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自由な、自在なこころ

  • 2016年08月18日(木) 12時00分
  • 7


惑わされず、ひたすらに

 心をしばらずに大きく生きる、そうできたら、さぞ気分がいいだろう。巨大な翼を広げて悠々と彼方を目指して飛んでいく大鵬、この姿こそ理想の生き方と「荘子」は諭している。もっと自由に、それが人間らしい姿なのだと語っているのだが、発想の転換をしなければならなかったら、「荘子」を手元に持ってくるといいとも言われている。ひとつの価値にとらわれている自分が小さく見えてくるのだ。そんなものに惑わされるなと、強く教えてくる。

 そうして見てくると、勝った負けたなども小さく小さく見えて、笑いとばされそうだ。しかし、こと競馬に限って、そうとばかりは言っていられない。競馬に「荘子」を持ち出すなら、その勝利に立ち向かう姿勢に自由な、自在なこころを見い出したい。

 関屋記念を勝ったヤングマンパワーは、3歳の昨年はこのレースで3着だった。12キロ増の馬体でのぞんだ今年は、明らかに力をつけていて、テンから出入りの激しい展開にも動ぜず、戸崎圭太騎手は、いつもより速いペースをじっくり見据えていた。心をしばらずに全体を大きく捉えていたのだ。「あるていどはいい位置と思っていたが、競馬が上手な馬で手応えもよく、タイミングを見て仕掛けていった」と語っていたが、「楽勝するタイプではなくとも、最後までしまいを伸ばせる馬」という確信が支えとなっていた。巨大な翼を広げ、悠々とゴールを目指しているようで、そこにはなにものにもとらわれない自在な姿が見られた。

 重賞初挑戦でエルムSを勝ったリッカルドは、黛騎手の初騎乗での勝利というおまけもあった。「回復が早くなって、調教がしっかりできるようになっていたが、正直びっくりしました」と黒岩調教師が言ったように、これは無欲の勝利だった。6番手から動いて行って4角では2番手の外に上がり、抜け出してクリノスターオーの追撃をしのいだ戦い方には、なんの計算もうかがえなかった。ここにも心をしばらずにという姿が見えた。よくある無欲の勝利は、こうした情況から生まれるのだ。惑わされず、ひたすらに、この姿勢が生み出してくれるものは大きい。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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