大親友二人の“約束”とは…(左)坂井瑠星騎手、(右)川又賢治騎手
現在、師匠である森先生の指示で、厩舎の2階に住んでいるという川又騎手。今の時代、とても珍しいことですが、そんな状況も粛々と受け入れ、日々精進している様子からは、川又騎手の芯の強さが伝わってきます。大親友・坂井瑠星騎手との関係性においても、彼ならではの徹底したルールが! 最終回となる今回も、川又騎手の素顔をたっぷりとお届けします。
(取材・文/森カオル)
キャラ解放は、もっと自信がついてから
──川又騎手は現在、厩舎の2階に住んでいらっしゃるとか。今の時代だとかなり珍しいですよね。それは先生の指示で?
川又 そうです。それこそ今の時代、何かとSNSに上げられてしまったりするじゃないですか。その点、厩舎に住んでいれば遊びにも行きませんし、とりあえず20歳になるまではということで(今年11月に20歳に)。実際、夜も飼い葉をつけたり、ボロを取ったり、仕事はたくさんあるんですよ。
──それにしても、最初は「何で俺だけ…」とは思いませんでしたか?
川又 それはまったく思いませんでした。競馬の世界のことを全然知らなかったので、単純にそういうものなのかなと。それに、わからないながらも、森先生の指示は絶対だということは最初から感じていたので。
──ちなみに、厩舎ではどんな毎日を送っていらっしゃるんですか?
川又 今は6時乗りなので3時くらいに起きて(取材時)、厩舎の方が出てくる前に作業をするための道具などを準備します。それから厩舎作業を手伝って、馬装をして、調教に乗って…という感じです。調教が終わったら、また厩舎作業を手伝って、その後はトレーニングをしたり。
──お食事はどうされているんですか?
川又 お昼は寮(独身寮)まで行って食堂で食べてます。夜はスタッフの方に連れて行ってもらったり、厩務員さんのお宅でごちそうになったり。みなさんにお世話になってます。
──たまには瑠星騎手とご飯を食べに行ったりも?
川又 はい。二人でというよりも、競馬終わりに瑠星騎手がみなさんと食事に行くときに僕も誘っていただいてます。
──中学時代の大親友でありながら、今は先輩後輩ということで、普段話をするときも敬語を使ってるんですって?
川又 はい。二人のときもちゃんと敬語で話しています。ラインも敬語ですよ。
──それは徹底してますね! 瑠星騎手は「中学時代の関係に戻りたい」とおっしゃっていましたよ。
川又 僕も本当は戻りたいです…(苦笑)。ただ、僕はまだ全然なので、肩を並べられるくらいになってからじゃないと…。でも、いつかは以前のように普通に付き合えるようになりたいです。僕次第ですよね。
いつかは以前のように普通に付き合えるようになりたいです。僕次第ですよね
──それは大きなモチベーションにつながりますね。今回、瑠星騎手にコメントをいただいたんですが、そのなかで「同じスタートラインに立てたので、一緒に夢を追いかけていきたい」とおっしゃっていました。
川又 はい。「二人でダービーの舞台に立ちたいね」とか「ハナ差でどっちが勝つか」とか、よく話してました。いつか実現したいですね。
──大親友同士が同じ世界で競い合うなんて、なかなかないことですからね。お二人の今後が本当に楽しみです。競馬学校卒業時の資料によると、目標とする騎手は福永祐一騎手だそうですね。
川又 はい。学校生のときに騎手付き研修というのがあって、開催日に先輩騎手に付いて一日勉強するんです。そのときにお世話になったのが祐一さんで。森厩舎に親戚の方がいらっしゃるということもあって、いろいろ教えていただいています。考え方とか、本当に素晴らしい方ですよね。尊敬しています。
──具体的にはどんなところに憧れますか?
川又 人が考えつかないようなことを実践されていたり、レース映像を観ながらいろいろと教えていただいたときも、すべてが理にかなっているというか。僕がやってみたいなと思う乗り方を実践されていますし、いつかは祐一さんのように乗れたら…と思っています。
──福永さんは理論派のジョッキーだと思うのですが、そのあたり、ご自身ではどう思われますか?
川又 僕も理論派でいきたいんですけど……、頭が良くないのでどうなんでしょう(苦笑)。まだ理論立てて乗れるほどの技術もなければ、当然感覚もつかめていませんし…。
──まぁそこはこれからですものね。今の川又騎手からは、とにかく気持ちの強さを感じます。ストイックですよね?
川又 常にストイックでいたいと思っています。厳しい世界だということはわかっていたので、学校時代も自分なりに精いっぱい頑張ってきたつもりですが、いざデビューしてみたらやっぱり通用しないわけで…。だから今は、もっともっとストイックでありたいという気持ちが強いです。技術面で負けたくないのはもちろん、同期の誰よりも活躍したいという気持ちも一番強いつもりです。
──芯の強さは十分に伝わってきましたが、キャラ的にも昔のやんちゃキャラのほうが競馬界は生きやすいかもしれませんよ。
川又 僕もそう思うんですけど…、キャラを解放するのはもうちょっと自信がついてからにします(笑)。
キャラを解放するのはもうちょっと自信がついてからにします(笑)
──わかりました。キャラ解放のときを楽しみにしています(笑)。では最後にファンに向けてメッセージをお願いします。
川又 今はまだまだ下手な乗り方をしてしまっていますが、もっともっと上手くなっていける自信があります。これからはもっと積極的な競馬を心がけていくので、強気な競馬に注目してください。何より、ファンのみなさんの期待に応えられるよう精一杯頑張りますので、僕の馬券をたくさん買ってほしいです!
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【坂井瑠星騎手からのメッセージ】 川又とは中学2年のときに同じクラスになって、自然と一緒に遊ぶようになりました。同じクラスだったのはその1年だけですが、いつも一緒にいましたし、本当に大親友です。
僕が騎手を目指していることは周りの友達も知っていたのですが、川又は野球をしていたこともあって、みんな普通の高校に行くものだと思っていました。ただ、僕は薄々気づいていましたけどね(笑)。
川又は中学3年から騎手を目指し始めたので、二度目の挑戦で受かったときは本当にビックリしましたね。まさか受かるとは思っていなかったので(笑)、信じられませんでしたが、僕もすごくうれしかったのを覚えています。
今回、「応援メッセージを」ということだったのですが、期がひとつ上というだけなので、「応援メッセージ」となると上からになってしまうようで…。今は「頑張れ」ではなくて「一緒に頑張ろう」という気持ちです。先輩後輩ではなく、中学時代の仲間として一緒に頑張って行きたいです。
矢作先生が僕を大事にしてくださっているように、川又も森先生に大事にされているのが伝わってきます。そのことに感謝して、今の環境を大事にしていってもらいたいです。
川又から競馬学校を受けると聞いたとき、「何年後かには一緒にダービーに乗りたいね」という話をしたんです。そのときは夢でしたが、もしかしたら本当にそれが叶うかもしれない。大きな舞台でいつか一緒に戦えるかもしれないと思うと、今からワクワクしますね。本当に楽しみです。
最後にひとつだけ。競馬学校の教官から、先輩には敬語を使うように教えられてきたので、今も敬語のままなんですけど…。僕としては、早く昔みたいな関係に戻りたいなと思っています(笑)。
坂井「僕としては、早く昔みたいな関係に戻りたいなと思っています(笑)」