今年最後のコラムをお届けするにあたり、しっかりと決着をつけておかなければならない命題について言及したい。12月14日、英国競馬の公正を司るジョッキークラブが、3月に発生した『不正疑惑』に関して、全ての調査を終了し、キアラン・ファーロンとジョン・イーガンの2騎手に対してこれ以上制裁を加える考えがないことを明らかにした。これをもってキアラン・ファーロンの潔白が証明され、チャンピオン・ジョッキーはようやく疑惑から開放されたのである。
事の発端は、3月2日にリングフィールド競馬場で起きた。この日の第3R、直線に向いてファーロン騎乗のバリンジャーリッジが後続に大きな差を付けてリード。誰もが勝負は決したと思い、同じように勝利を確信したファーロンが追うのをやめたところ、そこから2番手にいたライが猛追。ゴール地点ではライがバリンジャーリッジを短頭差、差し切ってしまったのだ。
敗戦の確定的な馬同様、勝利が確定的な馬も「追わない」というのが欧米共通の不文律だが、先頭の騎手が後続との差と2番手以下の馬の脚色を読み違えると、稀にこういうことが起きるのだ。言うまでもなく騎手としては重大な過失(『ドロッピング・ハンズ』と呼ばれる)であり、ファーロンには21日間という長期にわたる騎乗停止処分が課せられたのだった。
騒ぎが大きくなったのが、その5日後だった。日曜版のタブロイド紙「ニュース・オブ・ザ・ワールド」が、『ザ・黒幕』という大見出しとともに、『ファーロンはライが勝つことを知っていた』という特集記事を組んだのである。
実はこの記事、『中東からきた競馬ファン』に化けてファーロンに接近したニュース・オブ・ザ・ワールドの記者が、その時の会話の内容を基に書いたもので、ファーロンが自らの騎乗馬10頭ほどの評価を語った内容を、あたかもファーロンが予想行為を行ったかのように掲載したのだ。言及した10頭の中にバリンジャーリッジも含まれていて、「あのレースは1頭強いのがいるね。ライにはちょっとかなわないのではない?」とファーロンが発言していたものだから、『ファーロンは勝ち馬を知っていた』との活字が紙面を踊ることになったのである。
更にこのレースで、マイルス・ロジャーズという、現在競馬活動への関与を一切禁じられている札付きの馬主が、これも諸悪の温床と呼ばれているベットイクスチェンジを通じて大量の馬券を購買していたことが判明。ジョッキークラブは自力での捜査を諦め、警察当局に真相解明を委ねることになったのである。その結果、ファーロンも警察に呼ばれて事情を聴かれることになった。
警察当局からはいまだに事件の終結宣言は出されておらず、ベットイクスチェンジを巡る不正については現在も捜査が続いていると見られるが、膨大な証拠の提出をはじめ、警察とは密接に連絡をとっているジョッキークラブから『お咎めなし』のお墨付きが出たということは、ファーロンに関しては警察の捜査でも不正に絡んだ痕跡は見つからなかったのであろう。
当初から、ファーロンの無実を信じるという立場でモノを言ったり書いたりしてきた筆者としては、まずはホッと一安心というのが現在の心境である。それとともに、『チャンピオンジョッキー無罪放免』という、ポジティヴな話題で1年を締めくくることが出来ることも喜びたい。
2005年が世界の競馬サークルにとって、明るい話題に満ち満ちたものとなることを祈りつつ、今年最後のコラムを閉じさせていただく。皆様、よいお年をお迎え下さい。