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浦和記念の追憶

  • 2004年11月29日(月) 19時05分
 「浦和記念」の時季がきて、毎年思い出すのはやはりホクトベガのことである。

 平成8年12月4日。彼女は“最終巡業”の地を浦和に選び、近隣ファンから熱烈な歓迎と拍手を受けた。南浦和駅、競馬場行きバスへ長蛇の列。それが階段を昇った改札口付近まで逆流している。客層は多彩で、リュック姿の若いカップル。スーツでキメたビジネスマン。ごく普通の水曜日、いつもの4〜5倍の入場者を記録した。いずれにせよ、通い慣れた記者がついぞ見たことのない痛烈な風景だった。

 ホクトベガはその平成8年、ダート交流G・8連勝をやってのけた。1月川崎記念から12月浦和記念まで、全国7競馬場を駆けめぐり、おおむね完璧な勝ちを収めた。川崎→東京→船橋→高崎→大井→川崎→盛岡→浦和。当時ダートG創生期、その勢い付けを狙い“ボーナス”が設定されている。交流20レースにそれぞれポイントを与え、その45%を獲得した馬に1億円…というもの。ジャパンブリーダーズ協会は、見通しの甘さを悔いたかもしれない。まさかという彼女の進撃。シーズン半ばの7月川崎「エンプレス杯」快勝で、早くも条件をクリアしてしまった。怪物、いや怪女である。

 記者にとってのホクトベガ。最初はむろん“敵役”で、何とか地方側がこれを負かせないものかと考えた。しかし適鞍さえあればどこにでも出かけていく圧倒的な行動力、そして永遠、恒久とでもいうべき強さを見続けるうち、脱帽を通り越し畏敬の念すら覚えてきた。中央も地方も関係ない。日本のダート界が誇るヒロイン。我らがホクトベガ…に、意識が変わった。同胞であり同士である。彼女の遠征先はいつも超満員に膨れ上がった。ヒーロー、ヒロインを生で見たい、まだそういうファンが多い時代でもあったのだろうが。

 もっともこの日のホクトベガは意外なほど辛勝だった。小回りの馬場に気分が乗らなかったか、イライラしたような逃げで、最後並んできたキョウトシチーを3/4馬身、必要十分なだけ抑えて終わった。それでも浦和ファンの歓喜と拍手は盛大だった。“特別な馬”を、自分たちのホームで、肉眼で見た感動だったと記憶する。「彼女の一番凄いところ?回復力と生命力だね」(横山典騎手)。まさしくそうだ。その2週後、選出された有馬記念に涼しい顔で出走している。そして明けた平成9年、引退を撤回する形で臨んだドバイ。悲しいけれど、今度は大きな星となり、天に昇っていくのである。

     ☆     ☆     ☆

浦和記念(12月1日浦和 3歳以上 別定 交流G2 2000m)

◎カイトヒルウインド (56・蛯名)
○ウツミジョーダン  (56・小林俊)
▲モエレトレジャー  (54・金子)
△コアレスハンター  (56・御神本)
△トーシンブリザード (58・内田博)
△ファイブビーンズ  (56・佐藤隆)
△ダンツフレーム   (58・的場文)
 ミツアキサイレンス (57・川原)

 クーリンガー、スナークレイアースがJCダートに回り中央勢1頭だけ。何やら拍子抜けするメンバーになった。元より“JRA3頭枠”の規定がこういう結果にさせてしまうと思うのだが、ともあれその1頭カイトヒルウインドには、相当の能力が想像できる。デビューから一貫ダート路線を歩み[8-6-1-7]。それも前2走、プリサイスマシーン、ヒシアトラス、油の乗り切った難敵を正攻法で切って捨てた。小回り浦和でも、行き脚がついたところで一気のまくり、あるいはインをスルスル…というイメージだろう。交流G2とするといかにも相手に恵まれた。

 相手選びが焦点。岩手ウツミジョーダンは前走北上川大賞典を勝ち、当地?1として挑戦する。父トロットサンダーはマイル王だが、自身はむしろパワー優先、持続力のある末脚は中〜長距離ベストだろう。3歳時、しらさぎ賞快勝の実績もコース適性で心強い。モエレトレジャーはすでに重賞3勝、地味ながら着々と“自分の境地”を固めつつある。前走JBCクラシック7着。中団でスタミナ温存、欲のない騎乗をした金子騎手だが、大崩れしなかったあたり、一つ自信は得ただろう。この相手なら先行策でも差がないはずだ。コアレスハンター、トーシンブリザードは、正直過去のビッグネームになりつつあり、こと馬券となるとオッズしだいの選択だろう。ミツアキサイレンスはどうやら不調で、別路線から奇跡の復活をもくろむダンツフレームが穴。

     ☆     ☆     ☆

ローレル賞(11月23日川崎 2歳牝馬 別定南関東G2 1600m梢重)

△(1)スコーピオンリジイ (53・今野)  1分43秒3
▲(2)シンデレラジョウ  (52・左海)  頭
△(3)ヒカリトリアネー  (52・内田博) 3/4
 (4)セブンチャンピオン (52・石崎隆) 3/4
△(5)ビービーシグナス  (52・酒井)  6
…………………………
◎(8)ウツミキャサリン  (54・佐藤隆)
○(11)アバンティイモン  (52・坂井)

単760円 馬複1790円 馬単3820円
3連複5290円 3連単30940円


 スコーピオンリジイが接戦を切り抜け初タイトルをモノにした。開催前の雨で極端に先行有利の馬場状態。同馬は好位のインで積極的にレースを進め、直線あと1F、鞍上の渾身のステッキで最後の最後競り勝った。父アジュディケーティングにしては細身で首の高い走法。しかしそのぶん道中タメがきき、瞬発力があるのだろう。「気性面で難しい馬なんです。まだ本気で走っていないところがある」(今野騎手)。ただ、1600m1分43秒6は、前日レコードが出たことを思うと平凡で(1500m1分32秒8=ノボアメリカン)、今日の勝利だけでは客観的な評価に迷う。次走12月30日大井「東京2歳優駿牝馬」。流れ次第、折り合い次第の段階か。

 シンデレラジョウは、トライアル「なでしこ賞」に続き2着だった。これでデビューから[0-4-0-1]。運のなさか、詰めの甘さか、410キロ台の馬体からは今後の評価も微妙になる。ヒカリトリアネーは大外枠から果敢な逃げ。4ヶ月ぶりを思えば負けて強しともいえるが、あと1Fからのあっけない失速は前走2戦目と同じだった。良馬場では距離に壁が出てくるか。

 セブンチャンピオン、ビービーシグナスは北海道1勝馬。ひとまず力通りでいいだろう。期待したウツミキャサリン。4コーナー、ヒカリトリアネーの2番手に押し上げたものの、直線さっぱり伸びなかった。「手前が変えられずおやっと思った。スムーズな競馬じゃなかったですね」(佐藤隆騎手)。この中間、岩手→船橋と急きょの転厩。終わってみれば2歳牝馬に厳しかったというしかあるまい。盛岡、水沢4勝、ダート戦はことごとくぶっちぎり。反動が出なければ次走改めて注目だろう。

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日刊競馬地方版デスク、スカイパーフェクТV解説者、「ハロン」などで活躍。 恥を恐れぬ勇気、偶然を愛する心…を予想のモットーにする。

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