2015年の4月に落馬負傷し、8カ月にも及ぶ休養を余儀なくされた小崎綾也騎手。同年の年末に復帰を果たし、そこから約半年間騎乗を続けましたが、患部の状態が思わしくないということで、昨年6月、再手術に踏み切りました。半年間の休養を経て、年明けに満を持して復帰。今年は早くも7勝と、充実ぶりを見せつけています。第1回目となる今回は、久々の騎乗と勝利の喜び、そして再手術に至るまでの経緯を述懐。3年目に直面した苦悩の日々に迫ります。
(取材・文/森カオル)
一度流れを断ち切ってでも、完全な状態で再スタートを切りたかった
──年明けからレースに復帰し、今年は早くも7勝。まずは無事に復帰されたことに安堵しました。
小崎 ありがとうございます。久しぶりにレースで馬に乗って、馬に乗れることの素晴らしさを実感しました。たっぷり半年間のブランクがありましたからね。
──1月22日の京都3Rで復帰後初勝利(ベルエスメラルダ6番人気1着)。7馬身の圧勝でしたね。
小崎 もう本当に嬉しかったです。レースで乗ったのは初めてだったんですが、自厩舎の馬だったのでいろいろわかっている部分もあって、余計に喜びが増しました。しかも2連勝してくれましたからね。いや〜、嬉しかったですね。そのひと言に尽きます。
──復帰後26戦目での勝利となりましたが、焦りはありませんでしたか?
小崎 うまく乗れなかったレースも多くて、勝つことの難しさは感じていましたが、焦りはそれほどなかったです。今回の休養は、万全の状態でレースに乗るために自分で選択した休養でもあったので。
──2015年に骨折した箇所の再手術をされたとか。どういった経緯があったんですか?
小崎 一昨年の4月に左足の下腿(かたい)骨を骨折して(4月12日・福島9Rで落馬)、12月に復帰したんですが、それ以降もずっと患部の違和感が取れなくて…。もちろん、戻れる状態だと判断して復帰したんですが、骨折した箇所がいわゆる脛(すね)だったので、レースに騎乗するとそこに掛かる負担が思ったよりも大きくて、なかなか状態が上がってこなかったんです。
──脛というと、馬をホールドするためにどうしても力が入る部分ですものね。
小崎 そうなんです。膝から下はレース中に馬と接している唯一といっていい部分ですし、力を入れて挟みますからね。しかも、真っ直ぐに重さが掛かるのではなく、斜めにというか、ちょっとしなるような感じで負荷が掛かる部分なので。
──それでも半年近く騎乗されていましたが、その間、痛みを我慢されていたんですか?
小崎 レース中は痛みを感じなかったんですが、馬から下りたときにはやはり痛みがありました。徐々に良くなってくるだろうと思って乗り続けていたんですが、違和感が解消されないどころか、逆に悪化してしまって…。それで主治医の先生とも相談して、もう一度手術することを決めました。また休むことになってしまうけど、長い騎手人生を考えたとき、ここできっちり治すべきだと思ったので。
──痛みがあったとはいえ、8カ月にも及ぶ休養からようやく復帰したところでさらにとなると、苦渋の決断だったと思います。若手ならなおさら、ついつい無理をしてしまいそうなところを。
小崎 もちろん、このまま乗り続けたいという気持ちはありました。ただ、実際に違和感がありましたし、不安が解消されないなかで騎乗を続けるよりは、一度流れを断ち切ってでも完全な状態で再スタートを切りたかったんです。
──復帰まで半年近くかかることは、再手術を決めた時点でわかっていたんですか?
小崎 はい、それはもう覚悟のうえで。年内に戻れたらいいなと思っていたんですが、次こそは万全の状態で戻りたいという気持ちが強かったので、大事を取って年明けからにしました。
──ジョッキーという職業にはケガが付き物とはいえ、再手術が必要になるケースはあまりないように思いますが、具体的にはどんな手術をされたんですか?
小崎 下腿部には骨が2本あって、一昨年の落馬で2本とも折れてしまったんですけど、太いほうの脛(けい)骨という骨の外側が、治る過程で過剰に盛り上がってきてしまって。で、外側が盛り上がりすぎたせいで、骨の中がうまくくっついていない状態だったんです。
再手術は、その盛り上がった外側の骨を削って腫れが引くのを待ったのち、くっついていない中の骨の亀裂に少しだけ腰の骨を移植しました。
外側が盛り上がりすぎたせいで、骨の中がうまくくっついていない状態だったんです
──それは大変な手術でしたね。かなり痛みを伴うものだったのでは?
小崎 確かに痛みはありましたが、ポッキリ折れていた一昨年ほどではなかったです。最初から半年くらいの休養になることがわかっていたので、精神的にも前回より楽でした。
──確か一昨年の休養中は、「しばらく立ち直れなかった」とおっしゃっていましたものね。
小崎 あのときはそうでしたね。その点、今回は完全な状態で戻れればもっと活躍できる自信がありましたし、前回の復帰以降、支えてくださった方たちの思いを感じながら、前向きに取り組むことができました。もちろん、テレビで競馬を観ている自分に歯がゆい思いはありましたけどね。
──当然ながら、リハビリも一からやり直して。
小崎 そうです、完全にやり直しです。最初の1カ月は、入院しながら非過重下で患部の周りの筋肉を動かすことから始めて。後半はだいぶペースを上げていったので筋力は割とすぐに戻りましたけど、かなり慎重に進めていきました。
──6月半ばの手術でしたから、夏以降はリハビリ漬けだったわけですね。
小崎 はい。歩けるようになってからは、高気圧酸素治療を受けるために東京の東芝病院に通ったりしていました。ほかにもできることはすべてやったくらいの実感があります。その甲斐あって、今はもうまったく痛みがありません。万全な状態で乗れているのが何よりです。
(次回へつづく)