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【田辺裕信×藤岡佑介】第5回『大きいレースになると、みんな逆に無難に乗りがち』

  • 2016年11月02日(水) 18時01分
with 佑

▲大胆な騎乗でモーリスを破った安田記念の騎手心理は(撮影:下野雄規)


田辺騎手との対談もいよいよ最終回。今春の安田記念、ロゴタイプ(8番人気)で周りをアッと言わせる逃げ切り勝ちを見せた田辺騎手。佑介騎手が「理想的なGI制覇」と言った勝利はどのように生まれたのか? 最後は、悲願のGI勝利を目指す佑介騎手へ、田辺騎手からアドバイスが。(構成:不破由妃子)

※本インタビューは9月5日に取材したものです。
佑介騎手は先週無事に手術を終えて、現在は療養中です。当コラムは佑介騎手の復帰まで、当面の間休載することとなりました。佑介騎手から読者の皆様へのメッセージを掲載させていただきます。

「先日の落馬により、たくさんの方々にご心配、ご迷惑をおかけし、本当に申し訳ありません。

また、騎乗していた馬が、レース中の事故により命を落としてしまったことに、今、深く心を痛めています。騎手をやっている以上、常にこういった事故とは隣合わせですが、本当に本当に辛いです。

僕自身のケガについては、3か月ほどで復帰できる見込みです。これを機に、騎手としてさらに成長し、これから関わっていく馬たちに対して少しでもいい騎乗をすること…。命を落としてしまった馬も含め、これまで自分に関わってくれた馬たちに恩返しするには、これしかないと思っています。だから、万全の態勢で復帰できるよう、回復に努めたいと思います。

復帰まではコラムを休載させていただきますが、しっかりケガを治して戻ってくるので、少しの間待っていてください!」


JRAジョッキー 藤岡佑介


(前回のつづき)

「美浦移籍ってどう思います?」



田辺 今回話して改めて思ったけど、佑介はすごく勉強してるよなぁ。それこそ、俺と違ってどこでも行くし。フランスに行ったときも、大したもんだなと思ったよ。

佑介 田辺先輩も、海外に行けるなら行ってみたいという気持ちはあるんですか?

田辺 いや…(苦笑)。あくまで俺の考えだけど、今は黙っていても世界のトップジョッキーが日本に乗りにくるわけだから、行く必要がないんじゃないかなって。たとえ一緒に乗れなくても映像は残るし、パトロールビデオも全部見せてくれる。

佑介 確かに今は、見ようと思えば世界中の映像がどこでも見られる時代ですからね。それに田辺先輩は、それだけ現状でモチベーションを保てているということですよ。

田辺 そうなのかなぁ。最近思うのは、日本に乗りにくる世界のトップジョッキーも、みんな人間なんだなって。プレッシャーを感じているのがすごく伝わってくる。

佑介 それはありますね。今はみんな、日本のいい馬で海外の国際競走に出たいという気持ちがありますからね。それにはまず、日本で結果を出さなければならない。そのあたりの流れが変わってきましたよね。

田辺 そんななかで、この夏にきたモレイラは攻めてたよね。俺自身もそうかもしれないけど、ちょうどクリストフとミルコの乗り方もめっちゃ無難になってきてるなぁと思ってたところだったから、余計にそう見えたのかもしれない。なんかね、短期免許の強味を感じたよ。

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▲田辺「世界のトップジョッキーでもプレッシャーを感じるなか、モレイラは攻めてたよね」(撮影:高橋正和)


佑介 僕は安田記念の田辺先輩の騎乗を見て、「攻めてるな」と思いましたけどね。一か八か、一発狙ってやろうという気概が伝わってきました。

田辺 うん。大きいレースほど、着はいらないからね。でもあれは、オーナーや調教師と意見が合ったから実現できた競馬なわけで。いくら俺が「逃げたい」といったところで、先生に「やめてくれ」と言われたらできないもん。

佑介 それで強行したら、絶対に次はないですもんね。とくに“逃げ”は、“逃げる意志”がないとできない戦法ですから。でも、安田記念は、完全に田辺先輩らしさが出たレースだったと思います。

田辺 俺が思い切ったというよりはね、大きいレースになるとみんな欲が出て、逆に無難に乗りがちなんだと思う。

佑介 まぁそれはありますね。ちなみに、ロゴタイプには安田記念の前に、中山記念(7着)、ダービー卿(2着)と乗ってたわけですが、そこでの敗戦を踏まえてあの作戦で一致したということですか?

