中竹師、オーナーの経験が導いた カデナの奇跡/吉田竜作マル秘週報
◆あの仕上げで、あのペースで、外を回って勝てたのは大きい
大抵の出来事は結果から時系列を逆にたどっていけば、因果関係がハッキリしたり、一定の法則なり、それに携わる人たちの考えやその変遷がわかったりするもの。大きなくくりで言うならば、歴史の勉強がこれにあたろうか。
弥生賞勝ちで皐月賞制覇へ一歩前進したカデナ(牡・中竹)も、時間を巻き戻していくと、小さな“奇跡”の積み重ねで、その歴史が彩られていることがわかる。
まずは1つレースを戻して京都2歳S。ここで初の重賞タイトルを手にするのだが、このレースへのエントリー自体が計画通りではなかったのだそうだ。
「あの時点ではまだ1勝馬だったからね。自分の性格からすれば、手堅く自己条件に回っていたと思う」とは管理する中竹調教師。記者もある程度付き合いは長いので、そう自己分析するのも納得がいく。では、なぜ格上挑戦に踏み切ったのか?
さらにレースを1つさかのぼってみる。百日草特別(500万下)では牝馬のアドマイヤミヤビの後塵を拝する2着。この結果がこの世代の「牡馬は弱い」と言われる一因にもなったが、トレーナー自身は不満を感じていなかった。
「直線を向いてから前が開かなくて、だいぶ待たされた。それを思えばよく差を詰めたし、力負けとは思ってない。東京コースも経験できたから」
一方で、この時点でカデナの大きな可能性を感じ取り、新たな進路を切り開いた人がいた。前田幸治オーナーだ。
「レースが終わった後、“次は京都2歳Sに行こう”と。そのうえで今があるわけだけど、何というか“持ってる”んだろうね。時々こういうことがあって、大抵はいい方に向かうんだよ」
前田オーナーの天才的なひらめきが、今回の弥生賞制覇へと結びついた? いや、それだけではない。さらに時間をさかのぼって、デビュー前へと戻してみたい。
カデナが栗東へ入厩したのは昨年の4月中旬。牡馬にしてはコンパクトな馬体だったこともあり、早く仕上げられる感触があったのだろう。ゲート試験を合格した後は、そのまま夏の阪神開催でのデビューも視野に入れた。
しかし、調教役の白倉助手が「まだ体力がないのか、馬がクタクタ。このままデビューさせたとしても…」と体力不足を指摘。中竹調教師も「生まれも早い方ではないし…」と総合的に判断したうえで、早期デビューを諦め、大山ヒルズへと送り返した。
この経緯を知っているがゆえに、記者はPOGでこの逸材をスルーしてしまったのだが…。確実に言えるのは、ここでの放牧でカデナは成長し、基礎体力を身につけたということ。その後の活躍を思えば、この春の決断がまず最初にあり、その後の百日草特別後のオーナーの英断が、弥生賞馬カデナを生んだと言っていい。
しかし、この判断は決して“偶然”ではない。前田オーナーや、中竹調教師、そして厩舎スタッフはここまであまたの失敗と一握の成功を積み重ね、その経験から導かれたのがその時、その時の答えだったのだ。
歴史は将来を映す鏡でもある。過去の弥生賞馬を振り返れば、皐月賞トライアルという枠組みには収まらないほどに、その後に出世を果たした馬は数多い。
「正直なところ、弥生賞は自分でも“なめた仕上げだな”と思っていたし、賞金も加算できていたから“負けてもいい”とも思っていた。この先に本当の勝負が続くわけだからね。それだけに、あの仕上げで、あの遅いペースで、外を回って勝てたのは大きいよね」と中竹調教師。
激戦が予想される2017年牡馬クラシックだが、カデナの未来はもう約束されていると言っていいのかもしれない。