
▲先月23日に引退が発表されたアルビアーノ(写真はフラワーC優勝時、撮影:下野雄規)
移籍初年度には82勝を挙げるも、勝ち星は徐々に減り、5年目の2009年には14勝に。もがいている中で浮上のきっかけとなったのが、ヤマニンメルベイユとヤマニンキングリー姉弟でした。馬や人との良縁がどんどんとつながり、アルビアーノとめぐり合います。自身の悲願でもある“GI制覇”が見えたNHKマイルCは、惜しくも2着。先月引退となったアルビアーノとの思い出を語ります。(取材:赤見千尋)
(前回のつづき)
藤沢和師の縁でノーザンファームの馬に
赤見 移籍初年度には82(中央・地方合計)もあった勝ち鞍が徐々に減っていって、5年目の2009年には14勝に。そこからまたよく這い上がってきましたよね。
柴山 いやぁ、自分で這い上がったというより、周りの人に引き上げてもらった感じだよね。ただ、俺自身にも「チャンスがきたときに結果を出せばまだまだ大丈夫」という気持ちがどこかにあった。逆にいえば、その気持ちだけだったね。
赤見 浮上のきっかけとなった具体的な“チャンス”というと?
柴山 這い上がろうともがいてるときに出会ったのがヤマニンメルベイユかな。重賞を2つも勝たせてもらって。
赤見 メルベイユも印象的ですし、その弟のヤマニンキングリーもインパクトが大きかったです。札幌記念では、凱旋門賞を控えたブエナビスタを退けて…。
柴山 KYっていわれたやつね(笑)。
※レース直後、ブエナ陣営から凱旋門賞への出走を断念することが発表された。

▲姉ヤマニンメルベイユの中山牝馬S優勝時(撮影:下野雄規)

▲弟ヤマニンキングリーの札幌記念優勝時(撮影:高橋正和)
赤見 そうでしたね(笑)。やはりヤマニンのオーナー(土井肇氏)には恩を感じていらっしゃいますか?
柴山 それはもちろんです。ちゃんと見てくださっていたというか、オーナーからの叱咤激励が力になっていたところがあるから。当時、ヘコんだときによく牧場に行っていて、そこでよく土井さんとご飯をご一緒させていただいてね。土井さんから「何やってんだよ。あんた、初年度何勝したんだよ」って言われて、「82勝です…」と答えると、「そんな人が何やってんだよ。全然勝ってないじゃん」て。
赤見 さすがオーナーですね。ほかの人ではなかなか言えないようなことをズバっと。
柴山 そうそう(笑)。「あんた、やればできるんだから頑張りなよ」って、いつも笑いながら励ましてくださった。そのおかげで、牧場から帰るときにはいつも、“よし、頑張ろう!”という前向きな気持ちになれてね。そもそも、その牧場に行くようになったのはメルベイユがきっかけで。だから、俺にとってメルベイユに出会えたことが大きかった。
赤見 そうでしたか。メルベイユはどんな馬でしたか?
柴山 めっちゃ可愛かったです。大好きだった。けっこう神経質で、気が強い割にはほかの馬を怖がったりして。でも、レースではそれほど難しいところはなくて、気分良く走らせてあげることだけを考えて乗っていたら、あとは馬が勝手に走ってくれた。いや~、好きだったな、あいつ。
赤見 思い入れたっぷりですね~。ヤマニンキングリーで札幌記念を勝ったあと、しばらく重賞勝ちが空きましたよね。今思うと、ちょっと意外というか。
柴山 そう? その時期はなかなか重賞にも乗れなかったし、ローカルに行ったりもしていたから。そこからまた本場で乗れるようになったのは、やっぱり藤沢先生のおかげです。
赤見 どういうご縁で藤沢和厩舎の調教を手伝うようになったのですか?
柴山 5年前くらいだったかな、函館で「調教、暇か? 暇なら乗ってくれよ」って先生から声を掛けてくださってね。最初は冗談かと思ったんだけど、その会話をきっかけに本当に調教を手伝わせてもらうようになって。その後、競馬にも乗せてもらえるようになり、その縁でノーザンファームの馬にも乗せてもらえるようになり…。それで今につながる流れができた感じかな。
「馬と似てるって言われたの初めてや(笑)」
赤見 そうだったんですね。で、その流れの先に待っていたのがアルビアーノで。
柴山 引退しちゃったねぇ。いざ引退となると、いろいろ考えるよね。絶対にGIを勝てる馬だと思っていたから。GIを勝たせることができなかったこと、最後のほうは乗れなかったこと…それが心残りかな。
赤見 最後の4戦こそ外国人ジョッキーでしたが、デビューからずっと一緒に戦った馬ですものね。
柴山 うん。でも、デビュー戦は当初、(北村)宏司が乗る予定やった馬で。予定がずれて、俺が乗れることになった。そういう経緯があったから、なんていうか…馬との出会いって不思議やなと思う。
赤見 女の子だけど超ムキムキで、すごい馬体をしていた馬でしたよね。
柴山 そう、ムキムキやった(笑)。
赤見 なんか、ムキムキな感じが柴山さんと似ていたような…。
柴山 馬と似てるって言われたの初めてや(笑)。競馬の前も、普通に常歩ができるくらい性格もどっしりした馬でね。安心して乗っていられる馬だった。

