東京では木曜日の夜半から雨になり、それほど長くは降らなかったが、週末もぐずついた天気になりそうだ。桜花賞が行われる阪神競馬場も同様で、芝コースは稍重か重になることが予想される。
かき込むような走法だったり、蹄が小さいと、滑ったり、ぬかるんだりする馬場でも問題なく走れる――というのが、道悪巧者の特性の定説になっている。
昔は「重の鬼」だとか「脚に水かきがついている」などと言われるくらい道悪を得意とする馬がよくいたものだ。しかし、最近は、例えば先月の高松宮記念を勝ったセイウンコウセイが、勝利騎手インタビューの幸英明騎手のコメントで重が上手だと広く知られるようになったぐらいで、「鬼」だとか「水かき」といった言葉をとんと聞かなくなった。
血統でも、シャトーゲイだとかサーペンフロだとか、この血が入っていれば重はドンと来い、という種牡馬が珍しくなかったように思うが、近年は、血統面での重の巧拙の差が小さくなったように感じられる。
それはなぜだろう。
やはり、馬場の維持管理技術が進歩して、同じ重や不良の発表でも、昔ほどひどい荒れ方ではなくなったからなのか。
と思っていたら、クリストフ・ルメール騎手が、ソウルスターリングは母の父がモンズーンだから重馬場は問題ないとコメントしていた。あの重厚なヨーロッパ血統なら、どの血が入っているからとかではなく、荒れて力のいる馬場でも力を発揮できそうな気もするが、いずれにしても頼もしい。
ソウルスターリングは、桜花賞の大本命になるだろう。ここでは仮に、大本命の定義を単勝1倍台、としたい。
過去10年の桜花賞で、単勝1倍だった大本命は--。
2007年 ウオッカ 1.4倍 2着
2009年 ブエナビスタ 1.2倍 1着
2014年 ハープスター 1.2倍 1着
2015年 ルージュバック 1.6倍 9着
2016年 メジャーエンブレム 1.5倍 4着
5頭が当てはまるということは、2年に1度は大本命が現れているわけだ。
勝率は4割、連対率は6割。これを高いと見るか、低いと見るか。
ちょうど10年前から、桜花賞は、直線の長い阪神外回り芝1600メートルで行われるようになった。その前年までは、ゲートを出てすぐコーナーがあるトリッキーなつくりで(1991年に改修される前は、さらにカーブがきつかった)、そこで外を回らされると大きく距離をロスした。そのため、桜花賞を勝つには「テンよし、中よし、終いよし」の三拍子が揃っていなければならないと言われていた。それに対して、今は、何より「終いよし」のコースになっている。
では、20年前から11年前まで、桜花賞の大本命はどうだったのか。
2000年 サイコーキララ 1.8倍 4着
2001年 テイエムオーシャン 1.3倍 1着
これら2頭だけだ。やはり、不確定要素が多かったため、圧倒的な支持を得る馬が出にくかったのだろう。
紛れが少なく、力どおりに決まることの多い舞台設定になってから、大本命が出やすくなった。その初年度である07年にウオッカを破ったのはダイワスカーレットだった。牝馬GIを3勝したほか、翌年の有馬記念を勝つなどした歴史的名牝である。ウオッカがダービーやジャパンカップを勝ち、ライバルのスカーレットも力を見せつづけたことにより、牡馬戦線と牝馬戦線との間にあった壁がとり払われたと言える。
ソウルスターリングのスケールは、現時点ですでにワールドクラスという感じがするし、爆発力という点では、来週の皐月賞に出走するファンディーナはその上を行く可能性もある。10歳上のウオッカとダイワスカーレットのように、ライバルとして、牡馬勢を蹴散らしながら熱い戦いを見せてくれるか。
エアグルーヴが天皇賞・秋を勝って年度代表馬になったのは1997年だった。
さらにその10年前、1987年にはマックスビューティが圧倒的な強さで二冠牝馬となり、ダイナアクトレスがジャパンカップで3着となるなど、女傑が活躍した。
エアグルーヴの血はドゥラメンテ、マックスビューティの血はココロノアイ、ダイナアクトレスはスクリーンヒーローといったように、それぞれの形で今につながれ、活力を失っていない。
1987年、1997年、2007年、そして2017年。
10年周期で巡ってくる、スーパー牝馬たちの競演を、今週末から存分に楽しみたい。