▲悲願のGIジョッキーとなった石神騎手の素顔と、パートナーのオジュウチョウサンとの秘話に迫る
今月のゲストは障害競走で活躍中の石神深一騎手。今春の中山グランドジャンプを制し、デビュー16年目で悲願のGIジョッキーとなりました。パートナーはオジュウチョウサン。ステイゴールド産駒なだけあって、普段の調教では相当手を焼いているそう…。まずはGI馬の秋初戦となった東京HJ、空馬に絡まれた壮絶なレースを振り返っていただくと共に、気性の激しい相棒との刺激的な日常を披露していただきます。(取材:赤見千尋)
普通なら集中力が切れてしまう…あれはすごいです
赤見 オジュウチョウサンでの中山GJ制覇おめでとうございます! 石神騎手にとって、デビュー16年目でのビッグタイトルですね。
石神 ありがとうございます。この仕事をしている以上いつかは獲りたいタイトルでした。しかも毎日自分で調教をしている馬で、競馬で結果を出せたというのが本当に嬉しい。この仕事をしていてよかったなと、改めて思いました。
赤見 GIのお話は後ほどじっくり聞かせていただくとして、そのオジュウチョウサン、秋初戦の東京HJ(10月16日)を勝って、中山GJからこれで重賞3連勝!
石神 いい結果が出せてよかったですし、何より“強いな”と再確認したレースですね。
赤見 すごいレースでしたもんね。空馬に何度も寄られて…あれだけしつこく絡むなんて、よっぽどオジュウチョウサンのことが気に入ったとか?
▲衝撃的なレースとなった東京HJ、終始空馬に絡まれ…(撮影:下野雄規)
▲併走状態はゴールするまで続いた(撮影:下野雄規)
石神 どうなんですかね(笑)? 空馬ってどういう動きをするかが読めないんですよね。直線で邪魔されるのが嫌だったので、4コーナーで交わしに行ったんですけど、ずっと抜けないで半馬身ぐらい後にいる形になって、そこから外に持って行かれてしまって。なかなかあそこまで振られることってないですからね。「やってしまったな…」と思いました。
赤見 それでも最後までよく集中して走り切りましたよね。
石神 本当にそうなんです。普通なら集中力が切れてレースを止めちゃうんですけど、またハミを取って加速して。あれはすごい。馬の力に助けられました。去年はまだ成長途上で、完成し切ってない部分があったんですけど、今年5歳になって馬がどんどんよくなっているのを感じます。トモもよくなってますし、気性面も成長したなと。春は返し馬で悪さしたり、余計なことをよくしていんたんですけど(苦笑)。
赤見 余計なことと言いますと?
石神 尻っ跳ねしたり、いきなりバーンって走って行っちゃったり…。普段の調教も怖いんですよ。立ち上がるし、気に食わないことがあるといきなり止まったり、横にビュッと蹴ったり…。障害に向かってギャロップに入ってしまえばそういうことはしないんですけど、角馬場でのゆっくりなキャンターとか、そういう時は本当に気が抜けないんです。
赤見 初めてレースに乗った頃から、調教も担当するようになったんですか?
石神 その前に調教に乗ったことがあって。和田正一郎厩舎に転厩してきた時は、山本さん(康志騎手)がレースも調教も乗っていたんですけど、僕も厩舎の調教を手伝わせてもらっていて、それで乗せてもらったんです。その時から「いい馬だな」と思いました。当時はまだ緩さもあったんですけど、その状態で未勝利オープンと連勝して。「機会があれば競馬でも乗せてもらいたいな」と思っていたら、偶然山本さんの乗り馬が重なって、チャンスをいただいて。
赤見 それが去年の東京ジャンプSですね(2015年6月27日、4着)。最初の頃はゲートを出なかったですよね?
石神 そうですね。飛越は初めから上手だったんですけど、ゲートが出てくれなくて。馬がレースを走りたくない感じだったんですよね。
赤見 それは気性の強さなのか、体調面が整わなかったのか?
石神 何というか、子どもっぽいんですよね。我が強くて、怒ると反抗しますし。それで1回、本気でビシッと怒ったことがあるんです。そうしたらもう立ち上がるわ、尻っ跳ねするわ…振り落とされそうになりました。
赤見 うわっ。それでも負けずに?
石神 そうですね、負けずに怒って。それからは“できたら褒めて、悪さしたら怒って”の繰り返し。それでも悪さはするんですが、ちゃんと走ったら褒めてもらえるんだよ、というのを毎日教えていきました。あとは、調教でこうしたら嫌なんだなというのも分かったので、それを避けるようにしたり。
赤見 具体的にはどういうことなんですか?
石神 普段は準備運動をして角馬場の障害を跳ばしてから走路の障害に行くんですけど、準備運動をして走路の障害を跳んでから角馬場に行ったり、毎回同じメニューじゃないようにしました。「次はこうされるんだな」と分かったら、たぶんあの子は止めてしまうので、「今日は何だ?」って興味を持ってもらえるようにと。そうしたら、拒否することはなくなりましたね。
赤見 お話を聞いてると、結構手が掛かりますね。
▲「お話を聞いてると、結構手が掛かりますね」、オジュウチョウサンの激しいエピソードにびっくり!
石神 そうですね。特に調教では本当に元気がいいので、油断ができないです。一度調教で落ちたことがあって、そのままどんどん走って行ってしまって。ケガしたんじゃないかってヒヤッとしたんです。それからはとにかく落とされないように気を付けていますね。
山本さんも落とされたことがあるんですけど、その時は急にピタッと止まって、ゴロンと寝っ転がったんです。何かと思ったら、砂浴びを始めました(笑)。背中にダートをゴリゴリこすりつけて。
赤見 自由ですね(笑)。やっぱりステイゴールド産駒って一筋縄では行かないんですかね。ちなみに、普段は何て呼んでるんですか?
石神 “オジュウ”って呼んでます。“チョウサン”だと兄のケイアイチョウサン(ラジオNIKKEI賞など)や、弟のコウキチョウサンもいるので。この弟も悪いんですよ。同じ厩務員さんが兄弟を担当しているので、厩舎に行くと2頭並んでるんですけど、どっちも悪そうな顔してます(笑)。
赤見 2頭並んでるなんて、見ている分には可愛いのに(笑)。
石神 そうなんです。乗っている時もそこまで思わないんですけど、対面すると怖いですよ。いい子いい子してあげようとしたら、「触るな!」って噛みついてきますから。でも、メンコを取ると素顔は可愛いんですよ。流星が長いので下の方まで白くて。サンデーサイレンスみたいな感じです。機会があったらぜひ、顔も見てあげてください!
赤見 それはぜひ注目します! 手は焼くけども、何とも愛しい存在ですね。
石神 はい。ここ1年半ぐらい、在厩している時はずっと調教に乗ってるので、自分の子どもみたいな感じです。毎日1時間ぐらいかけて乗るんですけど、あれだけ手の掛かった子が、最近では精神的にもすごく成長してくれて。そういうのはうれしいですね。
赤見 毎日の積み重ねが、人馬一体のレースを作り出すんですね。それではいよいよ、GI制覇と暮れの中山大障害のお話へと移っていきたいと思います。
(次回へつづく)
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