10月6日、川崎「鎌倉記念」。エスプリフェザントが南関2歳初重賞を衝撃的な強さで勝った。デビュー戦同様スタートはそう早くなかったが、出ムチがポンポンと入ると、難なくハナ。加速がついてからのスピードはひとこと別次元で、向正面、3〜4コーナー、終始持ったまま5馬身ほどのリードをつける。直線手前を替えきったところで鞍上がGOサイン。さらにスピードアップの独走となった。結局新馬勝ちとまったく同じ13馬身差。何より1500m1分34秒0の時計が凄い。確かに雨上がりの軽い馬場だが、最終レースB1ジョウテンデヒア(東京ダービー3着)が1600m1分40秒9。とうていキャリア2戦目の2歳馬にイメージできる数字ではない。
鎌倉記念(サラ2歳 別定 南関東G2 1500m重)
◎(1)エスプリフェザント (53・久保勇) 1分34秒0
(2)ジェネスジョニー (53・桑島) 大差
△(3)カネショウハヤブサ (53・野崎) 首
○(4)ツインイーグル (54・酒井) 首
(5)コスモメンツェル (53・左海) 3/4
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▲(6)ガイアヘッド (54・的場文)
△(10)トーホウリキジン (54・森下)
単130円 馬複4650円 馬単4510円
3連複22,680円 3連単58,660円
パドックのエスプリフェザント。467キロ。とりたてて凄みは感じられず、気配、仕草もきわめておっとり。目立たない普通の馬、正直そんな印象だった(これはデビュー戦も同じ)。しかし、いざゲートが開くと一変する。馬格、見映えとは別の高い資質、おそらく内面(気性・心肺機能など)がズバ抜けていいのだろう。「1コーナーで先頭に立つよう指示された。その仕事ができたから、あとは力通り。怪物かもしれない。ダービーのにおいがする」(久保勇騎手)。父デュラブ、低くみて同時期トーシンブリザードと互角の評価か。母の父ゴールデンフェザント。兄エスプリシルバー、エスプリゼットなど厩舎、オーナーゆかりの母系。次走は10月27日「平和賞、船橋1600m」と明言された。現南関No.1どころか、ことダートなら全国レベルで2歳最強の可能性もある。
2着争いは混沌だった。逃げた勝ち馬の能力が別次元の場合によくあるケース。コスモメンツェル、ガイアヘッド、追走組が苦しくなり、中団をロスなく乗った人気薄ジェネスジョニーが最後の最後馬群を割った。「ちぎれた2着は桑島…」、そんな金言があるらしい。少し力の足りない馬で、一つでも上をめざすにはどう乗るか。かつて天才と謳われた同騎手は、いささか地味な存在になった今も随所にさすがというプレーをみせる。ただこのジェネスで1分36秒6だから、全体の水準もけっして悲観するものではない。対抗格の人気だったカネショウハヤブサ、ツインイーグルが4、5着。ともにややジリ脚を思わせるが、ひとまず安定したレースができている。とりわけツインイーグルは、462キロの数字以上にのびやかで躍動感のある好馬体。勝ち馬を別格に置けば、成長株はこれだろう。
場内に“JBCロード”のポスターが貼られていた。「とんでもないやつが、地方競馬には、いる」。「地方競馬にも、」ではなく、「地方競馬には、」としたところが、コピーライターの思い入れと心意気かもしれない。JRAのエリートに、地方競馬のとんでもないやつが立ちはだかる、そういう図式。そんなヒーローが現われてほしい、もし現われたなら、みんなで競馬場に見に来てほしい――。JRA対地方競馬。馬の素質(値段)はもちろん、それ以上に調教施設(プール、ウッド、坂路など)の面で、大きなハンデを背負う地方競馬。しかし、裾野であり、底辺を支えている地方競馬が元気でなければ、日本の競馬全体が危うくなる。現実にかつてはそんな逆境の中、JRAを凌駕する名馬が何頭も現われた。古くはハイセイコー、ホスピタリティ、イナリワン。そしてコスモバルクはいうまでもない。
「これはホクトベガだな…」。モニターでVTRを見ていると、隣のベテランファンがつぶやいた。キャリア2戦目の2歳馬。はたしてそうなるかどうかはわからない。馬自身の素質と成長力の問題。それでも“候補”が現われたのは事実だろう。記者個人でいうなら願望と夢、それに身びいき、判官びいきが入り混じり、この夜は久々に嬉しい高揚感を味わっている。もっとも当のエスプリフェザントは、ゴールイン後不思議なほどリラックスした足どり、息づかいでカンカン場に戻ってきた。周囲の興奮と驚愕をよそに、平静そのもので口取り写真におさまっている。想像するに、同馬の一番いいところはこのあたりなのかもしれない。
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埼玉新聞杯(10月13日浦和 サラ3歳上 別定 1900m)
◎モエレトレジャー (54・金子)
○ストロングゲット (56・的場文)
▲ロッキーアピール (58・今野)
△ファイブビーンズ (56・内田博)
△マキノヒリュウ (54・野崎)
△ブルーマドンナ (54・左海)
△アイアンハヤブサ (56・佐藤隆)
前走さきたま杯、交流重賞大金星をあげたロッキーアピールだが、昨年このレースは現実に先行ジリ下がりの7着だった。本質的に短〜マイル向きであること。もまれ弱く危なっかしい気性であること。今回58キロで一本人気となると、疑ってみる手もあるだろう。
3歳モエレトレジャーは前走戸塚記念2100mを痛快なまくりで制し、春のしらさぎ賞(浦和)に続く重賞2勝目。それでいて今回54キロで出走できる。一連の大井クラシックロードは入着ラインにとどまったが、軽い馬場のスピード、瞬発力勝負なら真価発揮。おそらく逃げるロッキーを2〜3番手で見据える展開。初の古馬対戦ながら、自身走れる条件はすべてそろった。
地元大井で低迷が続いたストロングゲットが、前走初コースの船橋戦快勝でようやくトンネルから脱出した。左回りがカンフル剤になったとなれば、改めて潜在能力、距離適性に注目できる。昨年このレースをマキバスナイパー相手に勝ったファイブビーンズも条件ベストだが、ズブさのある追い込み型で4ヶ月ぶりはやはり気になる。昇り馬マキノヒリュウ、意外に浦和向きのブルーマドンナまで注意。人気は片寄っても、実質波乱含みの一戦だろう。