▲「馬と似てるって言われたの初めて(笑)。ムキムキで性格もどっしりした、安心して乗っていられる馬だった」
赤見 最初から重賞級だと思いましたか?
柴山 うん、すごくいい馬だなって。でも、デビュー戦の返し馬では、そこまでは感じなかったかな。当日初めて跨ったんだけど、最初は「ちょっと硬いな。芝じゃないかも」って。でも、いざレースにいったらめっちゃ走ってね。使うたびに、だんだん芝の走りになっていって、そのあたりはすごく勉強になったよ。
赤見 デビュー戦からフラワーCまで3連勝。フラワーCは1番人気でしたが、その先を考えると、“負けられない!”というプレッシャーがあったのでは?
柴山 いや、あのときは内枠だったし、小細工はいらないなと思った。馬を信頼して、自信を持って乗るだけだなって。そう思えたから勝てたんだろうね。常にそう思って乗らなアカンなと最近は思うよ。
赤見 でも、馬との信頼関係ができていないと、なかなかそうは思えないのでは?
柴山 そうなんだけど、競馬の前に「ここを気を付けよう」ではなく、「この馬はここがいいところだから、それを引き出してあげよう」と考えるようになった。何事もプラスにね。それはアルビアーノが教えてくれたことかもしれない。
赤見 それにしても、NHKマイルCは惜しかった! 勝ったと思いました。
柴山 俺も。あの時点では、馬に対してそこまで切れるイメージがなかったから、ある程度セーフティリードを保ちつつ……
赤見 積極的に動いていったと。
柴山 早かったよね…。逆に相手(クラリティスカイ)のウイニングロードを作ってしまう形になったから。もう少し我慢していれば勝っていただろうなって今ならわかるもんね。反省したよ。もっと信じてあげなアカンかった。
赤見 着差が着差(コンマ2秒)だけに悔しいですよねぇ。4番人気でしたが、緊張はしませんでしたか?
柴山 NHKマイルCは緊張しなかったな。ロックドゥカンブの菊花賞は、めちゃくちゃ緊張したけど。あの経験があったから、アルビアーノでは自信を持っていけたんだと思う。
赤見 柴山さんにとってロックドゥカンブも大きな存在ですね。
柴山 うん、かなり大きい。だって、クラシックで1番人気なんてなかなか乗れないでしょ。
赤見 想像するだけで震えます…。

▲「クラシックで1番人気…想像するだけで震えます」
柴山 今でもあの菊花賞のときの心境が自分でわからないもんね。それまで前目で普通に競馬をしていたのに、出遅れたにしろ、なんであんなに後ろから? みたいな。我ながら不思議で仕方がない。
赤見 でも、そういった数々の馬たちによる経験が血となり肉となり。それで今があるんですものね。
柴山 どんな馬にも、本当に貴重な経験をたくさんさせてもらってきた。何年乗っても完璧に乗れたと思えるレースなんてなかなかないし、今でもまだまだ馬に教えてもらっている感じやもんね。
(文中敬称略、次回へつづく)