▲最終回の今週は“一戦一戦にこだわる”中内田厩舎の仕事ぶりに迫ります
イギリス、アメリカのトップ厩舎で経験を積み、日本へ帰国した中内田調教師。橋田満厩舎での厩務員、調教助手を経て、難関の調教師試験を5年で突破しました。厩舎のポリシーは「一戦一戦にこだわること」。負けることの方が多い競馬ではあるけども、どんなレースでも全力で勝ちを掴みにいく。最終回の今回は、そんな中内田厩舎の仕事ぶりに迫ります。(聞き手:東奈緒美)
(前回のつづき)
日本馬がまだ勝ってないブリーダーズCを狙いたい
東 2007年に帰国されて橋田厩舎に入られましたが、日本に帰るのがこのタイミングだったというのは?
中内田 フランケル厩舎にお世話になった後、ロバート・スキャノンの育成場で2歳のトレーニングセールの勉強をさせてもらっていたのですが、そこの主人が亡くなったんですね。海外でたくさん経験を積ませてもらったし、もう自分でやるしかないと思って、日本で調教師になろうと思ったんです。
東 ちなみに、イギリスの大学を出ていらっしゃいますが、それでも日本の競馬学校には入らないといけないんですよね?
中内田 もちろんです。年齢的にギリギリ滑り込んで、半年間きっちり勉強しました。海外での経験はあったとはいえ、改めて日本で学ぶというのは新鮮だったんですよね。日本の競馬のルールであったり、教えてもらって。
東 トレセンに入ってから5年というスピード合格で、技術調教師として藤原英厩舎と角居厩舎で学ばれたという。
中内田 そうですね。藤原厩舎では攻め専の1人のような感じで、重要な追い切りにも乗せていただきましたし、先生が馬術に長けた方なのでその辺も丁寧に教えてもらいました。角居厩舎ではルーラーシップの香港遠征に同行して、海外遠征について教えていただきましたね。お2人とは今でも親しくさせてもらっていて、厩舎経営のこと馬作りのこと、海外のことを話していたら、いつの間にか2、3時間経ってたこともありました(笑)。
東 どちらもトップ厩舎ですし、学ぶものがたくさんありそうです。
中内田 そうですね。藤原厩舎って勝率や連対率が高いんですけど、一戦一戦にこだわる姿勢というのを特に学ばせてもらいました。
東 中内田厩舎は開業3年目で、早くも去年の勝ち星も超えました。順調に伸びているように思いますが。
中内田 数字はそうでも、自分としては全然納得してないですね。中途半端な状態では出走させていないとはいえ、競馬に行って負けるということは、仕上げで何かが足りなかったとも思いますし。悔しい思いしかないです。
東 負けることの方が多いのも、競馬ではありますが。
中内田 たしかにそうで、負けることに慣れてくると聞いたこともあるのですが…正直、僕は慣れないです。負けたら地面蹴ってますし(笑)。本当はバケツぐらい蹴りたいんですけど、そこは大人なので。重賞でも未勝利戦でも、どんなレースでも出すからには全部勝ちたい。掲示板に載ればいいとか、そういう考えでは競馬に向かいたくないんですよね。出すからには勝つ。そのためには一頭一頭しっかり仕上げて、一戦一戦勝ちを意識することが大事だと思っています。
東 そういういい仕事でできるように、厩舎の雰囲気もいいですか?
▲「そういういい仕事でできるように、厩舎の雰囲気もいいですか?」
中内田 一歩引いた目線で見ても、雰囲気はいいのかなと思います。僕らは技術者なので、技術向上のためにお互い言いたいことを言えて、ライバル心も持っていなければいけません。僕も厳しいことを言いますしね。その馬をずっと担当できるとか、ずっと調教に乗れるとか、そういう保証はないですので。何かあれば担当を変えますし。
東 その辺りはシビアに。
中内田 それが馬のためですし、人のためでもあると思います。「馬作りは人作り」って言うぐらいですからね。そこで悔しい思いをしたなら、跳ね返ってこいって思っています。開業した当初は細かいことも言ってたんですが、僕が求めている馬作りがだいぶ浸透してきて、スタッフも自分で考えて行動してくれるようになりました。それでも、10段階なら3か4ぐらいのところですが、僕自身もまだまだ足りないところばかりですし、厩舎全体で一致団結して上がっていきたいと思ってます。
東 預託されている馬主の中には、シェイク・モハメド殿下もいらっしゃいますが。すごい人脈ですよね。
中内田 ゴドルフィンのマネジャーのジョン・ファーガソンと、アメリカにいる頃に親しくさせてもらっていて、そのご縁で預けてもらってるんです。それでも、縁とか義理だけでなく、きっちり成績を出していかないと、自分の立場はないかなとは思っています。日本の慣習とはやっぱり違うので、あっさり切られることもあると思いますので。
東 それはまたプレッシャーですね。
中内田 気持ちは引き締まりますよね。ただ、殿下は日本にとても興味を持っていますし、日本の現状を話すとちゃんと聞いてくださる方なんです。「頑張れよ」という言葉もかけてくださいますしね。ただ、最後に「出来ることを証明しろ」とも言われます。言葉としては厳しいですけど、そういうことをちゃんと言ってくださるので。目をかけてくださっているのは感じています。
東 海外馬券も発売になりましたし、日本の競馬と海外の競馬がどんどん近くなっているように思えます。
中内田 馬券の発売はいいことですよね。海外には、凱旋門賞の他にもおもしろいGIやトップクラスのレースがたくさんあります。どんどん海外へ行って、日本馬が強いことを証明できれば日本産馬の価値も上がりますし、日本競馬の印象が世界に広まればファンも増えるでしょうし、僕らの刺激にもなりますからね。
東 日本馬のレベルが上がってるのは感じられますか?
中内田 すごく感じます。おそらくここ10年くらいで、高いレベルに来ているんじゃないでしょうか。僕がアメリカにいる頃に、シーザリオがアメリカンオークスを勝ったんですよね。あの時に「日本の馬は相当強くなったな」と思いました。その後にロバート・フランケルがジャパンCに1頭連れてきて、それが最後の参戦になったんですけど、「もう日本に行っても勝てない。もう行かない」って言ったんです。「この人がそんなこと言うんだ」って、驚いたんですよね。
東 その言葉が物語っていますね。先生ご自身も、厩舎の馬で海外遠征は考えていますか?
中内田 ええ。どんどん挑戦していきたいです。アメリカのブリーダーズCは日本馬がまだ勝ってないので狙いたいですし、イギリスでしたらロイヤルアスコット、春ならオーストラリアが賞金高いので行きたいですよね。
東 海外のセリに行かれたり、凱旋門賞も現地に行かれたり、すでに世界中を飛び回っていらっしゃいますよね。
中内田 いやいや、ただフラフラしてるだけです(笑)。やっぱり馬が好きなので、世界中の馬を見たいですし、セリがあれば顔を出してどういう傾向かっていうのも見ておきたいですしね。1回でも見ておけば、その馬がその後どういう活躍をするかも注目して追うことができますからね。
東 ちなみに…お忙しい先生の“癒し”はなんですか?
中内田 癒しは……馬に乗ってる時間かな(笑)。
東 プライベートも、やっぱり馬なんですね!
中内田 この前、金子オーナーからカナロアという馬を引き取らせてもらって、今信楽牧場にいるんですけど、乗馬にしようかなと思っているんです。去勢して休んでいたのですが、もうそろそろ本格的に乗ろうかなって。それが楽しみで。完全に馬バカです(笑)。
▲準OPクラスまで勝ち進んだカナロア(撮影:下野雄規)
(了)
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