覚えておいて損はない福島厩舎2頭/吉田竜作マル秘週報
◆年明け早々、ベテラントレーナーに春が来るのか
初日の出を待ちわびるような少年のころならいざ知らず。記者のようなオッサンど真ん中ともなれば、12月31日から1月1日になったところで、何かが大きく変わることはないが…。サラブレッドにとっては1月1日は特別な日。正式な誕生日はそれぞれ違うにしても、扱い的には揃って一つ年を重ねる日だからだ。
実際のところ、古馬については「年をまたいだからといって、そうすぐに何かが変わるかよ」が関係者の本音だろうが、2歳馬が3歳馬になると、ちょっと見方も変わるもの。年明けの取材では心なしか「気性が成長してきた」といった発言を耳にする機会が多かった気がしないでもない。
実例を挙げるとしよう。500万下・はこべら賞(15日=中京ダ1400メートル)で復帰するテイエムヒッタマゲ(牡・福島)は9月4日の小倉2歳S(14着)以来の実戦となる。育ち盛りのサラブレッドが4か月半も休んでいたのだから「2歳→3歳」の表記通りに成長しているとみていいだろうか?
ただし、この馬の場合は九州産馬。やはり「一般馬相手では…」というお約束のフレーズが返ってくるかと思いきや、この一戦に臨む福島調教師のトーンは、一般的な九州産馬のものとは明らかに違っている。
「夏の小倉開催では、少し無理をしてもらって4走もした。最後の方はソエを気にしながらも、よく辛抱してくれたと思うよ。休ませたことで馬がしっかりしたように成長を感じている。実際、4日の坂路では後半2ハロンが11.9-12.1秒(4ハロン52.7秒)…追い切りも動くようになったんだ。これだけのパワーがあるのだし、お母さん(テイエムクレナイ)もダートで準オープンまで出世した馬だから。適性も高いと思う」
一般馬相手でも「恐るるに足らず」と言わんばかりだ。もっとも「ここで2勝目を挙げて、重賞路線ですね」と投げかけると、トレーナーは微妙な表情を浮かべ、「それが…勝ったら勝ったで、使いたいレースが使えなくなるんだよな」とポツリ。
実を言うと、2月7日に佐賀競馬場で九州産馬限定のたんぽぽ賞(ダ1400メートル)というレースが行われる。九州を拠点に、自らもサラブレッドを生産している竹園正継オーナーとすれば「九州産の頂点」を目指すのは当然。復帰戦に、はこべら賞を選んだのも「まずはダート適性を試したい」思惑もあったという。しかし、たんぽぽ賞の出走条件は「中央馬なら500万下在籍」となっている。つまり2勝目を挙げてしまうと“目標”にはエントリーできなくなってしまうのだ。
「俺も(定年まで)残すところ1年ちょい。おそらく最後のたんぽぽ賞になると思うんだ。使いたいんだけどなあ」
テイエムヒッタマゲが予想以上の成長をしてしまったがために、思いも寄らぬ悩みを抱えている。個人的には一般馬相手の、はこべら賞での高配当を期待しているのだが…。
福島キュウ舎にはもう1頭、馬券になりそうな馬がいるので、その紹介も付け加えておこう。21日の京都新馬戦(ダ1800メートル)予定のナムラビクターの全弟ナムラシンウチ(父ゼンノロブロイ、母ナムラシゲコ)だ。
「お兄さんと同じで、速いところをやるとサッパリ」と福島勝助手は苦笑するが、「ナムラビクターもそんな感じであれだけ(中央在籍時7勝)走ったからね。稽古時計は気にしないことにするよ。乗った感じや見た目はそっくりだし、走ると思う」兄も担当していた斉藤キュウ務員も「ビクターは初日から襲いかかってきたけど、こちらは気性が穏やか。それでいて目つきがいいんだ。まあ、いらんことをするのは同じだけど(笑い)」
年明け早々、ベテラントレーナーに春が来るのか。それはこの明け3歳2頭の活躍にかかっている。