噂のサトノアーサー さらなる衝撃を見せる/吉田竜作マル秘週報
◆「本当に走る馬」を体現
昨年の「2歳チャンプ」はいずれも関東馬。ならば関西馬情報中心の当コラムはネタが…とはならないのがありがたいところ。牝馬戦線のソウルスターリングはこの先も不動の中心として揺るぎはなかろうが、牡馬戦線は勢力図が一気に変わる可能性を秘めている。サトノアーサーがいるからだ。
デビュー戦(阪神芝内2000メートル)では先に抜け出したスズカフロンティアを外から強襲。長い写真判定の末、1着同着に。それでも鞍上の川田から笑みが絶えることはなく、「負けなくて良かったです」。
ただ、この時点では期待を裏切られた感覚の方がむしろ強かった。厳しい見方をすれば、外を回ったにせよ、伸びそうで伸び切れない感じ。仕掛けてからの反応も俊敏とは言えず、川田の必死のアクションで“どうにか届いた”印象。もどかしさだけが残った。キュウ舎サイドの期待や川田の高評価と、見た目のギャップが、記者の中ではどうにも消化し切れなかったのだ。
しかし、やはりと言うべきか、記者の目が節穴だったことが次走でハッキリする。シクラメン賞(阪神芝外1800メートル)ではライバルと目されていたアンセムを本命にしてレースを見ていたのだが、切れ者として評価していた本命馬が直線では逆にサトノアーサーに離される衝撃の光景を目にすることに…。しかも初戦とは打って変わって終始、余裕を持った走りだったのだから、もう恐れ入ったとするしかない。
このサークルでは「トレセンに来て調教を積み、レースを使いながら変わってくる馬こそが、本当に走る馬」と言われる。それを体現しているのがこのサトノアーサーなのだろう。それは1週前追い切りに騎乗した西谷のコメントからもうかがえた。
「初戦から2戦目の変わり方がすごかった。乗っていても日々成長を感じますね。それでも例えるなら、野球少年がようやく甲子園目指して予選に臨むくらいの感じかな。これからまだまだ良くなりそう」
かつて日本ダービー馬ネオユニヴァースの調教を手がけるなど、その素質を見抜く力と、オーダー通りに調教をつけることで評価の高い“腕達者”がここまで高く評価するのだから、もう秘めている才能に疑いの余地はなかろう。
ネックとなっていたのは鞍上。デビュー2戦の手綱を取った川田が1月8日の京都競馬で落馬し、腰椎骨折の憂き目に…。そのため、このきさらぎ賞では代役として浜中の名前が挙がった時もあった。実際、1週前追い切りが終わった段階では「現時点では浜中で」と池江調教師も口にしていたのだが、クラシック級の“背中”をいっときも譲りたくない執念か。川田は急ピッチの回復を見せ、一転コンビ継続が決まった。
「1週前はビッシリと負荷をかけた。全体の時計(ウッド6ハロン80.9秒)も優秀だったし、これで直前は半マイルからやれば整うと思う」と万全の態勢を口にした指揮官は「京都の芝1800メートルとなると流れないだろうから、折り合いをしっかりつけて、抜け出すタイミングなどを教えてほしい」と、川田には結果だけでなく、中身も伴ったレースを期待している。
一戦ごとの成長度が桁違いなのが、サトノアーサーの最大のセールスポイント。クラシックの登竜門・きさらぎ賞で、さらなる衝撃の走りを見せてくれるに違いない。