キャロットクラブ・西の重鎮期待の星「ハープスターになってくれないかな」/吉田竜作マル秘週報
◆飛びつく要素のないディーパワンサを指名に至ったのは…
かつては「大物は秋から」というのが定説だったが、近年は早期デビュー組からもクラシックホースが出るようになってきた。イスラボニータ、エイシンフラッシュ、ゴールドシップ、ハープスター、レッツゴードンキ、ロジユニヴァース、ワンアンドオンリーなど、夏開催デビューの例を挙げればきりがない。
「来年のことを言うと鬼が笑う」とのことだが、こと競馬の世界においては当てはまらない。POGそのものが、その“鬼”を黙らせるべく、2歳馬を指名し、来年を見据えたゲームだからだ。
記者が「ザッツPOG」で指名した馬の一頭に中京2歳Sを制したディーパワンサがいる。新種牡馬ディープブリランテ、開業して日が浅い松下キュウ舎…POG的には飛びつく要素はあまりなかったのかもしれない。
それでも指名に至ったのはキャロットクラブの西の重鎮・N女史の強力なプッシュがあったから。同世代ということで松田博キュウ舎があった当時から仲良くさせてもらっているが、その彼女が「ハープスターみたいになってくれないかな、って思ってるんです」
ただ、すぐに飛びつけないのがひねくれ者の悲しいさが。そこから松下調教師を取材して「1200メートルから使う予定もあったけど、そういう馬じゃなさそう。距離のある開催までデビューを延ばすことになりました」という証言を得て指名に至った。そこからの活躍はご存じの通り。何より走るフォームが素晴らしい。
「腰が甘いと頭が上がってきて乗るのも難しくなるけど、今のところはそういうところがない。見た目もいいだろうけど、乗っていても注文がつかない」と河北助手も大絶賛。この時期にありがちな完成度の高さゆえの活躍と思われる方もいるだろう。しかし、同助手はこんなエピソードを披露した。
「中京2歳Sの最終追い切りは初めてウッドに1頭で入ったけど、自分のイメージ通りに乗れなかったんだ。初めてでいろいろなものを見るし、出口を見たら帰ろうとするし(苦笑)。坂路と違って幅員もあるからふらふらしていたしね。ただ、こういう面があるのはまだ成長の余地があるということ。距離も持つタイプだと思うし、どう成長していくか楽しみ」
さらには「この馬がいずれお母さんになって、その子供がこのキュウ舎に入ってくるようになればそれが一番いいよね」
これにはさすがに「鬼が笑う」かもしれないが、角居キュウ舎もかつての松田博キュウ舎もこのサイクルで大キュウ舎になっていった。来春のクラシックももちろん楽しみだが、松下キュウ舎にとっては、このディーパワンサが今後のキュウ舎の命運を占う一頭になるかもしれない。
新種牡馬からディーパワンサを指名できたのは我ながらよくできたと思うが、この時期になると「こういう馬を見逃していたか」という後悔も同時にやってくる。日曜(14日)の小倉芝1200メートルでデビューを予定するメイショウテンセイ(牡=父カルストンライトオ、母ブルーロバリー・西橋)などはその最たるものかも。3日の坂路で4ハロン52.6-12.3秒の好時計をマーク。「普段はボーッとしていて甘い馬という印象」と話していた和泉助手だったが、この追い切りで評価が一変した。「併せた馬がこなくて、待たされてのこのタイム。やればもっと時計が出ていたはず。追ってからフォームが変わるんですよ」と目を丸くしていた。
また、調教師の死去に伴い「音無B」キュウ舎として運営している「旧・田中章」キュウ舎のブルベアライノ(牡=父ロージズインメイ、母ベガグレシヤス)もここにきて才能の一端を見せるようになってきた。「やれば動きそうな感じはありましたが、いい時計が出ました」と佐藤助手が言うように、4日の坂路で4ハロン52.2秒と破格の数字をマークした。
「芝もこなせそうですし、距離も大丈夫でしょう」。21日の小倉芝1800メートルでデビューを予定している。
血統表を見れば「誰でも指名できる」馬よりも、取材記者として、こうした馬をこれからも追い続けていきたいと思う。