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騎乗馬に異変…出走か取消かの判断を下す騎手の葛藤

  • 2017年02月07日(火) 18時01分
小牧太

今回はジョッキーなら誰もが抱くであろう葛藤を、余すことなく語ってくれました


「競走馬の異変に気づきながらも、出走に踏み切ることはあるのですか?」──今回のテーマは、非常にシビアなテーマです。「その判断をジョッキーがするのは大変なこと」とは小牧騎手。ジョッキーなら誰もが抱くであろう葛藤を、余すことなく語ってくれました。
(取材・文/不破由妃子)


自分を守ることはもちろん、馬を守ることにもなる

──ナムラビクターについては先日も思い出を語っていただきましたが、またナムラビクターに絡んだ質問がきていまして、「残念ながら、ナムラビクターは予後不良となってしまいましたが、ジョッキーがパドックから異変を感じていたという情報を見ました。なぜ出走取消にならなかったのか。取り消していれば、予後不良になどならずに済んだのかと思うと、残念でなりません。このように、異変に気づきながらも出走に踏み切ることは実際にあるのでしょうか?」。ちょっとシビアな内容ですね。

小牧 そうやねぇ…。“これくらいなら大丈夫かな”っていう、あくまでジョッキーそれぞれの判断なんやけどね。実は、その判断をジョッキーがするのは大変なことなんやで。若いジョッキーなんかは、「なんかヘンだな…」と思っても、取り消したら怒られることがある。だから、ジョッキーの判断で取り消すことは、本当に大変なこと。

──本当に大丈夫かどうかは、走ってみなければわからない。取り消した結果、何も異常がなかったら、非難されるのは大抵がジョッキーですからね。ちょっと競馬界の闇の部分かも。

小牧 僕らはベテランだからね。異変も気づきやすいし、若手よりは言いやすいけど、僕ですら「ちょっと歩様が悪かったら、アイツはすぐに取り消す」って陰では言われているらしいから。でも、事故を防ぐという意味で、それはいいことだと僕は思ってる。自分を守ることはもちろん、馬を守ることにもなるから。ベテランになればなるほど、そういうのはわかる。たくさん辛い経験をしてきたんでね。

──「少し違和感はあるけど、まぁ大丈夫かな」と小牧さんが判断されるときは、大抵何事もなく済んでいますか?

小牧 いや、それでもアカンときもあるよ。長い騎手生活のなかでは、「やっぱりか…」という結果になってしまったことも何回かある。やっぱり、実際に乗っている人間にしかわからないし、極端に言えば、レース当日だけおかしいケースもあるからね。そうなると、厩舎スタッフも気づきようがないよね。

──それこそ生き物ですからね。レース当日に急に…ということになると、ジョッキーが判断するしかない。小牧さんは、異変を感じたらもう迷いませんか?

小牧 ダメだと思ったら止める。そこはもう迷わない。馬にも“次”があるでしょう。無理して出走させて故障でもしたら取り返しがつかんし、たとえ僕の杞憂に終わったとしても、それはそれで「よかったね」ということになるわけやし。それで責められたとしても、僕は僕の感覚でこれからも判断する。ただね、これは本当に難しい判断。だから、僕は誰も責める気にはなれん。

──なるほど。取消にもいろいろな葛藤があるということ、小牧さんの言葉で改めて痛感しました。続いては、「最近の太論を読むたび、“自分も頑張らなくては”と励まされています。心が折れそうになることもあるかと思いますが、現役を続けられるうえで、一番支えになっているものはなんですか? また、座右の銘があれば教えてください」というものです。

小牧 座右の銘……ないわ(笑)。支えになっているものは、やっぱり勝った瞬間の気持ちかな。

──勝ったときの喜びが、支えになっているということですか?

小牧 うん。勝ち方にもよるけど、“まだまだイケるやん!”て思える瞬間やから。

──ある意味、自分自身のモチベーションが支えになっているということですね。

小牧 そうやね。自分の気持ちに支えられつつ、ドップリと自分を落ち込ませるのも自分やし。人間なんて弱いもんやね。まぁ、僕の場合、嫁さんには何でも話すけど。

──でも、愚痴を言うと怒られる…。

小牧 そう(笑)。

──でも、小牧さんが何でも話せて、叱咤に徹することができる奥様の存在は偉大ですよ。

小牧 そうやね。人間ね、落ち込むときには何をしたって落ち込むよ。どうしてもそのことばっかり考えてしまうしね。僕なんか、本当にちっさい人間やねん。先週やったかな、トレーナーの先生に「先生、僕…考えすぎて鬱病にかかったらどないしよう」って言ったら、「あ、小牧さんは大丈夫ですよ〜」ってサラッと流されたわ(笑)。

──先生、いいキャラですね(笑)。でも、自分の小ささや無力さを痛感するときって、誰しもあります。

小牧 うん。ホントにね、落ち込んだときはどうしようもないで。誰も僕の頭のなかには入ってこれへんのやから。落ち込んだら、逆にその反動で這い上がらな。糧にせな! と思いますわ。
小牧太

落ち込んだら、逆にその反動で這い上がらな。糧にせな! と思いますわ

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1967年9月7日、鹿児島県生まれ。1985年に公営・園田競馬でデビュー。名伯楽・曾和直榮調教師の元で腕を磨き、10度の兵庫リーディングと2度の全国リーディングを獲得。2004年にJRAに移籍。2008年には桜花賞をレジネッタで制し悲願のGI制覇を遂げた。2024年には再度園田競馬へ復帰し、活躍中。史上初の挑戦を続ける。

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