▲15年追い続けてきた夢 念願の“ジョッキー”となった兵庫の田村騎手
夢を見なくなったのはいつ頃からだろうか。「30代、夢を諦めない」シリーズでは、ママさんジョッキーとして39歳で復帰した宮下瞳騎手や、ピザ屋の店長から38歳で調教師になった笹野博司調教師を取り上げた。最終回は、31歳にして今月、地方競馬でデビューした田村直也騎手を取り上げる。JRA競馬学校に落ち、新聞配達をしながら乗馬クラブに通い、園田競馬場で厩務員として働いた。「苦労人」という言葉が似合う彼は、どのようにして15年来の夢を叶えたのか。(取材・文・写真:大恵陽子)
JRAの競馬学校を3回受験するも不合格
今年7月。地方競馬の騎手免許試験新規合格者2名が発表された。1名は先日、ママさんジョッキーとして復帰を果たした宮下瞳騎手(名古屋)。もう1名は田村直也騎手(兵庫)。(
※宮下瞳騎手の復帰密着コラムはこちら)
多くのファンや、一部マスコミさえも彼の正体が分からなかった。元騎手や海外騎手経験者ではない。騎手養成機関の地方競馬教養センターにも通っていない。彼は、園田競馬場の田中範雄厩舎で厩務員をしていた。
なぜ31歳の厩務員が騎手になれたのか。そこには、地方競馬ならではの事情があった。
地方競馬では16歳以上で所属厩舎が決まっていれば、基本的に年齢の上限や経歴に関係なく騎手免許試験を年に1回、受けることができる。通称「一発試験」では実際、過去10年で10名以上が合格し騎手デビューを果たした。園田・姫路競馬でも中田貴士騎手(30)が育成牧場で騎乗技術を磨いたのち同競馬の厩務員を経て一発試験に合格、騎手になっている。
もちろん地方競馬教養センターに入学し、しっかりした技術を習得した上で騎手デビューすることが理想だ。しかし、海外での騎手経験者やJRAの競馬学校を中退した者などみな様々な背景を抱え、厩務員を経て一発試験に合格し活躍している。
田村直也騎手は一発試験を受けた経緯をこう話す。
「ずっと騎手になりたくて、中学3年から高校2年までJRAの競馬学校を3回受けました。でも、身長(161cm)が高いわけではないんですが骨太で減量が苦しかったんです。給食はみんなにあげて、僕は食べずに机に伏して寝ていました。3回とも1次試験で不合格。高校を中退しました。その後、新聞配達をしながら乗馬クラブに通っていたのですが、そこでの知り合いから園田競馬場で厩務員の仕事を紹介してもらいました。厩務員として働きはじめてすぐの頃、一発試験のことを知り、また騎手を目指しはじめたんです」