スマートフォン版へ

殊勲の大金星で一躍世界の競馬サークルに轟く香港ヴァーズ回顧

  • 2016年12月14日(水) 12時00分


日本勢にとっての嬉しい誤算

 11日にシャティンで行われた香港国際競走は、あたかも香港と日本による国別対抗戦の様相を呈した。

 今年の日本勢は、13頭という過去最多となる陣容で参戦。日本以外の外国馬は総勢で14頭(欧州9頭、豪州3頭、北米とシンガポールが1頭ずつ)だったから、当初から2か国対抗戦の雰囲気があったが、結果も、香港と日本が4レースのうち2レースずつを制し、互角の勝負となった。

 日本勢にとっての嬉しい誤算が、オープニングレースとなったG1香港ヴァーズ(芝2400m)を制したサトノクラウン(牡4、父マージュ)だった。ここには今年、アスコットのG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝12F)、サンタアニタのG1BCターフ(芝12F)と、英米のこの路線における最高峰を制していたハイランドリール(牡4、父ガリレオ)が出走していて、昨年のこのレースを制してコース適性も実証していた同馬が、オッズ1.5倍という圧倒的1番人気に推されていた。レイティング的にも2番手以下の馬とは5ポンド以上の開きのあった同馬で、まず間違いないと見られていたのがヴァーズだったのである。

 そのハイランドリールを破るというのは、まさに殊勲の大金星で、サトノクラウンの名は一躍世界の競馬サークルに轟くことになった。

 G1チーヴァリーパークS(芝6F)勝ち馬ライトニングパールの全弟という良血馬だが、父マージュが日本ではあまり馴染みのない種牡馬であった影響からか、13年のJRHAセレクトセール1歳部門で5800万円という、後のG1勝ち馬としては驚くほど高くはない価格で購買されたのがサトノクラウンだった。その素質は2歳時から発揮され、デビュー2戦目となったG3東京スポーツ杯2歳S(芝1800m)で、いったいどこから抜けてきたのかと、見ていた者の誰もが度肝を抜かれた鞍上R・ムーアの神騎乗にも助けられ、早くも初重賞をゲットしている。

 3歳春にはG2弥生賞(芝2000m)も制し、押しも押されもせぬクラシック候補となったが、G1皐月賞(芝2000m)6着、G1日本ダービー(芝2400m)3着でタイトルには手が届かず。G1菊花賞(芝3000m)は距離不向きと見て回った秋のG1天皇賞(芝2000m)も惨敗。4歳初戦のG2京都記念(芝2200m)は、内容の良い競馬で久々に勝利を挙げ、この時に得たレイティング117は、香港ヴァーズ出走馬の中では、第2位のシルバーウェーヴ(牡4、父シルバーフォレスト)にわずか1ポンド劣るだけの第3位タイで、レイティング的には2着争いに絡んで全く不思議ではない位置にいたのだった。

 G2京都記念の後、サトノクラウンはG1クイーンエリザベス2世C(芝2000m)に参戦。前述したように、京都記念の内容が非常に良かったこと。更に、同馬の父マージュは、98年の香港ヴァーズ勝ち馬で、香港年度代表馬となったインディジェナスを輩出している種牡馬で、血統的にも香港が合うのではないかとの予測もあって、おおいに期待されての参戦となった。

 ところが、気性的に成長し切れていない面のあったサトノクラウンは、朝の調教でも、レースでも、随所で若さを発揮。本来の競馬が全く出来ないまま、13頭立ての12着に大敗してしまったのである。だからこそ、だ。その後日本でも、G1宝塚記念(芝2200m)6着、G1天皇賞・秋(芝2000m)14着と成績が上がっていなかった同馬を、なぜ敢えて再び香港に向かわせたのか。そこには当然、環境の変化に動じやすい同馬に平常心を保たせるための、何らかの対策があったはずで、このあたりは管理調教師である堀宣行師に、じっくりとお話しを伺ってみたいところである。

 香港ヴァーズの当該週になって、興味深い動きを見せていたのが、欧州のブックメーカー各社であった。過去3走の成績が前述したようなものであったゆえ、当初のサトノクラウンは伏兵扱いの1頭で、ブックメーカー各社の人気も週初めの月曜日頃まで、オッズ26倍から34倍の10〜11番人気だった。ところが、週の半ばになって各社が一斉に、同馬のオッズを急激にカット。例えばコーラルやラドブロークスが26倍から17倍に、パディーパワーが34倍から26倍へとオッズを変動させ、6番人気〜8番人気に浮上させたのである。

 例えば、先行馬が良い枠順を引いたりすると、人気が急に高まることもあるのだが、サトノクラウンが引いたのは可もなく不可もない9番枠で、これがことさらに買いの材料になったわけではなかった。考えられるのは、直前になって「調子が良い」との情報が何らかの形で各社にもたらされたか、あるいは、どこかの社にサトノクラウンに対する大きな買いが入ったか。いずれにしても、「賭け」のプロであるブックメーカーたちが、直前で大幅に評価を上げたという事実は、実に興味をそそられた事例であった。

 ちなみに今年の香港国際競走は、入場人員が前年比17.4%アップで、歴代最多となる10万710人(ハッピーヴァレイを含む)に到達。この日1日に馬券売り上げも、前年比4.7%アップの15億1800万香港ドルと、興行的にも大成功に終わっている。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング