11月3日、大井「JBCクラシック」。アドマイヤドンが究極の強さで3連覇を達成した。平地G1のV3は日本競馬史上初めて。さらに2000m2分02秒4、レコードのおまけがついた。道中5番手のインで折り合い完璧な差し切り。重賞8勝目、交流G1・6勝目。中身は着差3/4馬身、勝ちっぷりにも取り立てて派手さはない。しかしその内容は、一流馬の真髄、エッセンス、すべてを盛り込み、凝縮させたようなレースと納得する。
「能力通り走らせてあげるのが僕の仕事。結果はあとからついてくる」(安藤勝己騎手)。指示されたポジションでじっと我慢する忍耐力。GOサインと同時に相手をねじ伏せにかかる集中力。必ずしも天性だけで得られた結果ではないだろう。人間と馬、厳しい勝負を重ねながら培ってきた、あうんの呼吸ともいうべきもの。アンカツはさりげないコメントの中、そう言いたかったように推測する。
「ダートは(強いのがわかっているから)もういいでしょう。できれば芝(有馬記念)を使ってみたい」(松田博調教師)。常識的には、JCダート→有馬記念のローテーション。実現すれば、平成8年ラストランのホクトベガ(浦和記念→有馬記念)とケースが似ている。キングカメハメハ引退の現在JRAなら、無論もっと大きな期待が浮かぶ。
JBCクラシック(3歳上 定量 交流G1 2000m梢重)
○(1)アドマイヤドン (57・安藤勝) 2分02秒4
▲(2)アジュディミツオー (55・内田博) 3/4
△(3)タイムパラドックス (57・武豊) 2.1/2
△(4)ユートピア (57・横山典) 1.1/2
(5)アンドゥオール (57・松永幹) 3/4
………………
(6)コアレスハンター (57・御神本)
△(9)ナイキアディライト (57・石崎隆)
◎(11)シャコーオープン (57・的場文)
単130円 馬複790円 馬単1,000円
3連複1,480円 3連単4,300円
アジュディミツオーが素晴らしいレースをした。いや素晴らしいという言葉を超えて、昨今の競馬常識、JRA=地方の力関係からはイメージし難い快挙だろう。正攻法で王者ドンに食い下がり、あわやという3/4馬身差。自身2000m2分02秒6、実質レコードで駆けている。そもそもこのレコード自体が24年ぶり。当時(昭和55年・タガワキング)はダートの砂が浅く、例えばカツアール(移籍後・天皇賞2着)あたりは1800m1分49秒台の時計があった。数字の重みがまったく違う。前々を進み、追われてもうひと伸びする理想的な脚質。
「結果は残念だけれど負けて強し。こっちは3歳馬だから、ゆくゆくは逆転できる」(内田博騎手)。まだキャリア8戦、文字通り怪物クンの評価だろう。順調なら総決算「東京大賞典」で堂々の主役に推せる。もっとも対アドマイヤドン、相手の青写真通りなら、もう戦えない公算が強いのだが。
タイムパラドックス、アンドゥオールは、ほぼ五分の力関係。前者3着、後者5着は今の状態に少し差があった結果だろう。ユートピア、ナイキアディライトも、大井2000mに条件を限ると能力互角。枠順、そして展開のアヤで着順が微妙に変わった。仮にどちらかが単騎逃げなら、3着は十分あったか。ただこの2頭、本音をいえば“JBCマイル”がやはりほしい。
本命に推したシャコーオープン。道中はドンのすぐ後ろ、位置取りは絶好と見えたが、1000m通過60秒3、経験のないハイペースに終いまるで伸びなかった。いうところの家賃の高さ。ただ的場文騎手は「走っていない。2走ボケかもしれない。能力以前の問題でしょう」。惚れた弱み。ひとまず次走、もう一度試金石と判断する。東京記念圧勝の内容からは、ここで終わる馬とも思えない。
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同日の「スプリント」。マイネルセレクトがパーフェクトな強さでダート短距離王を証明した。アドマイヤドンと同じ単勝130円。しかし勝ちっぷりは、こちらがより危なげなかった。道中3番手の外めを素早くキープ。それより何より東京盃当時とは手応えが断然違う。鞍上は直線あと1Fまで追わなかった。短距離G1でこれだけ余裕のある手綱は見たことがない。満を持したステッキ一発、一瞬のうちに突き抜ける。