田辺 そうそう。中山の2戦も、行ければハナに行こうと思ってたんだけど、行く馬がいたら行けなくて。安田記念は、たまたま“絶対に行きたい”っていう馬がいなかったんだよ。だから、とりあえず主張してみようかなぁと思っていたら、そのまま行けたの。勝つことを考えていたから無謀な逃げはしたくなかったし、ハナを叩いてくるような馬がいたら俺は行かなかったね。だから、思い切って行ったというよりは、行けたということ。

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▲田辺「安田記念は“思い切って行った”というよりは、“行けた”ということ」


佑介 なんかそういうのいいなぁ。まず前哨戦での負けがあって、それを踏まえて“勝つならこれしかない”という戦法で勝った。しかも陣営も納得の上での競馬ですからね。ただ単に一発を狙って乗ったんじゃないっていうのが、同じ騎手として理想的なGI制覇だなって。僕もそんなふうにGIを勝ちたいです。

田辺 佑介にとって、GIは悲願だもんな。

佑介 田辺先輩、僕はこれからどうしたらいいと思いますか?

田辺 ケガで休養しているときも話したと思うけど、佑介にはぜひ関東にきてもらいたいね。

佑介 ずっと誘ってくださってますよね。

田辺 佑介は勉強のためにいろんなところに行ってるでしょ? 環境を変えるということであれば、海外まで行かなくても、美浦でも学べることはたくさんあると思うよ。ジョッキーの話を聞いてくれる調教師も多いし、馬術に長けた調教師やスタッフも栗東に負けないくらいいる。

佑介 関東の調教師さんは、話をすると熱い方が多いですよね。

田辺 関西にももちろん、いい調教師、いい先輩はいると思うけど、ノリさんもああ見えて馬の話をするのが大好きだし、善臣さんも蛯名さんも、聞けばなんでも教えてくれる。

佑介 去年、ケガをする前に、祐一さんに「美浦移籍ってどう思います?」って、真剣に相談したことがあるんです。そうしたら、「なんで誰もやらへんのかなって、俺はずっと思ってるよ」って。「立場上、俺自身はもう行けないけど、関西はエージェントの関係もあって、どうしたって上位数名が動かない状態だから、行くなら今しかないんじゃないの?」って言われたんです。独身だったら、絶対に行ってますけどね。

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▲佑介「実は祐一さんに真剣に相談したことがあるんです。“美浦移籍ってどう思います?”って」


田辺 単身赴任でいいじゃない。パク(田中博騎手)とか雄太さん(中谷騎手)も、美浦から栗東に行ってるし、競馬自体、毎週関東も関西も混じってやってるわけだからさ。

佑介 そうですよね。厩舎を構えてる調教師はそうはいかないけど、ジョッキーは身ひとつで動けるわけだし、もはや関東も関西もないですからね。

田辺 うん、そうだよ。俺も昔、夏の小倉に滞在したことがあって、そのときは2か月で1勝しかできなかったんだけど、その後、小倉でお世話になった調教師が新潟でも乗せてくれたりして、開催リーディングにつながったからね。ある意味、冒険かもしれないけど、必ずその先につながってくるから。

佑介 そうですね。最初は月単位だと“いっちょかみ”みたいで失礼かなと思って、年単位で考えていたんです。だからなかなか踏ん切りがつかなかったんですけど、まずは2か月でも3か月でも行ってみることですよね。

田辺 そうそう。いざとなったら、関東と関西の両方に家を持ったっていいんだし。今、俺が住んでる「つくば」がオススメ! 

佑介 それは…考えておきます(笑)。田辺先輩、今日は本当にありがとうございました。

田辺 いえいえ、こちらこそ。佑介が美浦に来たら、ビックリするような馬具をプレゼントするからさ。

佑介 最後の締めも馬具ですね(笑)。楽しみにしてます!

with 佑

田辺「佑介にはとっておきの馬具を…」 佑介「締めも馬具(笑)。楽しみにしてます!」


(文中敬称略、了)
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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