今週の天皇賞・春で、キタサンブラックとサトノダイヤモンドが激突する。
昨年の有馬記念につづく2度目の直接対決となるわけだが、今度はどちらが勝つのだろう。
こう書きながら、ビッグレースでの一騎討ちには、2種類の「どちらが」があることに気がついた。
1980年代後半に競馬を始めた私が、一騎討ちとしてまず思い浮かべるのは、ニッポーテイオー対タマモクロスの戦いが注目された1988年の宝塚記念だ。前年の天皇賞・秋、マイルCS、そしてこの年の安田記念を制した旧6歳馬ニッポーテイオーと、前年秋から6連勝中で、この年の天皇賞・春でGI初制覇を遂げた旧5歳馬タマモクロスによる初対決だった。
中距離王と長距離王が間をとって戦ったこの一戦の前は、「どちらが強いのだろう」とドキドキハラハラさせられた。勝ったのはタマモクロスで、ニッポーテイオーは2馬身半差の2着だった。
タマモクロスは、次走の天皇賞・秋で、当時旧4歳だったオグリキャップと初めて対戦し、優勝。つづくジャパンカップも引退レースとなった有馬記念もオグリとの「芦毛対決」となり、ターフを沸かせた。
オグリとの初顔合わせだった秋天では「どちらが強いのだろう」とドキドキさせられ、次からは「今度はどちらが勝つのだろう」とワクワクさせられた。
当たり前と言えば当たり前なのだが、メジロマックイーン対トウカイテイオーの「天下分け目の決戦」として盛り上がった1992年の春天は、両雄が初対戦だったので「どちらが強いのだろう」とドキドキさせられ、2007年から2008年にかけて繰り返されたウオッカ対ダイワスカーレットの名牝対決は、「今度はどちらが勝つのだろう」とワクワクしながら競馬場に行った。
「どちらが強いのだろう」→「どちらかが負けるなんて、信じられない」→「結果が出るのが怖いくらいだ」と高まっていく緊張感も、「今度はどちらが勝つのだろう」→「応援している側は勝てるだろうか」→「勝てよ、信じているから」とエスカレートしていく高揚感も、超ハイレベルな一騎討ちでこそ味わえるもので、私は大好きだ。
前にも書いたが、私は年齢のわりに競馬を始めたのが遅く、同時代でシンボリルドルフのレースを見ていなかったことが、ずっとコンプレックスになっていた。ルドルフが史上初の無敗のクラシック三冠馬となったのは1984年。私が20歳になった年のことだった。
そのコンプレックスを吹き飛ばしてくれたのが、2005年に史上2頭目の無敗の三冠馬となったディープインパクトだった。私にとってのディープは「最近の馬」なのだが、ふと気がつけば、引退してから10年以上経ってしまった。
私の「ルドルフコンプレックス」と同種の「ディープコンプレックス」を感じていた人は、2011年に三冠馬となったオルフェーヴルを見て、解放されたはずだ。
一騎討ちに関しても同じことが言える。
私は、ミスターシービー対シンボリルドルフの一騎討ちを見ていなかったので、「歴史的一騎討ちを知らないコンプレックス」があったのだが、それを、メジロマックイーン対トウカイテイオーの春天や、ウオッカ対ダイワスカーレットの秋天が払拭してくれた。
時間が経つのは早いもので、マック対テイオーは四半世紀前、ウオッカ対スカーレットも10年前の過去に押しやられようとしている。
それらを知らなくても、自分はすごい一騎討ちを同時代で目撃したからいいのだ――と思えるレースを、キタサンブラックとサトノダイヤモンドに見せてほしいと思う。
シンボリルドルフの走りに酔いしれた人は、これ以上強い馬が現れることはない、と思ったことだろう。
ところがディープインパクトが現れた。
ディープの強さに圧倒された私は、これ以上の馬どころか、これ級の馬すら、生きているうちには見られないだろうと思っていたら、オルフェーヴルが、凱旋門賞で圧勝かと思われた2着になり、驚愕させられた。
「化け物」としか言いようのないオルフェの強さもそうだし、こんな短期間のうちに「ディープ級」と言える馬が現れたことに対する二重の驚きだった。
武豊・ナリタブライアンと田原成貴・マヤノトップガンが800mにわたって叩き合った1996年の阪神大賞典。ウオッカとダイワスカーレットが死闘を演じ、「ゴールした瞬間レジェンドになった」と言われた2008年の秋天。これらを上回るインパクトの一騎討ちを、私はまだ見ていないし、見られるような気がしていないのだが、きっとそれは錯覚なのだろう。
史上最高のベストホース、そして、ベストレース。
ベストだと信じざるを得なかったものを更新する、さらなるベストが必ず出てくるのが競馬というスポーツだ。
「ベストを更新するベスト」との出会いに胸をときめかせながら、6週連続のGIを楽しみたい。