」と次の大目標を見すえていた。
ただ、人間の方がこうしたいと考えても、あくまでも馬本位でいかなければならない。そこに、運不運が働く。マカヒキは幸いに、人の思いを遂げるにふさわしい状況に成長してくれた。友道師によると、「使うごとに、レース後の回復が早くなっている。強くなってきた感じです。これまでで一番順調にレースに向かわせられます」と、その成長ぶりがうかがい知れた。「体に無駄がなくなり、筋肉量が増え、精悍で理想的な体に」とも語り、「落ちつきがあって、どんな状況でも折り合いがつくし、東京の方が戦いやすい」とまで言えたのだから、あとは、川田騎手の当日の騎乗次第。追わせる舞台なら得意とばかり、本領を発揮できたのだった。
可能性のある夢が広がってきたが、それは、サトノダイヤモンドはじめ他の陣営にも言えること。何のトリックもない秋に向けての、一刻一刻の勝負が続いていく。