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八戸市場

  • 2016年07月06日(水) 18時00分
八戸市場

八戸市場風景


県内生産者にとっては地元で開催される唯一の市場

 去る5日(火)、青森県八戸市八戸家畜市場にて、「八戸“颯”市場」が開催された。毎年テーマとなる漢字が一字、市場名に挿入されるのが八戸の特色で、因みに昨年は「揮」一昨年は「祭」が入っていた。

 さて、今年の八戸市場は、例年と比較すると格段に涼しい気候に恵まれ、大変しのぎやすい中で開催されたのは何よりであった。毎年、だいたい暑さに祟られる(北海道人の私などは特に)ものだが、今年は半袖では動いていなければ肌寒く感じるほどの気温となり、午前中はほぼ曇りで経過したことから、慌てて長袖を重ね着する人の姿が目についた。

 八戸市場の今年の上場予定馬は、名簿上43頭である。当日になり1頭の欠場が出たため、実際に市場に集まったのは42頭。そのためスケジュールはひじょうにゆったりと設定されており、比較展示開始が午前10時半となっていた。

八戸市場

比較展示風景



 これはおそらく遠くから来場する購買関係者に配慮した結果と思われるが、この頭数をさらに3つのグループに分割して14〜15頭ずつの展示である。北海道の1歳市場ならば、250〜260頭を1日でさばくセリになるので、展示も一度に40〜50頭程度は出てくるが、ここでは進行など全てにおいてのんびりしており、少頭数の展示をたっぷり20分間もかけて行なう。のみならず、比較展示の後は、時計回りに展示会場を常歩で1周し、最後に1頭ずつ速足を披露する念の入れようである。

八戸市場

展示後、時計回りに周回する上場馬



 もっとも、この緩やかな時間割のおかげで、上場馬を連れてきている生産者や飼養管理者は、確実に助けられてもいる。なぜならば、3回の展示に同じ人が毎回違う馬を引いて出てくるような例がずいぶんあったからだ。複数の上場馬を申し込んでいても、しっかりした引き手を頭数分だけ確保できない牧場もあるようで、その結果、毎回同じ人が馬を引いている姿を目撃することになった。

 さらに八戸市場の待機馬房は、坂を下った斜面に建てられており、暑い年には馬房とセリ会場との往復だけで汗だくになってしまうような地形である。平らな場所に建つ北海道市場とは環境が違い、ここは馬を連れてくるには結構辛い市場なのである。

八戸市場

待機馬房から坂を上がってくる上場馬



 3グループに分けた比較展示が終了したのはほぼ正午であった。その後、昼食タイムが設けられ、お弁当と豚汁が配られた。今年の気候では、暖かい汁物がありがたかった。

 開催に先立ち、主催者を代表して、青森県軽種馬生産農協の山内正孝組合長が挨拶に立ち、12時40分よりセリが開始された。

 今年の八戸の上場馬は地元のJBBA七戸種馬場にて繋養されているスクワートルスクワート産駒が5頭いる他は、バラエティに富んだ種牡馬構成になっており、43頭ながら30頭もの種牡馬の産駒が揃った(1頭欠場したので42頭で29頭の種牡馬になった)。

 また販売申込者別では、地元青森産馬26頭に対し、北海道(日高管内のみ)からの遠征組は16頭で、おおよそ6対4の割合である。

 セリは前半の10頭あたりまでが苦戦し、売却率3割程度で推移して行ったが、その後声のかかる馬が増え、落札馬が続出するようになった。数頭売れてたまに主取りが出たかと思ったら、また売れ出すという繰り返しで、なかなか活気のあるセリが現出した。

 ただ、思ったほど価格が伸びず、500万円を超える落札馬が少ない。42頭なので、セリは順調に進み、午後2時頃にはすべての上場馬が登場し終わった。

 セリの結果は既報の通り、42頭(牡17頭、牝25頭)のうち、26頭(牡11頭、牝15頭)が落札され、売却率は61.9%、総額7052万4000円の売り上げで、落札馬の平均価格は271万2461円(いずれも税込み)であった。

 前年と比較すると、上場頭数で12頭減、落札頭数で5頭減、売却率は同市場初の6割超えで前年より4.5%上昇したものの、総額、平均価格ともに前年を下回った。

 なお、頭数の少ない割に今年は83名もの購買者登録があり、冒頭、挨拶に立った山内組合長も「お2人で1頭ずつ購買して頂ければ全馬が落札される計算になります」と語っていたが、現実的には、購買者のチェックした馬が特定の何頭かに集中してしまうのは避けられないのである。またJRAは、今回3頭(牡2頭、牝1頭)を購買した。

 最高落札価格馬は19番「グランドアメリフローラの2015」(牝黒鹿毛、父シンボリクリスエス、母の父Grand Slam)の604万8000円(税込)。生産、飼養管理者ともに(株)タイヘイ牧場(新ひだか町)、落札者はJRA日本中央競馬会。

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「グランドアメリフローラの2015」の立ち姿


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展示後、速歩している「グランドアメリフローラの2015」



 牡馬では、24番「マルターズホビー2015」(牡黒鹿毛、父ケイムホーム、母の父スピニングワールド)の540万円(税込)が最高価格馬であった。生産者は十和田市・スプリングファーム、飼養管理者は上北郡東北町・(有)荒谷牧場。落札者は新冠町・(有)コスモヴューファーム。

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「マルターズホビー2015」の立ち姿


八戸市場

展示後、速歩している「マルターズホビー2015」



 市場を総括して山内組合長は「欠場馬が1頭だけにとどまったことは当市場の信頼性に繋がるものと判断しております。売却率も6割を超えました。ただ、上場頭数、売却頭数が減ったこと、売り上げ総額も前年を下回り、平均価格も下がったことが残念です。しかし、ここ数年は県内生産頭数も徐々に増加しつつありますし、今後はいかに目玉商品を確保して行けるか、見てみたいと購買者の方々に思って頂けるような上場馬が複数欲しいですね」とコメントし、「点数をつけるとしたら75点といったところでしょうか」と結んだ。

 県内生産者にとっては、地元で開催される唯一の市場で、何とか存続して欲しいと切に願うのみである。価格はともかく、売却率の上では、青森産馬が26頭中17頭(65%)落札されたのに対し、北海道からの遠征組は16頭中9頭(56%)の落札で、むしろ地元産馬の方がより売れる結果となったことを追記しておきたい。
八戸市場

地元産馬の方がより売れる結果となった今年の八戸市場

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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