10月13日浦和「埼玉新聞杯」。3歳モエレトレジャー、会心の逃げ切りだった。絶好のスタート。鞍上・金子騎手は左右を確かめ、いったんセーブする構えをみせたが、1周目スタンンド前、他に行く気がないのを察して馬にまかせた。終始流れるようなフットワーク。何とも気分のいい一人旅。1000m通過60秒7。数字上は少し速いが、軽い馬場を考えると無理はなく、折り合いもついている。4コーナー、ロッキーアピールが仕掛けて半馬身ほどに迫ったものの、手応えの余裕が違う。あと1F、逆にロッキーの脚が鈍った。道中終始インで楽をしたマキノヒリュウがしぶとく追いすがって2着確保。最後外から伸びたストロングゲットは3着だった。
埼玉新聞杯(サラ3歳上 別定 南関東G3 1900m不良)
◎(1)モエレトレジャー (54・金子) 1分58秒4
△(2)マキノヒリュウ (54・野崎) 1
○(3)ストロングゲット (56・的場文) 1.1/2
▲(4)ロッキーアピール (58・今野) 1.1/2
△(5)ファイブビーンズ (56・内田博) 1
単260円 馬複1,240円 馬単1,870円
3連複2,590円 3連単10,500円
モエレトレジャーは、これで重賞3勝目。しらさぎ賞(浦和1600m)→戸塚記念(川崎2100m)→埼玉新聞杯(浦和1900m)。素軽いスピード、器用さ、持ち味をすべて出しつくした印象で、正直大物感は浮かばない。それでも430キロ台の馬体、一見頼りなくみせながら、イメージを超えて芯が強い。「馬体重は別にして幅が出てきた。乗っていて安心感がある。今日逃げたのは成り行きですね。自在の競馬ができるでしょう」(金子騎手)。ピリッとした個性派、仮に交流重賞でも渋い脇役の存在感はあるだろう。1900mで1分58秒4(レコード=タイコウレジェンド1分57秒0)も合格点。ただ、大井を得意としないこのタイプは次のステップが難しい。ひとまず来春地元「川崎記念」あたりを究極目標に、地力を蓄えていく戦略か。父トレジャーアイランドはダンジグ直仔でスピード色が強そうだが、母の父ノーザンテースト。重心の低い体型、走法はたぶんこちらの影響が濃い。
ロッキーアピールの敗因。前走G3さきたま杯快勝の力関係からは不可解だが、現実に2番手から直線失速、まったく精彩を欠いている。「馬に前走のような元気がなかった。外から被される展開になったのも響いたか…」(今野騎手)。そのさきたま杯を勝った週、記者は当欄で「ロッキーアピールの勝利は塞翁が馬」と書いた。なぜならロッキーはその直前、断然人気に推された地元川崎「スパーキングサマーC」を大敗。「こんなはずではない(馬が真剣に走っていない)」という判断で、急遽さきたま杯挑戦を決めている。そして望外のタイトル奪取。事実、山崎調教師も「当初は埼玉新聞杯が照準。勝っていたらさきたま杯は使わなかった」とコメントした。改めて思う。勝負における運、不運とはやはり人智を超えたところにあるということ。能力やら距離適性やら、人間の思惑をすべて超えたところに運命とめぐり合わせが横たわっていること。だから競馬は面白い…もちろんそうも言えるのだが。
マキノヒリュウが格下の風評を一蹴して2着。レース上手、何より絶好調のひとことで、終始経済コースをロスなく走らせた野崎騎手の騎乗も見事だった。ストロングゲットは逆に器用さのない弱み。直線大外を猛然と追い上げたが、先行馬有利の流れではここまでだろう。「初コースを気にして前半ちぐはぐ。でも軽い重賞と考えるとメドが立った」(的場文騎手)。ともあれ左回り適性がはっきりして、6歳馬ながら新たな突破口は開けている。ファイブビーンズは久々で、パドックから馬体のハリ、気合が今一歩。道中4〜5番手、位置取りはよかったものの、いざ勝負どころで伸びなかった。こちらも左回り中〜長距離志向。良化しだいでもうひと花の可能性はある。
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ロジータ記念(10月20日川崎 サラ3歳牝馬 別定 南関東G2・2100m)
◎アイチャンルック (56・的場文)
○ゴールドファミリー (54・山田信)
▲クラマサライデン (54・森下)
△カネマサヴィーナス (54・今野)
△パッションマリー (54・張田)
△スガコ (52・一ノ瀬)
△エスケイダンサー (52・佐藤祐)
アイチャンルックに今度こそのチャンスがめぐった。牝馬3冠5、2、4着。強烈な個性をのぞかせながら勝ち味に遅いもどかしさ。しかし前々走黒潮盃は結果同じ惜敗でも、完全にひと皮むけた内容だった。当時4コーナー最後方から大外一気。牡馬一線級のアジュディミツオー、ベルモントストームを一瞬のうちに捕えている。続く前走トゥインクルレディー賞3着(3番人気)は、忙しい1600mが敗因と割り切れるだろう。同世代牝馬ではズバ抜けた爆発力。一見ナイーヴで繊細にみえながら、押せ押せで使える逞しさが意外な個性でもありそうだ。いずれにせよここでタイトル奪取ならもう一段弾みがつく。川崎2100mは関東オークスですでに適性を示している。
相手本線は前走戸塚記念、出遅れを開き直ってまくってみせたゴールドファミリー。父シャンハイでも、一連の歩みからはイメージ以上の勝負根性とパワーを感じる。逃げ馬不在で、展開はクラマサライデンの一人旅か。元よりスローになりがちな川崎長丁場で、鞍上・森下J、腕のみせどころでもあるだろう。実績はカネマサヴィーナス、パッションマリーだが、この2頭、アイチャンルック以上に不器用な面がある。むしろ充実度と軽量でスガコ、エスケイダンサーに食指が動く。