◆地方馬のダートグレード苦戦と無関係ではない
12日に大井で行われた東京記念は、もともと逃げ馬不在のメンバーでスローペースが予想されたが、それにしてもストゥディウムの単騎逃げとなって、予想していた以上の超スローペース。スタートしてから1800mまで、ハロンごとのラップで延々と13秒台が続いた。
逃げずともある程度前に行くと思われたケイアイレオーネが控え、それより前の3番手に位置していたユーロビートにとっては、自ら前をつかまえに行けばケイアイレオーネにうしろから差される可能性があり、動くに動けなかったと思われる。人気薄の逃げ馬が単騎逃げのときによく起こる、いわば人気馬の金縛り状態になりかけた。それでも2番手のチャンピオンゴッドが3コーナーあたりから動いてくれたことで、連れてユーロビートも動くことができ、直線ではストゥディウムをとらえて2馬身半突き放す強い競馬を見せた。
2400mの勝ちタイム2分38秒9は、東京記念53回の歴史で2番目に遅いタイム。今回は超スローペースという、いわば例外的なケースではあるのだが、それにしても今年、南関東の特にマイル以上の重賞の勝ちタイムが全般的に遅くなっているのが気になっている。
ちなみに川崎競馬場は2014年12月に馬場改修が行われ、その後、全体的に時計が2秒前後かかるようになったため、その馬場差を差し引いてさらに遅くなったのかどうかの判断が難しいこと、また浦和は重賞が少なく比較が難しいことは、あらかじめお断りしておく。つまり重賞の勝ちタイムが目立って遅くなっているのは大井で、船橋もその傾向にある。
大井では昨年末の開催の前に砂の入替えが行われ、その後にやや時計が掛かるようになった感じもあるが、それでも0.5-1秒以内という誤差の範囲。船橋でも昨年8月に砂の入替えが行われたが、それも大井と同じようにわずかなもの。
それゆえ馬場自体が重くなって時計がかかるようになったというわけではない。実際にダートグレードの勝ちタイムは以前と較べても平均的なものだし、下級条件の勝ちタイムを見てもそれほど変わっていない。地方限定のマイル以上の重賞でタイムが遅くなっているのだ。
たとえば今年ここまでに行われたレースで、過去10年との比較でもっとも勝ちタイムが遅かったのが、京浜盃、羽田盃、黒潮盃、サンタアニタトロフィー(1800mで行われた2011年は除く)、東京湾C、報知グランプリCなど。そのほかにも過去10年で2番目、3番目に遅いタイムだったというレースも少なくない。
さらに東京ダービーの勝ちタイム2分6秒9は平均的なタイムだが、勝ったのが中央から転入初戦のバルダッサーレ。7馬身差2着のプレイザゲームは2分8秒3で、もしこれが勝ちタイムだったら相当遅いものになっていた。過去10年で2分8秒台の決着は一度もなかった。
近年、ダートグレードではますます地方馬が苦戦していて、2歳戦を除く地方馬の勝利は、昨年がユーロビート(マーキュリーC)、ハッピースプリント(浦和記念)の2頭だけ、今年はここまでソルテがさきたま杯を制したのみとなっている。これは先に示したとおり、南関東の地方重賞の勝ちタイムが遅くなっていることと無関係ではないと思う。どのレースのあとだったか定かではないが、的場文男騎手が「こんなタイムじゃ中央には勝てない」と言っているのを聞いたことがある。
誤解を恐れずに言うなら、中央の一線級が出走するレースと、地方重賞とでは、次元の違うレースになってしまっている。近年、南関東では有力馬がダートグレードを避けて地方重賞にまわり、結果的にダートグレードに出走している地方馬は必ずしもその路線のトップクラスではないということもしばしば。それも地方馬のレベル低下の要因になっていると思う。
とはいえ、そうした状況の中でスゴイと思ったのはソルテ。3歳時にジャパンダートダービーに出走(6着)して以降、地方同士のレースにしか出走せず、昨年本格化すると南関東の重賞を6連勝。そして3歳時以来、3年近くぶりのグレード挑戦となったのが、いきなりJpnIという今年のかしわ記念。中央一線級との対戦経験がない状況でのJpnIではさすがに無理だろうと思い、かしわ記念の予想で僕は軽い印しかつけなかった。しかし結果は御存知の通り、コパノリッキーの2着と好走。続くさきたま杯の勝利で、かしわ記念2着がフロックでないことを証明してみせた。
かしわ記念の前だったか後だったか、主戦の吉原寛人騎手が、「地方の重賞でも中央馬を意識したレースをさせてきた」ということを話していたが、それで中央の一線級と互角以上に戦えるレベルにまで能力を引き上げたのだから、見事というほかない。
ソルテは地方の期待を背負ってJBCスプリントへの出走となるようだが、ソルテに続く活躍馬が出て、地方競馬が盛り上がることを期待したい。