◆将来的に混乱のもとに
24日(日)には記念すべき重賞勝ちが2つあった。
ひとつは高知のトレノ賞。人気2頭がスタートから最後の直線まで競り合うところ、ゴール前で鮮やかに差し切ったのがメイショウツチヤマ。昨年秋から今年4月まで重賞3勝を挙げていたが、その後の成績がイマイチで、今回は単勝22.4倍の5番人気。その馬を勝利に導いたのが中田貴士騎手だった。
中田騎手は2008年11月に兵庫でデビューし、昨年まで9年ちょっとで114勝。必ずしも順調だったとはいえない成績だ。そして今年6月11日からは高知で期間限定騎乗。今回のトレノ賞での勝利がデビュー以来はじめての重賞タイトルとなった。
ちなみに中田騎手は昨年19勝だったが、今回高知での期間限定騎乗では、ここまで約1カ月半、14日間の開催で16勝を挙げるという活躍だ。10年ほど前から盛んになった他地区での期間限定騎乗では、たまにこうしてブレイクする騎手が現れるだけに、貴重な機会といえよう。
そしてもうひとつは、佐賀の吉野ヶ里記念。逃げて直線でも先頭だった断然人気のテイエムチカラを、ゴール前で一気に差し切ったのがカシノタロン。鞍上の石川慎将騎手は、スタンドの方を向いて左手を突き上げ、勝利をアピールした。
そしてゴール後、向正面を流すあたりでこんな場内実況があった。
「石川慎将、重賞レース、S1(エスイチ)は初優勝です。おめでとう!」
さらに、主催者からのリリースにはこんな一文が。
「カシノタロン号の山下定文調教師と、騎乗の石川慎将騎手(石川浩文厩舎所属)は共に、初の佐賀競馬S1重賞初勝利となりました!」
“GI初勝利”とかなら競馬に興味のある人なら誰にでもわかるし、絵にもなる。しかし佐賀での重賞初勝利では、わざわざ“S1重賞”と断らなければならないのが、なんともおかしい。佐賀には、他の競馬場なら普通は準重賞か特別の扱いとなる“S2重賞”が年間50レース以上も設定されているからだ。
そもそも佐賀競馬の厩舎関係者と話していても、S2重賞を重賞として考えている人はいない。S2重賞には条件クラスのレースも少なくないし、また番組の都合で年によってレースの条件が変わってしまうレースもあるから当然のことだ。
だいぶ以前にもこのコラムで指摘しているが、重賞の体をなしていないレースが重賞として記録に残ってしまうのは、将来的に混乱のもとになる。
騎手や調教師や馬のプロフィールを示すとき、一般的に「通算◯◯◯◯戦△△△勝、重賞××勝」と表記するが、地全協の公式データには当然のことながら佐賀のS1重賞とS2重賞の区別はない。もはや佐賀の騎手や調教師や馬は、「重賞××勝」というプロフィールが表せないのだ。佐賀の主催者でも、さすがにS2重賞まで含めて通算の重賞勝利数を表すことはないだろうし、まして「通算S1重賞××勝」ということもわざわざしないだろう。
競馬は記録の積み重ねであることを考えれば、佐賀のS2重賞は今すぐにでも改められるべきだ。