「完勝ですね。スタート、行き脚、最後の伸び。僕自身嬉しい勝利になりました」(武豊騎手)。1分10秒6はレコードに0.4秒。競り合うライバルがいれば、おそらく更新されただろう。「これで大手を振ってドバイに行ける。今日は完璧にG1を勝ってくれた。(ドバイは)人も馬も2度目だから、期待を持って臨みます」(中村均調教師)。胸のつかえがとれたような笑顔に見えた。今春ドバイゴールデンシャヒーン5着。完調のこの馬なら世界レベルで十分やれる、そういう思い。ごく客観的にもダート短距離走者としては、現在最高の高みに達している。
JBCスプリント(3歳上 定量 交流G1 1200m梢重)
◎(1)マイネルセレクト (57・武豊) 1分10秒6
▲(2)アグネスウイング (57・中舘) 2.1/2
△(3)サニングデール (57・福永) 頭
△(4)ディバインシルバー (57・安藤勝) 首
△(5)タイガーロータリー (57・水野貴) 1.1/2
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○(7)ヒカリジルコニア (57・吉田稔)
△(9)シャドウスケイプ (57・小牧太)
単130円 馬複310円 馬単430円
3連複1,400円 3連単3,480円
2着アグネスウイングは、今日のレースを見る限り1200mが気持ち短いようだ。道中マイネルの直後を進んだものの、道中終始おっつけ気味。直線もじわりじわりとしか伸びていない。前走シリウスS快勝は坂のある阪神1400m。地力は互角として、今回適性の差が出たか。逆にダート実績のないサニングデールが健闘。インを突いて際どい3着と踏ん張った。ただ芝G1で毎回好走、絶対能力が違うといえばむろん不思議でもない。外が伸びる馬場、これを福永騎手が知っていれば、たぶん2着が確保できた。いずれにせよ、こういう馬の挑戦はレース自体のムードと格を高めてくれる。
ディバインシルバーは安藤勝騎手の判断でカセギガシラの2番手に控えた。結果4着だから悪くはないが、本質的に行ってこその馬。G1では限界を見せた感もある。ヒカリジルコニアはスタートで大きくノメり、テンから5馬身ほどのハンデがあった。せっかくの大一番。任された吉田稔騎手にとっても痛恨というしかない。タイガーロータリーは、やはりG1では馬券に絡む決定打を欠いている。シャドウスケイプは、本質的に大井コースが合っていない。
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ハイセイコー記念(2歳 定量 南関東G2 1600m)
◎エスプリフェザント (54・久保勇)
○ジルハー (54・今野)
▲トウケイファイヤー (54・有年)
△アスリートフェア (54・石崎隆)
△カネショウハヤブサ (54・野崎)
△ジェネスジョニー (54・桑島)
エスプリフェザントは、10月27日、大井に出張してスクーリング。5Fから65.1-52.4-38.4秒をマークしている。「少しささり気味だったから外を回した。それにしては時計が出たし、動き自体も満足している」(久保勇騎手)。そして最終追い切りは地元川崎で僚馬エスプリゼットと併せ馬、5F63秒7を余裕残しで駆け抜けた。万全の態勢。「やるべきことはすべてやれた」。武井調教師も胸を張る。
鎌倉記念1分34秒0。とにかくこれは凄い時計だ。例えばここ数年の2歳馬、川崎1500m最高タイムをあげるなら、トーシンブリザード1分36秒1、ジェネスアリダー36秒2、トキノコジロー36秒3、ビービーバーニング35秒4。最も速いのはパレガルニエ34秒5だが、こちらはキャリア3戦目で出したもの。エスプリフェザントは新馬を勝った直後の2戦目、しかも後続を13馬身ちぎっている。素直に怪物級の評価でいいだろう。アジュディミツオー同様、これはやはり“とんでもないやつ”だと思う。
地元勢がやや及び腰という少頭数(9頭立て)。ごく普通には5戦3勝、タッチザゴールの半弟トウケイファイヤーだが、レースぶり、時計、すべての点でインパクトが物足りない。2連勝の勢いでジルハー。前走川崎1600mを直線一気、上がりのかかる混戦向きのイメージがある。父はミスワキ産駒、JC・6着のミシル。パワー優先、成長力十分と考えた。鎌倉記念組のジェネスジョニー、カネショウハヤブサは、器用さ、スピード面でまだ課題が多い。末脚勝負。石崎隆騎手と手が合いそうなアスリートフェアが穴。