9月15日、大井「トゥインクルレディー賞」。プルザトリガーが昇り馬の勢いそのまま、力強いレースぶりで快勝した。外枠ながら素早く2番手をキープして終始スムーズ。直線中ほど鞍上のステッキに応え、一、ニ、三のタイミングで抜け切った。逃げたアートブライアンに3.5キロのハンデをもらっていたこと。内田博騎乗で3戦3勝、抜群に手が合うこと。それでも前走川崎交流G3「スパーキングレディーC」グラッブユアハートの3着だから、見方によってはむしろ順当。昇り馬買うべし、セオリー通りの結果だったか。「道中イメージ通りの位置がとれた。この馬のよさはスタミナですね。追い出してから我慢がきく」(内田博騎手)。道営から南関へ転じ、5歳秋の初タイトル。今後は11月3日大井新設重賞「TCKディスタフ」(地方競馬交流・ダート1800m)を目標に据える。
トゥインクルレディー賞(サラ3歳上牝、ハンデ、南関東G2、1600m良)
△(1)プルザトリガー (53.5・内田博) 1分40秒4
○(2)アートブライアン (57・石崎隆) 2.1/2
◎(3)アイチャンルック (52・山田信) 3
△(4)ショウナンシャトー (51・江川) 鼻
▲(5)アオバコリン (56.5・今野) 2
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△(8)ドリームサラ (56.5・的場文)
△(9)ブルーマドンナ (55・左海)
単460円 馬複1290円 馬単2440円
3連複1690円 3連単8410円
ただしレベルを含めた客観的な評価は、少し分かれる部分もあるだろう。1600m1分40秒4。翌々日B1の勝ち時計1分40秒0(テラノコマンダー)という馬場だからきわめて平凡。現実に昨年アートブライアンは1分38秒6(1590m)で勝っている。1000m通過61秒9、スローの2番手という展開も理想的だった。要するに他馬がさっぱり走っていない。ナミしかりエスプリシーズしかり、コンサートボーイしかり、勢いに乗ったカコイーシーズ産駒の成長力は確かに凄いが、真価を問われるのはやはり次走になりそうだ。とはいえ小柄な馬体に似合わぬ、渋く逞しい気性。鞍上のコメントからも距離延長は問題ない。
アートブライアンは2着を確保したものの内容はほめられない。「もまれたくないので馬の行く気にまかせて逃げた。今日は仕方ないでしょう」(石崎隆騎手)。ハンデを背負う立場になって情勢が厳しいか。正直昇り目はイメージしにくい。対してアイチャンルックは、結果離された3着でも中身が濃かった。テンから動ける気性でもなく、道中スローを中団よりやや後ろ。直線大外に持ち出し、上がり37秒ソコソコで伸びている。前走黒潮盃よりさらに7キロ増の444キロ。パドックでもイレ込みが消え堂々とした雰囲気だった。外コース1800〜2000mなら痛快な逆転劇があるだろう。最近の牝馬では珍しい本格派の追い込み馬。今後がいよいよ楽しみだ。ショウナンシャトーが右回り向きを生かして健闘。アオバコリンは急きょ乗り替わり(森下騎手負傷)で、無難に乗った5着だろう。ドリームサラは重賞で再び勝負弱い面が出てしまった。岩手の怪物トウケイニセイ、希少な産駒。残念ながら実戦で父ほどの気迫、集中力がみえてこない。
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日本テレビ盃(9月23日船橋、サラ3歳上、別定、交流G2、1800m)
◎アンドゥオール (57・松永幹)
○ナイキアディライト (57・石崎隆)
▲アジュディミツオー (53・内田博)
△ストロングブラッド (56・北村宏)
△トーシンブリザード (58・佐藤隆)
△スナークレイアース (56・小野次)
重複登録のカイトヒルウインド、プリサイスマシーンが中山「ペルセウスS」に回り(結果はワンツー)、JRA馬3頭。少し寂しくなったが、反面レースの焦点、みどころは絞れてきた。ひとつのポイントは、船橋ナイキアディライト、アジュディミツオーの先行争いだろう。ともに東京ダービー馬。もちろん格は帝王賞2着の前者だが、後者もわずかキャリア6戦で頂点制覇など、単なるスピード馬、快速馬とははっきり違う。両者ともホームの利がある。ワンツーをイメージすれば、Aミツオーの逃げ、Nアディライト2番手という並びになるか。
