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現場に投げられたボール

  • 2005年01月25日(火) 19時50分
 先週に引き続き、笠松競馬のその後のことを書く。

 去る1月16日に、笠松・岐南両町長を含む笠松競馬の関係者6名が、北海道静内を訪れ、生産者ら13名と非公式に会談したことについては前回触れた通りである。

 その後、19日(水)には、かねてより予定されていた「笠松競馬対策委員会」が県庁で開催され、そこでは主として「ライブドア参入の是非」についての審議が行われたと聞く。結果は多数決で「参入を拒否」。主催者である県と笠松・岐南両町はもともと「赤字補填に税金を投入せず」という“予防線”を張り、「私たちは金を出せないけれど、ライブドア社でも北海道の生産者連合でも誰でもいいから赤字補填してくれるのならば、笠松競馬は存続できるかも知れません」との姿勢を崩していない。それは未だに続いている一貫した「基本路線」らしく、存続運動の最大の障害にもなっているのである。

 さて、21日付けの中日新聞岐阜版にはこんな記事が掲載された。「赤字ゼロ予算を試算」との見出しで「(笠松競馬が)レースの賞金カットや人件費削減などで新年度の単年度収支を赤字ゼロにできるとする試算を、同競馬を運営する県・笠松、岐南両町の職員らがまとめた」というのである。

 そして記事は「試算は主催者や馬主らの“痛み分け”で、廃止論の最大の理由だった累積赤字発生の回避を目指す内容になっている」と。

 そして「知事や両町長、同競馬へ参入を検討している北海道の競走馬生産者らに近く提示する」とあり、「関係者(競馬組合の?)は『現場の理解が得られれば(新年度予算編成は)可能』としている」と記されている。さらに「北海道側の協力も伴えば、存続「につながる可能性もある」と続く。

 その「赤字ゼロ予算」なるものはどうやら26日(水)に現場の厩舎関係者に提示される見通しだというが、いったいどんな内容なのか?

 中日新聞の同記事にはその一端が紹介されているので引き続き引用する。「試算は3年分で、売り上げは毎年約14%減と想定。その上で一年目となる新年度は、レースの一部廃止や、賞金の減額で3億7000万円。同競馬予算から賃金を払っている県職員の返上などで4500万円。予算全体の見直しで、単年度収支は4800万円の黒字(!)になる」という。

 詳細はこの予算案を見なければ何ともコメントできないが、しかし、「主催者や馬主らの“痛み分け”」というのは正しくない。主催者(県と両町)は、税金投入でもしない限りどこも痛くないのだ。強いて言えば両町から職員を1人ずつ派遣して県職員の抜けた穴を埋めるという部分だけである。まさに、この「今の売り上げだけで経営が成り立つ予算編成」ともいうべき「赤字ゼロ予算」。これを受け入れられるかどうか、主催者はボールを現場に投げてきたというわけだ。

 かなりの賞金諸手当削減案が盛り込まれているだろう。そしてあるいは「レースの一部廃止」とあるのでひょっとしたら「交流重賞の廃止」なども考えられる。組合の作成した内部資料「笠松競馬の概況等」によれば、平成16年度の「勝馬賞金等」に充当された金額は15億669万8000円。年間1230レース分の賞金と出走手当の総額がこれである。この金額よりさらに3億7000万円の削減案というと、果たして末端の一般競走はいくらまで落ちるのか?

 さて、その「赤字ゼロ予算」編成と平行して、北海道側(といっても実際に窓口となっているのは一個人である。念のため)には、相変わらず笠松側から、「北海道に支援を求める」動きが続いている。それは「公益法人設立のための寄付」だったり、「新年度の競馬開催に必要な現役馬の入厩」だったりと、つまるところ「馬と金」との支援に尽きるわけだが、24日(月)に岐阜県庁で開催された「競馬議会」(笠松・岐南町議8名、県議8名の16名で構成)とその後引き続き行われた知事と両町長との「三者会談」の結果、岐阜県知事梶原拓氏は「存廃」に関しては明確な結論に至らなかったことを明らかにした。

 ただ、自身の任期が2月5日で期限切れとなるため、それまでは最終判断を下したい意向という。それには、まず「現場が赤字ゼロ予算を受諾すること」と「北海道からの支援」が鍵を握ることになりそうだ。

 かくして、老練な官僚たちにより厩舎の現場と生産地とが「宿題を預けられた」格好になってきた。主催者の意図はこうだろう。「廃止するも存続するも彼ら次第だ」と。つまり、批判の矢面に立つことを厭うがあまり、あくまで自主判断をせずに、他者へ判断を委ねる姿勢に切り替えたのである。実に狡猾極まる話だ。「うまく行けば、血を流さずに存続させられるかもしれない。そうなれば当面の補償など、廃止に伴う補正予算も必要なくなる」わけでまさに、「思う壺」なのだ。

 ここ10日が「最後の山」である。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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