ハナから競り合うというのではなく、結果として競り合ってしまえばアンドゥオールの思うツボだ。前走帝王賞、人気ほど走れなかったが、これは大井コース、その厳しさ、ある意味特殊性でもあるだろう。3走前中山「マーチS」、プリサイスマシーンを並ぶところなく捕えた瞬発力は誇張でなく息をのんだ。左回りは実績から問題ない。きわめてオーソドックス、走りやすい船橋1800m。切れ味全開と判断する。ストロングブラッドは群馬記念圧勝に注目すれば互角だが、勝ちパターンが固まらず、記者個人の観点からはまだ小物のイメージ。トーシンブリザードは再びひと息入り、最重量58キロと条件がやや厳しい。スナークレイアースは前走盛岡2000m、マーキュリーCが最高の舞台ともみえる。速い流れで末脚が温存できるかどうか。
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9月14日、「シンボリルドルフ・種牡馬引退」が報じられた。昭和56年生まれ、23歳。父パーソロン、母スイートルナ(スピードシンボリ)。時の流れとは改めてつくづく速い。ルドルフは言うまでもなく希代の名馬。通算16戦13勝。3歳クラシックを無敗で制し、以後天皇賞、有馬記念(連覇)、ジャパンC、可能なタイトルすべてを獲った。「グレード制」が敷かれ、その2年目のことと記憶する。ミスターシービー、カツラギエース、きわめて強力なライバルと戦いながらG1・7勝。王者のリタイヤが早い昨今の趨勢からは、7勝の記録自体、おそらく破られることもないだろう。ルドルフへの讃辞、あまりにも強い馬には言葉を選ぶのが難しい。「ルドルフの出現は、紀元前と紀元後(BC・BA)くらいのインパクト…」。何やら意味不明の感想を書いたことを思い出す。
個人的、とりとめもない感傷と断って思い出を2件書く。1つはルドルフ、昭和60年ジャパンC圧勝のとき、船橋ロッキータイガーがその2着に健闘したこと。当時ロッキーは帝王賞(地方馬限定)、東京記念を勝ち、公営No.1で臨んだが、正直ひいきの強い記者でさえさすがに単勝は買えなかった。“皇帝”の強さ、それは明らかに別次元とみえたから。ロッキーは父ミルジョージ、相当ズブい追い込み馬で、ごく常識的には芝適性にも疑問があった。それが外国馬を豪快に捕え、東京競馬場のスタンドが歓声に大きく揺れた。直線大外、桑島孝春の“水車ムチ”がうなったとき、歓喜というよりむしろ茫然としたのを覚えている。しばらくしてふつふつと勇気がわいた。あのルドルフと好勝負する、そんな馬が南関から現われた驚きと感動。逆にいえばルドルフの存在とは、当時それだけ重みがあった。
もう1つ。ルドルフの3歳時、皐月賞→日本ダービーと勝ち進み、しかしその秋はステップに注目が集まっていた。当時社台ファームと双璧だったシンボリファーム。看板馬ルドルフにどんな道を歩ませるのか。“三冠”の絶対的なイメージがにわかに揺らぎ、とりわけ長丁場・菊花賞について一種懐疑的な意見、ムードが出てきた時期でもあった。10月初旬の土曜日、東京競馬場で某大学、競馬サークルとおぼしき青年からアンケート用紙を手渡された。「ルドルフの進む道。いいと思う方に○をつけてください。菊花賞OR…天皇賞」。少し逡巡したのち、菊花賞に○をつけた。そのとき記者がどんな理由で選択したかは、無責任ながら記憶が薄い。いずれにせよ、ルドルフは菊花賞を選び三冠を達成した。04キングカメハメハはどうなのだろう。時代が大きく違うから、同じ観点で論じられるわけもない。ただ、ファンの望む名馬像、英雄像は“万能”でたぶん不変だ。
ともあれシンボリルドルフは種牡馬としても成功した。初年度からトウカイテイオーを輩出し、追い討ちをかけるようにキョウワホウセキ、アイルトンシンボリ。しかし地方競馬にもそれなりの足跡を残している。平成5年、金沢・ミスタールドルフが「ダービーグランプリ」を制した。水沢2000m。渡辺壮騎手鞍上に豪快な差し切り。JRA未出走、中央では脚部不安などの理由で仕上がらず、以後金沢転出、様子を見ながら使える地方の“ユックリズム”でものの見事に開花した。ルドルフ自身は天才型のスーパーホースだが、その血はというと、案外パワー、スタミナの方向でより強く生きている。南関のトウカイテイオー産駒。そういえば先日、川崎「戸塚記念」を2着したトウカイリーチがそうだった。息の長い末脚を持つステイヤータイプ。ひそかに期待したい馬である。